第132話 ソロクエスト
Dランクへの昇格試験の最後は、1人でDランクの依頼を達成することらしい。
「受ける依頼が決まったら私の所に持ってきて下さい。依頼には職員が同行します」
受付の女性が言う。
職員が同行するのは、不正防止という意味合いの他に、何かあった時の救援という意味もあるのだろう。
僕達は依頼の貼ってあるクエストボードの前に行き、1人でも達成出来そうな依頼を探す。
Dランクの依頼は大きく分けると、討伐、採取又は納品、護衛の3種類ある。
1人で受けることを考えると護衛依頼はありえないので、討伐か採取、納品依頼を受けるのがいいだろう。
1番簡単なのは納品依頼かな。
依頼にあるいくつかはストレージに入っているから、取り出して納品したら達成だ。
ただ、それだとあまりに味気ないので、他の依頼を探す。
桜井君はサンドワーム討伐、ヨツバはテトラサボテンの採取依頼を受けることにしたようだ。
ヨツバは大丈夫だと思うけど、桜井君は少し心配だ。
無事達成出来るだろうか……。
「Cランクの依頼ではダメですか?」
僕は面白そうな依頼を見つけたので聞いてみる。
「Dランクの依頼でお願いします。Cランクの受注資格はまだありません」
ダメなようだ。遺跡探索とか面白そうだったのにな。
どちらにしても10日では無理か……。
「わかりました。あまり自分のスキルを見せたくないのですが、同行する職員の方は守秘義務を守ってもらえますでしょうか?」
「それなら私が君の試験に同行しよう。もちろん他の職員も守秘義務は守るが、個人的に君が隠したいというスキルには興味がある。もちろん他言はしない」
サラボナさんが同行すると言う。
ギルドマスターがギルドを離れていいのだろうか……。
「サブマスターに怒られますよ?」
受付の女性が言う。
「最近休暇を取っていなかったからな。休暇ということで、うまく誤魔化しておいてくれ」
「……では、この依頼でお願いします」
あまり触れない方が良さそうなので、僕は簡単な依頼を受けることにする。
他に面白そうな依頼もないし。
「……はい。運搬依頼ですね。運搬物はギルドでお預かりしております」
サラボナさんの無茶振りに困り顔の受付の女性に連れられて、ギルドの倉庫へと入る。
「こちらになります」
小麦や芋などの食材だ。
僕の受けた依頼は少し離れた場所にある村に食料などの物資を届けること。
砂漠という土地柄、ただでさえ作物が育ちにくいわけだけど、今年はその中でもさらに不作らしく、食べるものが底をつきそうということで、領主が食料支援をするそうだ。
つまり、依頼主は領主だ。
だからといって報酬が良かったりするわけではないけど……。
村に行くだけの依頼がDランク扱いになっているのには理由がある。
まず量が多いこと。馬車は冒険者ギルドで貸してもらえるけど、馬車の操舵をしないといけない。
それから、盗賊に襲われる可能性があること。
もちろん魔物に襲われる可能性もある。
水だけでなく当然食料も貴重なので、荷馬車は襲われやすいそうだ。
「わかりました。出発の日時が決まったらまた来ます」
「かしこまりました」
受ける依頼も決まったので、冒険者ギルドを出る。
「ヨツバと桜井君はこれから宿屋を探して、明日から出発って感じ?」
「そうだな」
「それじゃ泊まる宿だけ決まったら解散しようか」
3人が泊まる宿が決まり、解散した後、僕は商業ギルドに行く。
「サラボナさんに明日の昼前に出発しますと伝えておいてもらえますか?」
商業ギルドで用事を済ませた後、冒険者ギルドで明日出発することにしたことを伝えてもらう。
「かしこまりました」
そして翌日、サラボナさんと冒険者ギルドで合流した後、運搬する物資をストレージに入れる。
「アイテムボックスのスキルが使えるんです。あまり他の人に知られたくないので秘密にしておいて下さい」
荷物が消えたことに驚くサラボナさんに説明する。
「なるほど。知られたくないスキルとはこれのことか。確かに面倒事に巻き込まれやすいスキルだから、隠したい気持ちはわかるな」
「では、行きましょうか」
僕は馬車で目的地に向かって出発する。
もちろん馬車の操舵なんて出来ないので、乗り合い馬車だ。
乗り合い馬車が襲われないということはないけど、荷馬車よりは大分安全だ。
目的の村に着いたら、村長に挨拶する前に物資を取り出しておく。
「領主様からの物資を届けに来ました。物は外に置いてあります。こちらに受領のサインを下さい」
村長からサインをもらって依頼は達成だ。
乗ってきた馬車に帰りも乗って街に帰ってくる。
「君からするとGランクにしても問題ない難度の依頼だったな」
サラボナさんが帰る道中に言った。
「馬車の操舵もせず、盗賊に襲われるリスクも軽減してますからね。確実に達成出来る依頼の中で考えると、あまり惹かれる依頼がありませんでしたので、他の人だとうまみが少ない依頼を選んだだけです。食料が不足しているなら早めに届けた方がいいですしね」
「Dランクの昇格試験は文句の付けようがなく合格だ。街に着いたら手続きを受けてくれ」
「ありがとうございます」
帰りもトラブルなくスカルタの街に帰ってくる。
「昇格試験お疲れ様でした。昇格のお手続きを致します」
「はい、お願いします」
僕はギルド証を受付の女性に渡す。
「お手続きが完了する間に、以前お話しした治癒魔法についてお話をさせてもらってもいいですか?」
「構いませんよ」
「では、先日街から北に進んだ所に遺跡が発見されました。遺跡が魔物の巣となっている為、魔物が溢れてこの街や近くの村を襲う前に掃討する作戦を考えております」
「Cランクの依頼として貼ってあったやつですか?」
「そうです」
試験として僕が受けようとしたやつだ。
「その依頼に治癒士が足りていないということですか?」
「その通りです。治癒士自体は多くはありませんが当ギルドにも在籍しています。問題は魔物の巣に乗り込むということです。ある程度自衛が出来る者でなければ危険です。自衛の出来る治癒士は当ギルドに現在在籍していません。治癒士を守りながら戦うことを考えると、ポーションを持っていった方が良いくらいです。治癒術が使えても低ランクだと魔力量が多くないというのも問題です」
「なるほど。事情は理解しました」
「では受けて頂けますでしょうか?」
「すみませんがお断りさせて下さい。治癒魔法は使えますが、僕のは少し特殊なんです。何が特殊かは言えません」
チートな回復魔法を見ず知らずの人の前で使うとかリスクが高すぎる。
試験の時に桜井君やサラボナさんの体力を回復させたみたいに、外見上でわからない場合は問題ないけど、クリスさんの時のように、手を切り落としたから治癒魔法を掛けてくれと言われた時に困る。
相手は傷口を塞いで止血してくれという意味で頼むかもしれないけど、僕が治すと手が生えてくる。
大事になるのは目に見えている。
「そうですか……。出発は3日後の予定になります。気持ちが変わりましたら参加をお願いします」
「お力になれずすみません」
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