第143話 side イロハ

クオン君が誰かに狙われたと言った日、平山君は帰って来なかった。


次の日に、冒険者ギルドで平山君が殺されたことを知る。


桜井君がクオン君に何か心当たりがないか聞く。

クオン君はそれらしい心当たりはないと言ったけど、私としてはクオン君が怪しく思ってしまう。


前に桜井君に相談した時に、クオン君は悪い人じゃないって言ってた。

桜井君は兵長さんのことを信頼しているみたいで、兵長が気にいるなら悪人じゃないって。


この街に来た時に助けてもらったし、頼りになるし、私もクオン君が悪いことをしているとは思いたくはない。


でも、何か隠し事をしているとは本人から聞いているし、怪しいとは思う。


クオン君が馬車の手配に席を立ち、四葉ちゃんが付いていった。


ちょうどいいので、桜井君にまた話を聞いてもらうことにする。


「桜井君は平山君のことどう思う?前に話したけど、クオン君は本当に心当たりがないのかな?」


「どうだろうな。俺には普通に平山を含め、俺達の心配をしていたように見えたけど、正直あいつの考えていることはわからない。この街に来たすぐの時も水の魔石を回収しに行ったと思ってたんだけど、あり得ない額で売ってきただろ?肝が据わっているのか知らないが、俺には考えられない」


「……あれは私も驚いたよ。開いた口が塞がらなかった」


「でも、理由を聞いたらそれが最善だと納得した。金のこともだけど、確かに数を渡した方がリスクは減ると思った。……何が言いたいかというと、あいつは突拍子な行動をしているようで、先を見据えて動いていると思うんだよ」


「……そうだね。話を隣で聞いてたけど、最初からそこを目標に話している感じだったよ」

桜井君の言う通りだ。

任せておけば安心だと無意識で思ってしまうくらいに、クオン君は先を見てブレずに動いている。


「話が少しズレたけど、今回のあいつの動きを見ていると、慌ててるように見えたんだけど、それは俺だけかな?ギルドまで俺を迎えに来たけど、結構真剣に俺を探していた気がするんだよな。あいつが平山を殺していたなら、俺を心配する必要なんてないだろ?あいつが堀田を手に掛けたのかはわからないが、今回のことに関してはあいつにとっても想定外だったんじゃないか?」


「宿屋に来た時もずっとそわそわしてたよ。……演技だったとは思えない」


「言ってることは逆になるかもしれないが、中貝さんから前に話を聞いた後、クオンのことを気にして見てたんだ。疑うというよりは、疑いを晴らす為と思ってもらいたいけど……。それで、今回の平山のこともだけど、宮橋と犬飼を衛兵に引き渡す時も、何も感じていないんじゃないかと思うくらいにあっさりしてたんだよ。まるで死んでもいいと思ってるんじゃないかと思うくらいにな。本人が言う通り、引きこもっててあまり接点がないからと言われればそれまでなんだけどな」


「……それは私もなんとなくわかるよ」

さっきもそうだったし、堀田君の時もクラスメイトが死んだっていうのに、ショックを受けている素振りはなかった。

淡々とその場の処理をしているという感じだ。


「ただ、クラスメイトに限らず、あいつは冷めてる気がするな。これは立花さんには言わないで欲しいんだけど、飛び出してきた子供がいただろ?」


「うん。私は見てはいないけど」


「クオンが言うにはあの子供も盗賊の仲間だったみたいなんだ。立花さんはずっと子供のことを心配していて、街まで連れていったんだ。それなのにあいつは当然とばかりに衛兵に盗賊の仲間だと突き出した。俺なら気付いても躊躇して言えないかもしれない。だから、あいつにとってはクラスメイトがどうとか関係ないのかもしれない。ただ、立花さんに宿を探しに行かせてから衛兵の方に教えていたから、あいつなりに気は使っているようだな」


「……そんなことがあったんだね」

これは四葉ちゃんには言えないな。


「結局のところは聞いてみないとわからないけどな。どうしても気になるなら、クオンに聞くのは出来なくても立花さんに聞いてみたらどうだ?教えてくれなかったとしても、立花さんが嘘を吐いたらわかるなら本当の事がわかるかもしれないだろ?」


「……でも、四葉ちゃんが言わないってことは聞いたらマズいことになるんじゃないかと思うんだよ。私も本当は聞きたいんだけどね」


「それもそうか。言えない理由があるかもしれないもんな。それならそれとなく聞いてみるしかないか」


「何て聞いたらいいかな?」


「……そうだな。決定打にはならないけど、とりあえず立花さんにも平山が殺された心当たりが無いか聞いてみるか。クオンには聞いたけど、立花さんには聞いてなかったからな。何もないって言って、それが嘘じゃないなら、少なくても立花さんはクオンが平山を殺したとは思ってないってことだろ?」


「……そうなるのかな」


「それで、何もないって言ったのが嘘だったなら、本当は心当たりがあるってことだ。それ以上をどう詰めればいいかわからないけど、どちらにしても心の準備は出来るし、今はそのくらいでいいんじゃないか?」


「そうだね。そうしてみる」


四葉ちゃんとクオン君が戻ってきたので、乗せてくれる荷馬車まで向かいながら四葉ちゃんに聞いてみる。

「そういえば四葉ちゃんは平山君が殺された心当たりはないの?クオン君には聞いてたけど、四葉ちゃんには聞いてなかったよね?」


「うーん、無いかな」

四葉ちゃんが少し考えてから答える。


「そうだよね」

嘘は吐いていなかったと思う。


そうなると平山君が死んじゃったことにクオン君は関係してないってことだよね……。

もしかしたら、クオン君が四葉ちゃんをうまく誤魔化したのかもしれないけど、私の憶測が四葉ちゃんが嘘を吐いていることを前提にしているので、そこまで考えると前提からおかしくなる。


「私達も狙われているかもしれないし、気を付けようね」


「うん」

やっぱり嘘は言ってなさそうだ。

四葉ちゃんは本当に狙われる可能性があると思っているみたい。


うーん、クオン君がみんなを殺してるっていうのが私の勘違いだったのかな?


それともクオン君もクラスメイトを殺してるけど、他にも私達を狙って殺している人がいるってこと?

だとしたら2人は同じ理由で殺してるのかな?

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