第140話 ★2
平山君を見付けたとヨツバから聞き、桜井君と相部屋らしいので、とりあえず会ってみることにする。
「戻ったんだな。平山のことは聞いてるか?」
「さっきヨツバから少し聞いたよ」
「詳しい話もするからとりあえず中に入れよ」
「久しぶりだね」
部屋の中に入り、平山君に挨拶する。
こんな顔のクラスメイトが確かにいた気がする。
「うん、久しぶり」
「こっちの話は長くなりそうだから、先にそっちの話を聞いてもいいか?」
僕は遺跡でのことを桜井君達に説明する。
平山君がいるので、詳しくは説明しないことにした。
エアリアさん達に付いて行って、Aランク指定のバーゲストがいたから引き返してきたということだけだ。
僕が戦ったことも言っていない。
「Aランク指定よりも上の魔物がいるかもしれないわけか」
「そうだね。だからエアリアさんの判断で引き返してきたよ。残った魔物の掃討は領主に任せるみたいだね」
「そうか。まあ、無事に戻ってきて何よりだ」
「エアリアさん達もいたからね。危険はなかったよ。それで、何があったか聞いてもいい?」
「特に変わったことはないが、立花さんとニーナさんと依頼を受けつつレベル上げをしていたんだけど、20日前くらいかな、ギルドで平山を見付けたんだ。それで声を掛けて一緒に依頼を受けようか聞いたんだけど、討伐依頼は受けたくないって言うから別で依頼を受けてる。稼ぎも少ないみたいだから、こうして相部屋になってるな」
「そうなんだ。平山君はなんで討伐依頼は受けたくないの?」
平山君のスキルは明らかな攻撃系だ。採取よりも討伐の方が向いているだろう。
「サンドウルフを倒したときに、吐いちゃってね。向いてないんだってわかったから討伐依頼は受けないことにしたんだよ。ここにはいないけど、ほかの地域だとゴブリンとか人型の魔物もいるんでしょ?僕には無理だよ。それでも稼がないといけないから、採取の依頼を受けて、襲われた時だけ頑張って倒してるんだ。毎回気持ち悪くなるけどね」
「倒さずに逃げたらダメなの?」
「最初はそうしてたんだけど、せっかく依頼の物を見付けても、採取する前に逃げないといけなくなると食べていけないんだよ。だから「襲ってきたそっちが悪いんだよ」と自分に言い聞かせて倒してるんだ」
「ならレベルも低いんじゃない?大丈夫なの?」
鑑定で平山君のレベルが28なのはわかっている。
この世界に来てからの期間を考えると高くも低くもないけど、戦いから逃げていたにしては高すぎる。
嘘をついているのか、それともあのスキルのせいなのか……。
「レベルは低くないんだ。聞く限りだとクオンくん?よりは高くはないけどね。魔物に好かれるみたいでね、僕の方に寄ってくるんだよ。[誘引]ってスキルなんだけど、生き物を誘うみたいなんだよね。魔物だけじゃなくて生き物も僕の意思とは関係なく寄ってくるんだよ。魔物じゃなかったら良いスキルなんだけどね」
「それは羨ましい……大変なスキルだね」
思わず本音が出てしまった。
でも、レベルが低いフリをするつもりはないってことかな。
「……まあ、そういうわけで、普通に採取とかしたいだけなのに戦闘になっちゃうんだよ。だから、報酬の半分くらいは討伐報酬になっちゃってるんだよね。他の仕事をやろうとしたんだけど、店主に怒られて追い出されたから仕方なく冒険者を続けてるんだ」
「生きるためには仕方ないね。それで委員長のことは教えたってさっきヨツバに聞いたけど、どうするの?なんだか迷ってるみたいだけど、元の世界に帰りたいなら委員長のところに行った方がいいんじゃない?」
平山君は帰りたいと思ってるだろうけど、タイミングがいいし聞いておくことにする。
「もちろん帰りたいけど、桜井君からみんなで帰れるようにクラスメイトを探しているって聞いて、俺にも出来ることがあるんじゃないかと思ってね。自分が帰りたいだけなら委員長のところに行った方がいいんだろうけど、委員長の所に行ったら委員長に任せっきりになる気がするからどうしようかと」
微妙なラインの答えだな。
まあ、委員長の所に行くと言ったら、後からまとめて殺すか、委員長の所に着く前に殺すか考えることにしよう。
「クオンはどうだ?」
桜井君が僕に聞く。
「平山君の好きにすればいいよ。桜井君と一緒にって話なら僕達と一緒に行動するってことだよね?僕は一緒に行動してもいいよ。ただ、魔物を討伐する依頼を受けることもあると思うけど、それは許してね。お金に関しても、桜井君は自分で稼ぐって言ってるけど、気にせずに貰ってもいいし、そこも考えておいて」
「ありがとう」
「とりあえず、僕はまだこの街をちゃんと観光してないから、この街を出るにしてももう少し後がいいかなって思ってるんだけど、街を出るまでには決めて欲しいな。次にどこに行くかとかはまた後でみんなで話し合おうか」
「ああ、それなんだが、クオンがいない間に考えておいたんだ。砂漠の向こうに山があるらしいんだが、その向こうに街がポツンとあるらしいんだ。一応この国に属してはいるらしいんだけど、交通が不便すぎるからほとんど他国と変わらないらしい。だから、そこの街に誰かいたとして、委員長のメッセージが届いていない可能性があるんじゃないかっていうのが、次の目的地にしたい理由だ」
「なんでそんな所に街があるの?」
「海に面しているらしい。港町だな。街の人は山の恵みと海の幸で結構いい暮らしをしているみたいだ。行くには山越えの道の他に海路もあるから、行くならどうやって行くかを決めないといけないな」
なるほど。
確かにいい環境かもしれない。
「いいんじゃないかな。僕が特に行きたいところも今はないし、確かに委員長が出したメッセージも届いてないかもしれないね」
「クオンはこの街の観光をしたいだろうから、満足したところで出発しようって話になってる」
「ありがとうね。夕ご飯はもう食べた?」
「今頃立花さんが作ってるんじゃないかな」
「そっか。間に合うなら平山君の歓迎会でもしようか。委員長の方に行くなら送別会ってことで。ちょうどいい物が手に入ったからね。楽しみにしていて」
僕はヨツバ達の部屋に移動する。
「もうご飯は作り終えちゃったかな?」
「半分くらいだよ」
「いい物が手に入ったからね、平山君の歓迎会って名目でみんなで食べようかなって」
「そんなに珍しい物が手に入ったの?」
「今後はたくさん手に入るかもしれないけど、今は珍しいかな」
僕はヨツバに食用肉を渡す。
「あれ?なんだかいつものと違うね」
「ヘルハウンドって危険度Aランクの魔物を倒したら食用肉(★2)が手に入ったよ。僕もまだ食べてないけど、多分前のより美味しいんじゃないかな」
「……それは、期待しちゃうわね」
「ヨツバが作ってくれるなら、アリアドネの人達も呼ぼうかなって思ってるんだけど、どうかな?僕のストレージのことは依頼中に話したから隠す必要もないんだけど」
「いいわね。そうしましょう」
「それなら、たくさん置いておくからお願いね。僕はエアリアさん達に声を掛けてくるよ。今日は来られないようだったら僕のストレージに入れておけばいいから、作っちゃって」
僕はエアリアさんが飲みに行くと言っていたので、前に行った酒場へと行き、飲み始めてるアリアドネの方達を誘い、酒場から連れ出す。
宿屋に戻ると料理が出来ていた。
見た目はそんなにいつもと変わらない。
「出来るだけ素材の味がするように作ってみたよ」
ヨツバの言う通り、1番目を引くのは分厚く切られたステーキだ。
部屋の大きさの関係で、平山君の歓迎会と言いつつも、この場に平山君がいないことは許して欲しい。
桜井君と平山君の分は部屋に運んであるようだ。
歓迎会ではなく、歓迎のお祝いということにしておこう。
アリアドネの人達は桜井くんとも平山君とも接点はほとんどないし、ちょうどいいだろう。
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