第127話 宿代

「神様、聞きたいことがあるんだけど?見てるなら姿を現してくれないですか?」

僕は神を呼ぶ。


「君に特例は付けたけど、特別扱いするわけじゃないから。気軽に呼ばないでくれるかな?」

そう言いながらも少年の姿をした神が来てくれる。


「わかりました」


「次からは呼ばれても来ないからね。それで聞きたいことって?わかってると思うけど、君が手に入れた石像のことは聞かれても答える気はないよ」

やはりあの神の石像については教えてくれないらしい。

ついでに聞こうとは思ってたけど、教えてくれないのは予想通りだ。


「それも聞きたかったですけど、明らかにクラスメイトに会いすぎてます。神様の方で何かやってます?」


「君達を集め、生き返ることが出来るように細工を施し、それぞれにスキルの種を与えた。その種がその人に合ったスキルとして開花したよ。大金を与えて、ランダムに各街の近くに転移させた。そして死んだらこっちの世界に細工して送り届ける。特例をつけたりはしているけど、他に君達に影響のある事は何もしていない。嘘は言ってないよ」


「……大金?」

あれが大金?必要最低限にも満たない額でしたよ?


「お金の価値は人それぞれだよ」


「……そうですね。他の事に嘘はないんですか?」


「ないよ」

断言した。ここまで言い切るなら本当にそれだけなのだろう。


「お忙しい中お呼びしてすみません。ありがとうございました」


「次は来ないからね。本当に君に言わないといけないことがあるなら、僕の方から出向くから。来ないってことは君が絶対に知らないといけないことではないってことだからね」


「わかりました」

神はいなくなった。


うーん、神が何かやってるわけじゃないなら、本当に偶然なのかな?

そんなことないと思うんだけど……。


僕は疑問を残したまま向こうの世界へと戻り、商業ギルドへと急ぐ。


「お待たせ」

2人は既に馬車に乗っていたので、僕も乗り込む。


「出発してもよろしいでしょうか?」


「お願いします」

スカルタに向かって出発する。


「イロハとはどこで合流するとか決めてるの?」

馬車に揺られつつ、僕は桜井君に聞く。


「街に着いて宿が決まったら、冒険者ギルドにどこの宿に泊まっているのか言うように中貝さんには言ってある。だから、冒険者ギルドで聞けば泊っている宿がわかると思う」


「乗り合い馬車じゃない分多少早く到着するだろうけど、4日遅れだよね。聞けてなかったんだけど、イロハにお金は渡したの?」

僕は桜井君に聞く。


「……渡してない」


「イロハって今、自分でいくら持ってるのかわかる?」

僕はヨツバに聞く。


「えっと……私が銀貨1枚くらいしか持ってないから、多分イロハちゃんも同じくらいだと思う」

2人のお金は僕がほとんど持っていて、どちらかの手持ちが少なくなった時に、銀貨5枚ずつになるように渡していた。

だから特別何かを買わない限りは、ヨツバとイロハの手持ちは同じくらいになる。


少なくても銀貨5枚以上は持っていない。


「僕達が到着するまで宿代が足りるかな……」

僕がお金を預かる時にこうなるリスクはわかっていたけど、急に別行動することになるとは……。


「私達が心配しても出来る事はないし、イロハちゃんも途中でお金が少ないことには気づいているはずだから、流石に食べるものにも困っているなんてことにはなってないはず。お金以外にも色々と持ってはいるし、この世界に来たばかりの頃に比べればマシだと思う。ただ、野宿しないといけなくなってるかもしれないね」


「まあ、イロハにはスキルを使ったお金稼ぎの方法は教えてあるし、スカルタで必要な物は簡単に分かるだろうけど、度を越してなければいいね」


イロハを心配しながら馬車に揺られ続け、途中の村で馬車の車輪が外され、代わりにスキーのような板が付けられる。

馬車を引くのも馬からトカゲのような大きい動物にかわる。

ここからは馬には厳しいようだ。



「暑い」

冒険者ギルドの前で馬車から降りる。

砂漠の中にある街、スカルタに着いた。


「ありがとうございました。おかげで思っていたよりも早く着きました」

先行している仲間がお金を持っていないと伝えた所、予定よりも半日程早く到着した。


「またのご利用をお願い致します」


「イロハという人がこの街に来てると思うんですけど、どこにいるか言伝を預かっていませんか?」

僕達は冒険者ギルドに入り、受付の女性に尋ねる。


「イロハ様のお仲間の方ですね。お話は伺っております。確認の為にお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「クオンです」


「ありがとうございます。クオンさんですね。イロハ様はギルドを出て右に曲がった先にある宿に泊まっておられます」

嫌な予感が当たってしまったかな。

女性はイロハ様と言った。

誰にでも様を付ける人なら問題ないけど、僕のことはクオンさんと言ったし、イロハがやらかしたのではないかと思ってしまう。


「ありがとうございます」

嫌な予感をしつつも、教えられた宿屋に行く。


そこは高そうな宿屋だった。


「イロハに会いに来ました。クオンが来たと伝えてもらえますか?」

僕はフロントの男性に頼む。


「かしこまりました」

しばらくして部屋に案内される。そして……


「クオン君……、どうしよう」

部屋に入ってすぐにイロハが泣きそうな顔で言った。


「えっと、何したの?お金を稼ごうとしたんだよね?」


「うん。この街に着いた時にお金が全然なかったの。そろそろクオン君にもらおうかなって思ってた時だったから銅貨7枚しかなくて、宿にギリギリ泊まれるくらいだったの」

タイミングが悪かったわけだ。


「うん、それで」


「前にクオン君から私のスキルでお金を稼ぐ方法を聞いてたから、この街でミスリルみたいな物って何かなって考えたの」


「うん」


「それで、やっぱり水かなって。この街って水不足なんだよ」


「だろうね。見ればそれはわかるよ」

砂漠にある街だ。オアシスがあるわけでもなさそうだし、水は貴重だろう。


「クオン君は水魔法で出した水は飲めないって知ってた?」


「知ってるよ。もしかして、水魔法の水を売ったの?」

魔法学院で僕は知った。

水魔法で出した水には魔素が多分に含まれており、毒が含まれているのと同様に飲む事は出来ない。

少しなら問題ないけど、ずっと飲んでいると中毒のようになるらしい。

もしかしたら僕の水魔法で出した水は違うかもしれないけど、そもそも僕は水をチョロチョロとは出せないので、飲み水には出来ない。


「違うよ。最初はそう思ったんだけど、売る前にたまたま知ることが出来て、洗濯とかお風呂に使う用として水を売ろうと思ったの」


「危なかったね。飲水として売って誰か死んでたら捕まってたよ。それならなんでこんな事になってるの?」


「水魔法を使える人は何人もいて、全然稼げなかったの。だからなんとか飲める水を量産出来ないかと考えた時に、前にクオン君から教えてもらった水の魔石を思い出してね」


「ん?うん。でも水の魔石なんて高すぎて買えないでしょ?それに、こんな街で水の魔石とか売ったら駄目だよ。売ったのは水の方だよね?」


「……売っちゃった」

完全にやらかしてる。

あんな物をこの街で売ればどうなるか……それが現状か。


「……お金はどうしたの?」


「水の魔石なら持ってたの。クオン君から魔石について教えてもらった時に、何個か実物の魔石を見せられて返し忘れてたの。……返しておくね。勝手に売っちゃってごめんなさい」

イロハから火、土、風、闇の魔石を受け取る。


確かに言われてみれば、見せた魔石は渡したままになっていた気もする。


「状況はわかってるし、イロハが買い直せる物でもあるから、貸してる物を売った事は良いんだけど……。もしかして、その一個を売ったお金で水の魔石をたくさん買った?」


「一つ売った時の反応でマズいってわかったから売ってないよ。クオン君達と合流出来るまでのお金が欲しかっただけだし」


「そう。それでも十分マズいことをしたね。金の成る木を売っちゃったわけだ」


「……うん」

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