第125話 正体

「捕まえた経緯を説明するので、どこか部屋を借りれますか?」


「ご協力感謝致します。こちらへ」

僕と桜井君は衛兵さんに連れられて部屋に入る。


僕は乗り合い馬車の前に子供が飛び出した所から、不審な男達を見つけた事、近付いたら攻撃されたので返り討ちにしたことを説明する。


「怪しい人達だったので捕まえましたが、賊かどうかはわかりません。違っていたらこの人達には悪いことをしたかもしれませんが、手を出して来なければこちらも手荒な真似はしませんでしたので、その辺りを衛兵の方にはご理解頂ければと思ってます。賊だという確証があったわけではないので、殺さずに捕まえてきました。取調べをお願いします」


「ありがとうございます。しかし、危険ですので次回からは無理はなされないようにして下さい」


「ご心配ありがとうございます。それから、飛び出した子供についてなんですけど……」


「私共の方で責任を持って保護致します」


「いえそうではなくて、僕の仲間が名前を聞いた所ヘンズと名乗りましたが、偽名です。本当の名前はアルサスです。なんでわかるのかは僕のスキルによるものですが、あまりスキルの詳細を話したくはないので、聞かないでください」


「……?」

衛兵さんはピンと来ていないようだ。


「男の子が逃げてきたと言った方向には森があるだけでした。男達が隠れていたのは、男の子が指差した方角とはズレていました。男達が隠れていた場所から考えると、指差した方向に行っていたら、僕は囲まれていたかもしれません」


「おい、何言ってるんだよ」

桜井君が驚き、僕の肩を掴みながら言った。


「あの子も賊の一員なんじゃないかって言ってるんだよ。騙されて利用されてるだけなのかもしれないけど、拐われて逃げてきたっていうのは嘘なんじゃないかな。僕が思うに、あの子が飛び出して馬車を止めた所を隠れていた男達が襲うみたいな手筈だったんじゃないかと。馬車は子供を無視して走り去ったわけだけどね……」

だからこそ、ヨツバには特殊な仮面を付けるように言っておいたのだ。


結果的には必要なかったけど、あの仮面は装着者の魔力を使って防護魔法を張る優れものだ。

なんでも耐えれるような代物ではないけど、常に張るということは不意打ちにも対応してくれるということだ。


今回であれば相手は子供だし、不意打ちで即死みたいにならなければヨツバがやられることはなかった。


学院長に教えてもらった魔道具店で買っただけあって、良いものが揃っていた。


「情報ありがとうございます。そちらは慎重に調べさせていただきます」


「お願いします。ハルト君、ヨツバには秘密にしておいてね。ショックだろうから」


「あ、ああ」


「今回捕まえた人達について、衛兵さんの方で何か情報はないんですか?捕まえた手前、相手がどんな人達なのか教えてもらえるなら知りたいです」


「以前からこの辺りを根城にしていた盗賊の一部だろう。ただ、詳しいことを君達に話すことは出来ない」

仕方ないか。

宮橋君と犬飼君がどうなるのか知りたかったけど、処刑されたら戻ってくるし、戻ってきたら賊だったんだなと思うことにしよう。


「そうですか。わかりました」

他に話はないので、詰所を出ることにする。


「宮橋と犬飼はどうなるんだろうな」

詰所を出た所で桜井君がボソッと言った。


「聞いていたからわかると思うけど、賊なんだったら処刑されるんじゃないかな。今回僕に攻撃してきたわけだけど、賊ではなかったなら処刑にはならないかもね。賊と勘違いされて向かってきたから、自衛の為に攻撃したとか。桜井君の方が知ってると思うけど、一人一人とはいかなくても、衛兵さんはちゃんと調べてくれるよ。詳しいことを聞ければよかったんだけど、教えてもらえなかったし仕方ないね」


「……冷たいな」


「クラスメイトではあるけど、言ってしまえばそれだけだからね。特別仲がよかったわけではないし。まあ、冷めているといえばその通りだから否定はしないよ」


「……俺が捕まって処刑されそうになっても同じことを言うのか?」


「うーん、桜井君が処刑されても仕方のないことをしたのなら助けることはないと思う。でも、桜井君はクラスメイトではなく、今一緒に旅をしている仲間だと思ってるから、同じ対応は取らないと思うかな。それはヨツバやイロハも同じだし、ニーナやエアリアさん達アリアドネの方達が捕まっても同じだよ。処刑されるようなことをしたとは思えないからね。捕まったのが間違いだと思うから、助ける為に動こうとすると思う。実際に助けられるかはわからないけど、リスクを負ってまで助けたいと思うかどうかだと思うよ。正直な話で言えば、僕はあの2人をそこまで助けたいとは思ってない。桜井君が2人を助けたいなら止めはしないけど、協力する気もないよ」


「……悪い。責める気はなかった」


「別に気にしてないよ。僕はこれから乗り合い馬車にいつ乗れるか確認しに行くけど、桜井君はどうする?他にも行く理由はあるし、長くなるかもしれないけど」


「他にやることもないし俺も行くよ」

僕達は商業ギルドへと移動する。


「すみません。聞きたいことがあるんですけど」


「商業ギルドへようこそ。ご用件をお伺い致します」


「先日、こちらで乗り合い馬車の手配をしていただいたんですけど、責任者の方に会うことは出来ますか?」

僕は受付の女性に、どこ行きの馬車にいつ乗ったのか伝える。


「お調べ致します。少しお待ち下さい」

女性は席を離れて帳簿のような物を確認する。


「取り次ぐことは可能です。ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」

僕は馬車から落とされてそのまま放置されたこと、その結果賊と思われる人達と戦闘することになり、近くの村の方の厚意で魔法都市まで送ってもらったことを説明する。


ちゃんと立ち上がったこちらにも非はあると話はしたけど、頭から落ちたことも話して、レベルを上げてる冒険者でなければ死んでいたかもしれないと話す。


「……それは大変失礼を致しました。斡旋した商業ギルドからも謝罪申し上げます。すぐに取り次いで来ます」

女性が慌てて席を離れる。


「そこまで根に持ってたのか?」

桜井君に言われるけど、もちろん僕はあの御者を許してなんていない。

桜井君に言われてからだとしても止まったのであれば、許しはした。


「置き去りにされて大変だったのは一緒だよね?どちらにせよもう一度馬車には乗せてもらわないといけないんだから、一度責任者には話をした方がいいんだよ。お金もあまりないし、これでもう一度3人分払うのもおかしいでしょ?」


「……まあ、そうだな。ただ、金はあるだろ?」


「え?ないよ」


「は?いや、あれだけあったのはどこにいったんだよ?金貨8枚くらいはまだあっただろ?」


「5枚くらいはまだあるよ。でもほとんどはヨツバとイロハの分だからね。僕が持ってるだけで、僕が勝手に使うのは間違ってるよ」


「金貨10枚を3等分したんだろ?自分の分はどうしたんだよ?」


「この前作った杖に消えたよ。やっぱりミスリルは高いね。それにオリハルコン。1gで大銀貨5枚くらいだからね。魔石を自分達で集めた分、武器のランクを少し上げたわけだけど、少し使いすぎたとは思ってるよ」

ブラッドワンドの材料にはオリハルコンが僅かではあるけど含まれる。

その分ミスリルの必要量は減っているけど、僕は材料を買うために金貨1枚と大銀貨5枚程を使用している。

特殊な仮面を4つ買ったこともあり、僕の手持ちは残り大銀貨2枚くらいしかない。


無くはないけど、多いとは言えない。


だから、僕が恨んでいるとかとは関係なく、あの御者のせいで余分に出費が掛かるとか容認できないのだ。


「この杖そんなに高いのか……。俺が最初に買った剣なんて銅貨3枚くらいだったのにな」

材料をスキルで買ったイロハは使った金額を知っているけど、桜井君は知らなかったんだな。


「それは安すぎだね。こだわったから高いのは仕方ないけど、少し後悔しているよ。でも、あれよりも良い性能の武器を買おうとしたらもっと掛かるからね。そもそも、あの杖と同じ性能の杖なんて売ってないし、お金を一気に使いすぎたことに後悔はしているけど、あの杖を選んだことに後悔はしていないよ」


「……そうか。俺と同じく金欠ってことだな」


「そうだね」

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