第141話 アラーム

蕩けるような肉を食べた後、自室へと戻る。


1人になれるタイミングで戻ってきてはいたけど、ゆっくりとするのは久しぶりだ。


両親にこれからは今まで通りのペースで帰ってくると伝えた後、パソコンを点ける。


何か変化はあったかなと点けただけだけど、大きな変化があった。

僕が遺跡に行っていた一月程で3人も帰還している。


しかも魔法都市で捕まった2人は含まずにだ。


何が起きてるんだ?


魔法都市で捕まっている2人が処刑されていないのも気になるし、急に3人も戻ってきているのも気になる。


捕まった2人のことは確認すればわかるかもしれないけど、急に戻ってきた3人はなんだろうか?


同じ所にいて、パーティでも組んでて魔物とかに全員殺されたとかかな……。


警察にどうやって見つかったのか聞きに行くわけにもいかないし、何かが動き始めてるのだと気を付けるしかないかな。


それでも、翌日からスカルタの街を観光する。

桜井君達は既に見て回ったということなので、僕1人で観光することにする。


ヨツバは桜井君と討伐依頼に行き、平山君は採取依頼に向かった。

イロハは冒険者ギルドの訓練場を借りて魔法の練習をすると言っていた。


観光を始めて3日目、街の中にいるのにアラームのスキルが発動した。


僕は警戒して周りを見る。


建物の影に誰かがいた気がする。

警戒しながらゆっくりと人影が見えた方に進むが、誰もいなかった。


アラームのスキルを信じるなら、誰かには狙われていたはずだ。


周りには誰もいない。

逆の立場なら狙うにはいいタイミングだったかもしれない。


無差別に襲おうとしていたわけではないなら、狙いは僕だよな。

それか、異世界人を狙っているのか……。


とりあえず観光している場合ではないな。

1人になってるのはイロハと平山君だけど、平山君はどこにいるかわからないし、合流するならギルドにいるはずのイロハだな。


僕は冒険者ギルドの訓練場に行く。


あれ、いないな。


「あの、イロハが訓練場で魔法の練習をしていたはずなんですけど、どこにいったか知りませんか?」

ギルド内にもいないので、水の魔石の時の受付の女性に聞く。


「イロハさんなら少し前に帰られましたよ」

入れ違いか。


僕は宿屋に行く。


「イロハ、いる?」

僕はノックしてイロハを呼ぶ。


「あれ、クオン君。どうしたの?もう満喫した?」


「無事だったね。さっき誰かに狙われてね。みんなは無事かなって戻ってきたんだよ。ヨツバ達は街の外でしょ?だから合流しようにもイロハしか無理なんだけどね」


「……狙われたって誰に?」


「わからない。アラームのスキルが危険を知らせてくれたんだ。建物の影に人がいたようには見えたんだけど、見に行ったら誰もいなかったよ。僕が狙われたのか無差別なのか、それとも異世界人が狙われてるのか。どれにしても1人にはならない方がいいと思う」


「……そうだね」


「正直、この街は他の街とも色々と違っていて面白いからもう少し観光したいんだけど、明日にでも出たほうがいいね」


ヨツバ達が帰ってくるまで、部屋で待たせてもらう。


「そういえば、魔法の練習してるんだよね?」


「うん」


「桜井君にも渡したやつだけど、イロハにも使えるのかな?」

僕はイロハにリカバリーワンドを渡す。


「なんでこんなに持ってるの?練習で作ったって言ってなかった?」


「えっ?ああ、そうだね。練習で作ったんだよ」


「もしかして、全員分作ってくれたの?」


「……まあね。桜井君もヨツバも遠慮するからね。内緒にしておいてね。気にせず使ってみて」

僕は手に切り傷をつける。


「……あれ、ダメなのかな?」

杖は光ったけど、僕の怪我は治ってない。


「ちょっと触るよ」

そういえば魔法の練習をしていたと言っていたから、魔力が足りていないのかもしれない。

そう思って、イロハの肩に手を置き僕の魔力を分ける。


「もう一回やってみて」

イロハが再度杖に魔力を込める。


「はぁ。はぁ。治ったね」

イロハが息を切らして言う。


「イロハの魔力だと発動がギリギリみたいだね。使えることがわかったから、その杖はイロハにあげるよ。なんだか危険が迫ってるかもしれないし、回復が必要な時に僕か桜井君がすぐ近くにいるとは限らないからね。でも今みたいに息切れしちゃうから、使い時は考えてね」

僕はイロハに魔力を分けながら伝える。


「ありがとね」


イロハと2人きりということもあり、なんだかソワソワしながら待っているとヨツバが帰ってきた。


「あれ、クオンがいるなんて珍しいね」


「色々とあってね、桜井君も一緒に帰ってきてる?」


「桜井君ならギルドに行ってるよ。私はご飯の準備があるから先に帰ってきたんだよ」


「そうなんだ。僕は桜井君を迎えに行ってくるから、イロハに何があったか聞いておいてもらえる?誰が来ても扉を開けたらダメだよ」


「えっ?」

僕はイロハに説明を任せて、桜井君を迎えに行く。


「報告は終わった?」

ギルドで桜井君を見つけたので声を掛ける。


「さっき終わって、明日の依頼をどれにしようかみてた所だ」


「平山君は?」


「まだ戻ってないみたいだな」

どうしようかな。平山君が戻ってくるのを待ってた方がいい気もするけど、ヨツバ達と離れているのも嫌だな。


「明日は依頼を受けないから宿屋に帰ろうか。詳しくは戻ってから説明するよ」

とりあえず戻ることにする。

ギルドから宿屋まで閑散としたところはないし、襲うにしてもそこは選ばないだろう。


「ん、ああ」

桜井君と宿屋に戻り、平山君が戻ってないことを確認した後、ヨツバ達の部屋に行き改めて説明をする。


「何か狙われるような心当たりはないのか?」

桜井君に聞かれる。


「うーん、ひとつ気になってるのは宮橋君と犬飼君のことかな。衛兵に引き渡しはしたけど、田中君の時のことを考えると、もしかしたら異世界から来た云々を話しちゃったんじゃないかなと。それが信仰心の強い国の耳に入ったとか、教会の耳に入ったとして、刺客が送られてきたみたいな……。うーん、だとしてもなんで僕が異世界人だとバレたのかが不明だよ。信用出来る人にしか話してないと思うんだけど……」

それか、僕みたいに死んだら元の世界に帰れることを知っている誰かが、殺して回ろうとしているか。


神からの制約が僕と同じとは限らないし、暗殺オッケーかもしれない。


心当たりというとこれくらいしかない。


どちらも正直考えにくいなとは思うけど、宮橋君達がまだ死んでいないことと、ここ最近だけで3人も僕とは関わりなく帰還していることを考えると、どちらも無くはない気がする。


「……少し考えにくくないか?あの2人が話したとして、流石に刺客が送られてくるにしても早すぎる気がするな」


「まあ、僕もそうは思うよ。心当たりを考えるとそのくらいしかないってだけだね。だから心当たりが無いって言った方が正しかったかもしれない」


「狙われたんじゃなくて通り魔みたいな奴だったかもしれないし、スリとかでもそのスキルは反応するんじゃないのか?」


「スリ相手でも反応はしそうだね」

アラームが何を基準に反応しているのかはよくわからないけど……。


「可能性としては、人通りの少ない所を歩いていたから、スリとかに狙われたけど、行動に移す前に勘づかれたから逃げたってのが1番高いんじゃないか?それでも、すぐにこの街を離れるっていうのは賛成だ。元々クオンの観光が終わったら出る予定だったし、狙われてる可能性がゼロではないからな」


「なら、平山君が帰ってきたら委員長の所に行くのかどうかだけ確認して明日この街を出ようか。さっきギルドで確認したけど、明日の昼前に馬車が出るみたいだから、それに乗せてもらおう」


「そうだな」


「僕も今日はこっちで寝ることにするよ。隣の部屋が空いてたはずだから、そこを借りることにするよ。何かあったら遠慮なく起こしてくれていいから」


「そうさせてもらうな。……それにしても平山のやつ遅いな」

平山君の帰りをずっと待っていたけど、結局帰ってこなかった。

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