第144話 通行止め
荷馬車に乗ってアクアラスに向かう。
大きい馬車を使ってくれたので、荷物が乗っていても狭くはない。
「どこかで会わなかったか?」
馬車で揺られていると、護衛の男に聞かれる。
この馬車には僕達の他にサンドスパイクという冒険者パーティが護衛として乗っている。
Cランクの男2人のパーティだ。
「まだDランクですが、僕達も冒険者なんです。もしかしたらギルドで見掛けたのかもしれませんね」
「そうだったか。何かの依頼でアクアラスまで行くのか?」
「いえ、観光です」
「そうか。あそこは何もないが食う物は美味いぞ」
「そうなんですね。それは楽しみです。先輩方は護衛依頼をよく受けられるんですか?」
「ああ。気配を察知するスキルをもっててな。戦闘も出来るが、襲われる前に危険を回避出来るから向いているんだ」
「それは羨ましいです。頼りにしてます」
雑談をしながら進んでいき、砂漠を抜けて山の麓まで来たところで、問題が発生する。
「盗賊の目撃情報があるようで、ここから先は通行禁止だそうです」
御者に言われる。
また盗賊か。
この世界には賊が多すぎる。
いや、スキルとか魔法とかで個人が力を得やすい世界だから、こうなるのもわからなくはないか。
だからこそ、捕まった時の罰が厳しいのかもしれない。
それを抑止力にしているのだろう。
「どうしようか?」
僕は確認する。
「どうするもなにも行き止まりなら仕方ないだろ」
「このままスカルタまで戻るってことですよね?」
僕は御者に確認する。
「そうですね。この道を通らなければ山を越えるしかないので」
「山を越える道はあるということですよね?」
「ありますが、馬車は通れませんので使うことは出来ませんよ。それに魔物に襲われる可能性が高いです。魔物の数が増えたことから、あの道を使う者はいません」
「少しだけ時間をもらえますか?」
僕は引き返すのを少し待ってもらい、他の人には聞こえないように離れてから、どうするのか相談する。
「戻るのは良くないと思うんだけど、それよりは魔物に襲われる方がいいんじゃないかな?」
「馬車は通れないって言ってたよ?」
「仕方ないから歩くしかないね。幸い、僕のストレージにテントとかも入ってるし、必要な物は揃ってるよ」
「山を越えてアクアラスまで行ったとして、帰りはどうするんだ?賊が捕まるまでは道が封鎖されたままかもしれない。帰りも山を越えたとして、その時にここに馬車はないだろ?」
「海路もあるんだよね?帰りは海から他の所に行こうよ。一度スカルタに戻らないといけないことは無いでしょ?」
「確かにそうだな。それなら俺は歩いても大丈夫だ」
「ヨツバとイロハは?」
「私も歩いてもいいよ。最初の時も歩いて移動したし、その時に比べれば近いでしょ?魔物も危険だけど、得体の知れない人がいるかも知れないところに戻るよりは安全じゃないかな」
そういえばこの世界に来てすぐの頃にヨツバとは歩いて移動したな。
「魔物が出たら助けてくれるよね?」
「相手にもよるけど、魔物の相手は全部僕がしてもいいから、イロハは2人に守ってもらってればいいんじゃないかな?それから、前に渡した仮面は持ってるよね?」
「うん」
「それを付ければ自動で防護魔法を張ってくれるから、危ないと思ったら付けて隠れてて。危険な魔物が出て来たら、手遅れになる前に逃げる判断をするから」
「お願いね」
「僕達は歩いてアクアラスに向かいます。ここまでありがとうございました」
僕はここで降りることを御者に伝える。
「正気か?魔物が出るって聞いてなかったのか?」
護衛の人に言われる。
「自衛は出来ますので大丈夫です」
「お前らがどれだけ戦えるのかは知らないが、この山ではヘルハウンドの目撃情報が何度もある。観光の為に命を捨てるな」
ヘルハウンドか。
遺跡と違って周りに取り巻きがぞろぞろとはいないだろうけど、大分戦い慣れた相手だし問題はないかな。
ヘルハウンドが5匹くらい群れてたら危ないけど、数匹くらいなら倒せるだろう。
「ご忠告ありがとうございます。でも、アクアラスでは観光しかしませんが、その後船で移動するつもりなんです。スカルタに戻るわけにはいかないので、気を付けて行ってきます」
「どうしても行くのか?」
心配してくれるのは嬉しいけど、もう決めたことなので行かせて欲しい。
「はい」
「恨むなよ」
「うわっと……。えっ?なにするんですか」
いきなりサンドスパイクの2人が殴りかかってきた。
寸前でアラームのスキルが鳴ったので避けれたけど、意味がわからない。
「ストーンバレット」
「ぐふぅ!」「かはっ!」
仕方ないので石を腹に射出して、息を吐き出し膝をついた所を縛る。
もしかしてこの2人が平山君を殺したのかな?
ここに来るまでの間に話した感じだと、ノリのいい人達って印象だったのに。
「何で襲ってきたんですか?」
「お前Dランクだってのは嘘だったのかよ」
「嘘じゃありませんよ。昇格試験をずっと受けてなかっただけですけど、先日Dランクになったばかりです。そんなことよりも僕の質問に答えてもらえますか?」
困ったな。この人達が賊か何かなんだとしたら、荷馬車の護衛がいなくなるな。
サンドスパイクの2人を衛兵に突き出す必要もあるし、アクアラスに歩いて行きにくくなってしまった。
「思い出した。お前、ギルマスと戦ってた奴だろ。お前らが歩いてアクアラスまで行くなんて言うからだ」
サラボナさんとの模擬戦を見ていたらしい。
「意味がわからないんですけど……」
この人は何を言ってるんだろうか。
僕達が歩いてアクアラスに向かうと、この人達に何の問題があるんだ?
「お前らがDランクだって言うから、冒険者の先輩として死なないようにギルドに連れて帰ろうとしたんだ。ヘルハウンドの目撃情報があると言っただろう。Dランク冒険者が出会ってしまったら助からない。忠告したのに話を聞かないから気絶させてでも連れ帰ろうとした。お前らが行こうとしている道には魔物が多く出る。ヘルハウンドに出会わなくても危険だ。馬に乗ってるなら逃げられるかもしれないが、歩きでは逃げることも出来ない」
僕達を心配した結果、強硬手段に出たらしい。
「どう思う?」
僕は彼らが本当のことを言っているのかわからないので、3人に聞いてみる。
「護衛はいつもこの方達なんですか?」
桜井君が距離を取っている御者に聞く。
「え、ええ。そうです」
御者がオドオドしながら答える。
「この人達は信用に足る方達でしょうか?言っていることが確かであれば、少しお節介だったというだけで優しい方ということになりますが、助かりたいからでまかせを言っている可能性もあります。その判断が俺達には出来ません」
「し、信用出来る方達です。今回の移動では危険はありませんでしたが、これまでに何度も助けられてます」
「俺達には真意がわからないし、この人がこう言ってるならそういうことなんじゃないか?」
桜井君はこの人達が言っていることを信じてもいいという判断をしたようだ。
「まあ、この人の方が付き合いが長いわけだし、信用してもいいのかな」
「それに、アクアラスに向かうことを考えると、言っていることを信じた方が都合もいいだろう。俺達はアクアラスに向かうわけだけど、荷馬車を引いてこの人はスカルタまで帰らないといけない。護衛もなく帰るのは危険だ。信頼出来るというなら、帰りも護衛を任せられるだろ?」
「確かにそうだね」
「それから、剣を抜かずに殴りかかったわけだから、不意を突いて殺そうとはしてなかったということだと思うな」
桜井君の言う通りだ。
この人達は帯剣している。でも、攻撃は素手だった。
僕は縄を解くことにする。
「手荒な真似をしました。許してください」
「いや、大丈夫だ。話を信じてくれて良かった。誓って嘘は言ってないが、襲いかかったのは事実だ。衛兵に突き出されでもしていたら捕まっていたかもしれない。ただ、それだけ戦えるなら先に言っておいてくれてもいいだろう。そうすればこんな手荒な真似はしなかった」
「Dランクというのは本当ですし、騙したわけじゃないですよ。それからご心配していただきありがとうございます。気を付けて行ってきます」
「本当に行くのか?」
「はい」
「……死ぬなよ」
サンドスパイクの2人に見送られて、再出発した。
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