第123話 ブラッドワンド

ヨツバにクラスメイトが相手だということを伝えた。


「えっ!?」


「それじゃあ行ってくるね。これ付けておいて」


「……待って!え、だって、捕まえたら……田中君みたいになっちゃう……よ」


「今回に関しては堀田君達を殺したこととは意味が違うからね。ヨツバには次誰かを殺すときはその前に教えるって約束したから話しただけだから。捕まえる相手がたまたまクラスメイトだったっていうだけで、クラスメイトだから捕まえるわけじゃないよ。クラスメイトだからって賊に情けをかけるつもりはないし、賊になった時点で捕まる覚悟はしているはずだよ。僕が捕まえなくてもいつか捕まってる」


「そ、そうかもしれないけど……」


「とりあえず捕まえるから。考えるのはその後でもいいよね?それ、付けておいてね。ヨツバもバレない方がいいでしょ?」


「う、うん。そうだね」

問題を後回しにしただけだし、捕まえた賊をクラスメイトだからって逃すことにはならないだろうことはヨツバにもわかっているだろうけど、逃げるのは悪手だともわかっているので納得するしかないのだろう。


僕は魔法都市で買った仮面を付ける。

ヨツバにも僕のとは違う仮面を付けてもらう。


衛兵に引き渡すことになるわけだし、知り合いだとバレてはいけない。

田中君の時は、ギルマスといいエアリアさんといい、良い人ばかりに恵まれていたからなんとかなっただけだ。


僕が最初に狙う相手はあいつだな。

場所といいスキルといい、もってこいの相手だ。


僕はまず相手に近付くために幻影のスキルで自分の分身体を作り、狙いの相手に向かって走っていく。


「っ!おい止まれ!」

やっと見つかっていることに気付いた一番近くにいた男が剣を構えて叫ぶが、僕は当然止まることはせず、幻影で作った分身の一体を向かわせて剣を構える男を素通りする。


こいつは後だ。

このレベルの戦士とかどうとでもなる。


目的の相手に一直線に向かっていくと、ツララが飛んでくる。

分身へも攻撃している為に本体である僕への手数が少ないのもあるけど、そんな捻りもない攻撃に当たるわけはない。

男の前まで避け続けた僕は、男……というか宮橋君を杖で殴りつけた後、足を引っ掛けて転倒させる。


そして他が集まって来る前に縄で縛り、動けない状態で横たわる宮橋君を踏み付ける。


「うっ」

踏まれたことで宮橋君が呻くけど僕は無視する。


宮橋君はこれからエサになるんだ。


宮橋君を踏んだまま動かない僕は着々と囲まれていく。

別に囲まれても構わない。

こちらが追い詰め過ぎた結果、ヨツバの方に向かわれるよりはいい。

散り散りになられると捕まえるのが大変だし、むしろ好都合だ。


「くそ、ナメやがって!おい、こいつは魔法を使う。一斉に掛かるぞ」

無事7人全員に囲まれたところで、リーダーらしき男の掛け声を合図に走り寄って来る。


「ウォーターボール!」

「ストーンバレット!」

「ファイアーボール!」

「ストーンバレット!」

「ストーンバレット!」

「ストーンバレット!」


ストーンバレットと言いながらも、リキャストタイムのないただの石飛礫をメインに放っていく。


「くそ、なんて野郎だ。発動が早すぎて近づけねぇ」


「慌てるな!手数が多いだけで威力は低い。魔力が切れた時があいつの終わりだ」


確かにMPが尽きれば石を射出することも出来なくなるのでこの人数を相手にするのは難しくなる。

いや、こいつらならなんとかなるだろうけど……。


ただ、威力が低いのではなく殺さないように手加減しているんだ。

魔力操作で魔法に込める魔力をわざと少なくしているし、急所に当てないように気を付けている。



「アニキ!どうしますか?」


「こっちも消耗しているが、あっちも痩せ我慢に違いない。やられはしたが、魔法を掻い潜れることはあいつらが証明してくれた。諦めるな。後少しのはずだ」

ははは。これは滑稽だ。MPなんてまだ減っていないのに……。

少なくてもMPの1くらいは減らさせてからそのセリフを吐いてほしいものだ。


僕は今、宮橋君を踏んでいない。

何故ならエサを変えたからだ。


アニキと呼ばれたリーダーらしき男は、今僕が踏んでいる男が僕の魔法を掻い潜ったと言ったが、それは違う。

掻い潜らせてあげたのだ。


魔力操作のスキルが優れている1番の理由は、触れている相手から魔力を奪えること。

前は桜井君に魔力を分け与えたわけだけど、逆に奪うことも可能だ。


だからわざと攻撃の手を誘い出したい相手だけ緩め、近くまで来させて、手の届くところで倒したんだ。


そして相手を牽制しつつ縄で縛り、宮橋君の横に並ぶように寝転ばせておけば、宮橋君の代わりの魔力タンクになるわけだ。


接近されて、攻撃は確かに受けたけど、それも致命傷でなければ何も問題はない。

ヒールも必要ない。

その為のブラッドワンドだ。斬られた傷もブラッドワンドを介して発動した魔法に相手が当たるだけで命を吸い取り回復していくし、魔法が当たらなくても、踏んでいる男を杖で叩くだけで回復する。


突出して強い相手もいないし、僕の魔力が減っていないのに無くなるのを期待した戦い方を相手が選んだ時点で勝敗は決している。


相手は残り4人。

魔力タンクはこれで3つ目。後1つ寝転んでいる。


「はぁ。はぁ。くそ、あいつは化け物か。なぜ魔力が尽きない!」

なぜって、そちらが魔力を提供してくれているからですよ。


「アニキ、俺がやります。離れてて下さい」

もう1人のクラスメイトである犬飼君がリーダーらしき男に言う。

本当に鑑定のスキルは便利だな。

あれが犬飼君だなんて、名前を見ないと思い出さない。

漢字で名前が書いてあるだけでクラスメイトだってわかるし。


犬飼君はこんな仲間もいるところであのスキルを使っちゃうんだな。

今まで使わなかったってことはどうせ僕の思っているような制限も掛かっているんだろうし、多分死んじゃうよ?

宮橋君も、ここでタンクとして寝転んでいる人も。


うーん、このまま宮橋君には死んでもらうのがいいかな。

ヨツバにも犬飼君が殺したって言えばいいし。


犬飼君の体が膨らんでいき、毛むくじゃらになり、耳と尻尾が生える。

服は破れてしまったけど、元に戻った時に恥ずかしくないのだろうか……。


「グルルルル」

犬飼君だったものは、いまやただの獣である。

ポチとでも名付けようか。


[獣心化]

これが犬飼君のスキルだけど、これは獣神化や獣人化ではなく獣心化。

つまり心が獣になるスキルだ。


体まで獣になるとは思わなかったけど……。


ポチとなった犬飼君が四つ足で走って来る。

速いな。さすが獣だ。


だけど、心まで獣とかハズレスキルにも程がある。

こんなデメリットの方が大きいスキルをよく使うな。


戦略もなにもなく突っ込んでくるので、カウンターのように頭をブラッドワンドでぶっ叩いてあげた。


「おっと……硬いな。あんまり効いてないかな」

我を失う代わりに大分能力が増しているようだ。


木を薙ぎ倒しているし、まともに受けたら痛そうだな。


当たらないけどね。


僕は前足に狙いを定めて石を射出する。

能力が上がったといってもアリオスさんのようになったわけではないし、魔法学院のダンジョンの階層ボスだったレッサードラゴンより強いくらいだろう。


動きが速いのと、的が大きくないのが違うだけで、今の僕には雑魚なことには変わらない。


「キャウン!」

射出した石は問題なく前足を貫通する。


「逃がさないよ」

勝てないと悟ったのか逃げようとしたけど、僕はさらに石を射出して、残りの足にもダメージを与えて逃がさない。


ある程度のダメージを負ったからか、それとも時間が来たのか知らないけど、犬飼君がポチから人に戻ったので、縄で縛る。

仕方ないので、うつ伏せになるように放っておく。

両腕と両足に穴が空いてるけど、死にはしないだろう。


「て、撤退だ!」

リーダーらしき男が決断するが、果たして僕から逃げられるかな?

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