第131話 ウエポンスキル

桜井君との模擬戦が終わったので次はヨツバと戦う。


僕がヨツバとの模擬戦でやらなければいけないことは、ヨツバの剣が届くところまで接近させないこと……そうヨツバは思っているだろう。

実際にそれは間違っていないけど、これは模擬戦であり、痛い思いをさせないように近づけないようにすると、どうしても痛ぶるような形になってしまう。


それはあまりやりたくない。

攻撃しないというのは流石に無理だけど、出来るだけ痛くないやり方で終わらせるのがいいだろう。


開始の合図と同時にヨツバが距離を詰めてくる。


「ストーンバレッド!」

僕はヨツバに近くに来るなという意味で石を飛ばして牽制する。


ヨツバはサイドステップで僕の飛ばした石を避け、さらに距離を詰めてくる。

僕はヨツバが避けれるように石を飛ばして牽制を続けて、その時を待つ。


そして、ヨツバが剣の届くところまで近づき剣を振ったタイミングで、僕は逃げるようにバックステップで距離をとり仕掛けを発動する。


僕がいたところの足元に魔力を圧縮しておいた。

ヨツバは僕が下がれば追ってくるだろうと前もって仕掛けておき、追ってきたタイミングで発動させることで転倒させるつもりだった。

石みたいに吹き飛ばすことは出来なくても、転ばせるくらいは出来るだろうと。


しかしヨツバは追ってこなかった。

それどころかヨツバも一歩下がり、距離をとった。


ボフッ!

圧縮した魔力により空気が振動する音だけが虚しく聞こえる。


トラップは不発に終わってしまった。

少しヨツバを甘くみていたようだ。


仕方ない。少し本気を出すか。


「そこまで!」


「えっ?」

そう思っていたらサラボナさんに止められた。


「勘違いしているようだが、これは昇格させてもよいかの実力を見る為の試験だ。勝敗をつける必要はない」

確かにその通りだ。試験とは分かっていたけど、勝とうとしていた。


「なんで下がったの?」

僕はヨツバに聞く。


「え?うーん、なんだか簡単に近づけすぎたかなって思ったからかな?試験だからって華を持たせてくれたりもしないでしょ?クオンは接近戦が出来ないわけではないし、何で下がったのかなって思って、一度距離を取ったのよ」


「そっか」

なんだか負けた気分だ。


その後、ヨツバと桜井君が模擬戦を行う。

ヨツバが桜井君の放った魔法に多少被弾しながらも距離を詰め、接近した後は一方的な展開になり、桜井君が降参した。


レベル差があるから結果は予想通りだけど、思ったよりもヨツバが圧倒したなというのが正直な感想だ。


「ハルトさんは残念だったが、Dランクとしては悪くないだろう。3人とも2つ目の試験も合格とする。最後の試験の前に、クオンさんには私と戦ってもらう」

忘れてなかったか……


「わかりました」


「どちらかが負けを認めるか、気絶するまでとしようか」


「それで大丈夫です。危ないので近づきすぎないようにして下さい」

僕は受付の女性に言って、ヨツバと桜井君と一緒に離れてもらう。


「では、始めて下さい」

受付の女性が遠くから開始の合図を出す。


僕はブラッドワンドを地面に突き刺す。

ドボドボドボと杖の魔石部から赤い水が流れる。


魔石から流れる量ではあり得ない速さで、すぐに一面を赤く染める。

ブラッドワンド専用ウエポンスキル[血の池]は、発動することでフィールドをその名の通り血の池とする。

膝の辺りまで水位が上がる。


「なんだこれは?」

サラボナさんが気味悪そうに言う。


「僕の魔法ですよ。ストーンバレッド!」

僕はそう言いながらサラボナさんに石を飛ばす。


バシャ!バシャ!


「動きにくいな」

サラボナさんが避けながら、近づこうとしてくる。

膝まで池に浸かっているとは思えない速さだ。


剣を持っていたから接近戦が得意なのだろうと思いこの戦法をとったわけだけど、予想よりも大分速い。

これは少しでも気を抜くと詰みそうだ。


この血の池は発動者の僕の動きまで阻害するし……近付かれたら終わりだ。


僕はサラボナさんを近付かせない事だけを重視して石を飛ばし続ける。


「はぁ。はぁ」

サラボナさんが息を切らし始める。


当然膝まで池に浸かっていれば普通に動くよりも体力を使う。

しかし、それだけでサラボナさんが息を切らしているわけではない。


この血の池はブラッドワンドの攻撃扱いになっており、浸かっているだけで少しずつHPを吸っていく。


もちろん浸かっている僕のHPまで吸うわけだけど、吸ったHPは僕に返ってくるので意味はない。


正直、サラボナさんと正面から戦って勝てる気はしていない。

動きを鈍らせた上で、足止めするのが精一杯だ。


ただ、足止めしているだけでこの方法ならどんどんと自分が有利になっていく。

このウエポンスキルは味方まで巻き込むので、正直使い勝手は悪い。

今回みたいに1人だからこそ真価を発揮する。


「はぁ。はぁ。これはおかしい。仕方ない、私も少し本気を出させてもらうことにしよう」

サラボナさんがそう言った後、池に沈んでいき姿を消す。


「参りました」

僕の後ろに急に現れたサラボナさんが負けを認める。


サラボナさんのスキルに影移動というのがあったので、スキルで僕の影に移動出来るのではないかと踏んでいた。


予想通り影から出てきたサラボナさんの顔の前に手をかざして、負けを認めてもらった。


影移動のスキルが使えると知らなければ、背後から首に剣を当てられていただろう。


僕は血の池を解除する。

逆再生しているかのように、広がっていた赤色の水が杖に一瞬で吸い込まれる。


「私が君の後ろに出て来るのがわかっていたのか?」

サラボナさんに聞かれる。


「ヒール!姿を消したので、現れるなら背後かなと思っただけですよ」

ずっとHPを吸い取っていたので回復魔法をサラボナさんに掛け、鑑定のことは言わずにたまたま出て来るところがわかったと答えておく。


「…………そうか」

たまたまではないだろうと言いたげな顔をしているけど、無理に聞いてはこない。


「あの赤い、禍々しい水はなんなんだ?動きを阻害する以外にも何かあるだろう?水に浸かっていたとしても、あれだけで私が息切れするとは思えない」


「毒と同じようなものです。浸かっているだけで、どんどんと生気を奪います」


「やはりか。はぁ、負けることになるとは思ってなかったな」


「でもまだ全然本気ではなかったですよね?」

サラボナさんのスキルには当てたら致命傷になりそうなスキルがいくつかあった。

[次元斬]というなんだかヤバそうなスキルがあったけど、次元を斬れるくらいに斬れ味がいいということなのか、それとも本当に次元を斬ることが出来るのか……。


なんだとしても模擬戦では使い勝手が悪いのだろう。相手を殺しかねないから。


そもそも、水に浸かりながらでもあれだけの速度で動けるなら、僕が杖を地面に突き刺している間に距離を詰めることも出来たかもしれはい。

そしたらその時点で終わっていた可能性まである。


「それはもちろんだが、模擬戦の枠の中では手を抜いていなかった。私としてはBランクくらいまで上げてあげたいが、私の一存で上げることは出来ない。残念だ。気を取り直して、次で最後の試験だ。Dランクの依頼をどれでもいいから達成してくるのが最後の試験だ。ただし、1人で達成すること。誰かの力を借りることは許さない。期限は10日とする」

最後が一番単純な試験だったな。

確かに1人でとなるといつもより難度は上がるけど、明確な合格の指針があるだけ簡単だ。


1人でも10日で達成出来る依頼を見極めるのも試されているのかな。

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