第124話 決着

敵のリーダーが逃げようとするので、今までは殺さないことを優先していたけど、ここからは逃がさないことを優先することにする。


どう違うのか……。

石を射出するのに込める魔力量が違う。


当然魔力量を増やせば石の飛んでいくスピードは増す。

ただ、当たった時のダメージは増すし、込める魔力が増えればその分狙いもブレる。


石は体を貫通すると思うから、頭とか胸とか喉とか、貫通したらすぐに死ぬだろうところに当たれば助からないだろう。


そうならないように今までは威力が出ないようにしていたし、急所に当たらないようにしていた。


だけど、逃げることを選んだなら仕方ない。

捕まった仲間を置いて逃げることを選ぶなんて酷いやつだ。

間違ってはいないけど、今更逃げるのか。


「ぐはぁ!」

しまった。足を狙ったのに、お腹に当たってしまった。


「くそ!どこまでもふざけやがって。今まで全然本気を出していなかったってことかよ」

リーダーらしき男が言うけど、誰の命も奪っていなかったのだから、本気でないことくらい少し考えればわかったことだろう。


頭に血が上りすぎている。


リーダーなんだったらもう少し冷静にならないといけないだろう。

僕が逆の立場なら1人やられた時点で撤退を頭に入れるよ?

まあ、挑発してたのは僕だけど。


レベル差もありすぎるのだから仕方ないけど、やはり僕から逃げ切れることは出来ず、8人全員お縄についた。


腹に穴を空けてしまった男はそのまま放置すると死んでしまうだろうから、隠れてヒールで回復させてから治ったことがバレないように同じところに傷を負わせておいた。


男は捕まってるのになんで再度攻撃されたのか分からず睨みつけてきたけど、助けられたんだから本当はお礼を言うところだからね。


さて、ヨツバと合流しよう。


ただ、その前にやらないといけないことがある。


僕は縄での拘束がちゃんと出来ているのか確認した後、魔法で拘束から抜け出さないように魔力を最低限を残して吸い取っておく。


ヨツバのところに行く前に、僕は馬車が走り去った方へと行く。


「桜井君も降りたんだね。イロハは?」


「中貝さんは街で待ってることになった。まだレベルも高くないし、走ってる馬車から飛び降りるのは危ない。あの馬車の運転手、俺が止まるように言ったら降りたいなら勝手に降りろと言いやがった。俺は悪くないって言ってたから、お前が死んだと思ったんじゃないか?」


「それなら早めに合流出来るように急ごうか。桜井君は怪我とかしてない?」


「ああ、大丈夫だ。それよりも、ずっと激しい音がしていたけど何があったんだ?」


「賊がいたから捕まえてたんだ。殺さずに捕まえてたから、思ったより時間が掛かったよ」


「……やっぱり殺すのには抵抗があるのか?」


「ヨツバがね。僕も抵抗がないわけではないけど、衛兵に引き渡したら処刑されるだろうし、結果が同じなら桜井君が言っているくらいの抵抗はないかな。普通に暮らしている人を殺すってなると抵抗しかないけどね」


「そうか」


「賊は縛って動けなくしてあるから、一緒にヨツバのところに戻ろうか。はい、これ桜井君の仮面ね」


「なんだこれ?」


「ショックを受けないように先に教えておくけど、クラスメイトが賊になってたよ。宮橋君と犬飼君ね。田中君の時に困ったことになってね。そうならないように、こちらの正体を隠すんだよ」

僕は田中君の時にあったことを説明する。


「……ちょっと待て。仮面を付ける理由はわかった。そんなことよりも、その話だと宮橋と犬飼は処刑されるんじゃないか?」


「まあ、そうなるかもね」


「かもねじゃないだろ。なんでそんなに冷静なんだよ。クラスメイトが処刑されるんだろ?」


「2人が賊として何をしたのか知らないけど、悪いことをしたのなら罰を受けるのは当然だよね。それがこの世界では日本よりも厳しいだけだよ。賊だったとしても何もしてないなら処刑されないかもしれないし、これが2人がこの世界に来て選んだ道だよ」


「……言っていることはわかるが、こんな世界に連れてこられなければ賊になんてならなかっただろ。違うのか?」


「そうだけど、それなら桜井君は食う物にも困ってたら賊になった?なってないよね?この世界に連れてこられた時に与えられた物は確かに少なかったけど、自分が助かる為に賊になろうとは思わない。冷徹に聞こえるかもしれないけど、全てが世界のせいではないよ」


「……そうだが、確かにそうだが……それで納得なんて出来るわけないだろう」


「それなら2人を逃がせばいい?桜井君は日本でも知り合いが犯罪者になってて、死刑になるから匿ってくれって言われたら助けるの?」


「……助けはしない。でもここは日本じゃない」


「日本じゃないけど現実だよ。2人を逃したらどうなるかな?誰かこの世界の人を殺すかもしれないよ。桜井君は知り合いを助ける為に、他の人を犠牲にするの?」


「それは……」


「そういうことだから、2人の処遇は衛兵に任せるよ。桜井君も賊を街まで連れて行くのを手伝ってね。馬車がないから近くの村がないか探さないといけないね」


「…………ああ」

桜井君をなんとか説得出来たようだ。


桜井君とヨツバのところに行く。

男の子がこちらを怯えた表情で見ている。


「こっちは大丈夫だったみたいだね」


「うん。こっちには誰も来なかったよ」


「……そっか。仮面は必要なかったみたいだね」


仮面を付けた状態で全員で賊のところに戻る。


「怯えてるみたいだし、何か危険があるかもしれないから手を離さないであげてね」

僕はヨツバに男の子と手を繋いでいるように言う。


「うん。そうだね」

ヨツバはそう言って、男の子と手を繋いだまま賊達と少し距離を取る。


少し丘になってるところで望遠のスキルで村を探し、賊を引きながら村まで歩いて、村長に理由を説明したら快く馬車で魔法都市まで送ってくれた。


一番近い街が魔法都市だからだ。

逆戻りだけど仕方ない。

本当はイロハが1人で行っちゃってるから、そっちに行きたいんだけど……乗せてくれるだけありがたい。

それに次の目的地は少し特殊だ。

急に行けるところではない。


「すみません。賊と思われる人たちを捕まえました。事情があって顔を隠していますが、こういうものです」

僕は魔法都市の詰所にいた衛兵にギルド証を見せて賊を引き渡す。


「ご協力ありがとうございます。事情があるとのことですが、確認の為に私共に顔をお見せいただくことは可能でしょうか?」


「もちろんです。報復されるのが怖いだけなので、衛兵の方に顔を隠す必要はありません」

僕は衛兵の方にだけ見えるように仮面を外す。


「ありがとうございます」


「その子も引き渡した方がいいよ」

僕はヨツバに言う。


「そうだね。私達でお母さんのところに連れて行きたいけど、それは難しいもんね」

ヨツバが繋いでいた男の子の手を離して、衛兵に預ける。


「僕は衛兵の人にもう少し詳しい話をするから、2人は宿探しをしてきて。僕は今日は向こうで寝ることにするから僕の部屋は必要ないよ」


「……うん」

ヨツバは男の子のことが心配なのか、こちらをたまに見ながら離れて行く。


さて、衛兵の人に話をしたら乗り合い馬車の予約をしに行こうかな。


そう思っていたら桜井君が戻ってきた。

「どうしたの?」


「いや、衛兵に話って何かって気になってな」


「大したことない話だよ。まあ、ヨツバにはショックな話だとは思うけど、気になるなら聞いててもいいよ」

桜井君になら知られてもいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る