第142話 出発

翌朝になっても平山君が帰ってこなかったので、冒険者ギルドにみんなで行くことにする。


「あの、知り合いのヒラヤマというものが昨日採取依頼に行ってから帰ってきてないんですが、何か知りませんか?」

僕は受付で平山君のことを聞く。


「ヒラヤマさんですね。……ギルドとしてもお知り合いの方に確認していただきたいことがあります。ただ、見るに耐えないものになりますので……」

受付の対応で察する。


「わかりました。ヨツバとイロハはここで待ってて。ハルト君はどうする?」


「……俺も行く」

桜井君は覚悟を決めたようなので、一緒に別の部屋に案内される。


「昨夜、冒険者らしき人の遺体がギルドに届けられました。燃やされており、身元の確認がまだ出来ておりませんが、戻られていないお知り合いの方かもしれません。わかりにくいとは思いますが、装備品などに見覚えはありますでしょうか?」

遺体は真っ黒に焼け焦げており、残った装備品から冒険者のように見えるだけだ。


「ごめん。僕にはわからないよ」

僕は平山君がどんな格好で依頼を受けていたのかを知らない。

これが平山君なのであれば、数日すれば元の世界で報道されるだろうけど、今確認する手段はない。


「……多分ヒラヤマです。このポーチには見覚えがある。確かこんな装備だったと思います」


「……お悔やみ申し上げます。ヒラヤマさんは確かご家族の登録はされておりませんでしたね。ご家族がどこに住われているのかご存知でしょうか?」


「いえ、知りません」

異世界とは言えないので知らないことにするしかない。


「そうですか。御遺体はどうされますか?ご家族への連絡手段のない冒険者の方が亡くなられた場合、責任を持って埋葬をさせて頂いておりますが、何か希望はありますでしょうか?」


「何か遺品になりそうな物だけいただいてもいいですか?家族に会うことがありましたら渡します」

僕がなんて答えようか考えていたら、桜井君が答えた。


「かしこまりました。では、3日後に教会でお祈りをして頂いた後に埋葬します」


「よろしくお願いします」


ヨツバ達の所に戻る時に桜井君がこちらを見る2人に首を振って結果を伝える。


ギルド内の隅の席に座り、気持ちを落ち着かせる。


あれは魔物に襲われたとかじゃなくて、人為的に殺されたと思う。

火を吐く魔物に焼かれてもああはならないだろう。


「昨夜に遺体がギルドに届けられたそうだ。燃やされていて、顔はわからなかったが、装備は平山の物と同じように見えた。後、遺品でポーチをもらってきた。見覚えはあるだろ?」

桜井君が話し始める。


「……平山君、死んじゃったんだね」

イロハがボソッと言った。


「遺体を見た限りだと、誰かに殺されたんじゃないかと思うよ。この辺りにあれだけの火を吐く魔物はいなかったはずだから」


「昨日狙われたって言ってただろ?同じ人物だと思うか?」


「可能性は高いんじゃないかな。タイミングが良すぎるからね」


「そうなると、俺達全員が狙われてる可能性が高そうだな」


「そうだね。まだもう少し時間はあるけど、どうしようか?移動するか、それとも犯人を探すか」


「探すって言っても、犯人に心当たりなんかないだろ?」


「そうだね。昨日言った通り、信仰関係で狙われてる可能性はあるとは思うけど、桜井君が言ってた通りそれにしては早過ぎると思うんだよね。考えられるとすると、平山君に恨みがあるとかで、一緒に行動していた僕達も標的としたとか……?ああ、信仰関係に関しては情報を出したのがあの2人じゃないなら、普通に考えられる話だったね。まあ、なんで異世界人だってバレたのかがわからないけど……異世界人を判別するスキルがあったりするのかな。どちらにしても、僕はこの街を出た方がいいと思うよ」


「そうだな。それでいいかな?」


ヨツバとイロハが了承する。


「それじゃあ、商業ギルドに行ってくるからここで待ってて」


「クオンでも1人だと危ないから私も行くよ」


「ありがとう。それなら後で行こうかと思ってたけど、ニーナにも挨拶しにいこうか。依頼には行ってないはずだから宿にいるといいけど……」


「うん」

ヨツバとまずは商業ギルドに向かう。


「平山君のことだけど、クオンが殺したわけじゃないんだよね?」

道中で聞かれる。


「違うよ。ヨツバには誰かを殺す前には言うって約束したよね?今回のことに関して、僕は無関係だよ」


「信じていいんだよね?」


「こうなるのが分かってて、約束を破るメリットがないと思うけど……?」


「そうだよね」


「平山君が狙いだったのか、僕達も狙われているのかはわからないけど、当分の間は1人で行動しない方が良さそうだね」


「うん」


「すみません、アクアラスまで行きたいんですけど」

商業ギルドで馬車の手配をする。


「はい。何名様でしょうか?」


「4人です」


「えーと、あ、ギリギリ空きはありますね」


「可能であればですが、貸切で馬車を出してはくれませんか?難しいようであれば、乗り合い馬車の席をお願いします」

お金に余裕があるというのもあるけど、狙われている可能性がある以上、他の乗客を巻き込まない方がいいだろう。


「お調べ致しますので少しお待ちください」

受付の方が席を離れてしばらくして戻ってくる。


「紹介出来るのはこちらになります。こちらはお急ぎの方やお客様のように貸し切りたいという方を相手に商売をしている方になります。ギルドからの斡旋はしていますが、空き状況を把握しておりませんので、いつ乗れるかはわかりません。こちらは、荷馬車になりますが馬車を複数持っております。昼過ぎにアクアラスに向かう予定になっておりますので、頼めば乗せてくれると思います。それから3日程お時間を頂ければギルドで用意することも可能です。当然ですが、どれも護衛は付いています」


「わかりました。ありがとうございます。乗り合い馬車の席を仮に取っておいてもらうことは出来ますか?」


「申し訳ありませんがお断りさせて下さい」


「では、席を4人分お願いします。時間になっても来なければ出発してもらって構いません」

無駄にお金が掛かるかもしれないけど、出発出来なくなるよりはいいかな。


「返金は出来ませんがよろしいですか?」


「大丈夫です。来なければ他の人を乗せてもらっても構いません」


「かしこまりました」

4席分のお金を払ってギルドを出る。


「桜井君とイロハには内緒にしておいてね。桜井君はこの分も自分で払うとか言いそうだから」


「うん。ありがとうね」


「街から出るのは最優先だけど、他の人をあまり巻き込みたくないからね。ニーナにお別れを言う時間が無くなるから急ごうか」

貸切の馬車は空いていなかったけど、荷馬車に乗せてもらえることになった。


荷馬車の方が襲われやすいけど、何かあっても責任は持てないがそれでもいいならと言われた。


巻き込むのが人よりは物のほうがいいだろう。


襲われて品物がダメになったら、寄付という名目で弁償しようと思う。


「急ですけど、今日出発することになりました」

宿屋にアリアドネの人達がいたので、挨拶する。


「次はどこに行くんだ?」


「アクアラスに行きます」


「私達も少ししたら戻る予定なんだ。いつでも会いに来てね」


「はい。必ず」


ヨツバもニーナとお別れを言えたので、冒険者ギルドに戻る。


「お待たせ。荷馬車に乗せてもらえることになったよ。他のお客さんを巻き込まない分、こっちの方がいいかなって」


「……ああ。ありがとな」


「どうかした?」

桜井君の様子が少しおかしい気がする。


「いや、なんでもない。行くか」

平山君のことを整理出来てないだけかな……

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