第122話 置き去り

イロハが魔法を使えるようになり、新たな武器も完成したので、長居させてもらったお礼を学院長に言って、旅を再開することにする。


次の街までは馬車で2日くらいだ。

魔法都市より刺激はないだろうけど、学院長に聞いたら有名な占い師がいるらしい。

学院の卒業生らしいけど、なんでも百発百中らしい。


占いとか興味はないけど、こんな世界で百発百中の占いは気になる。

有名みたいだし、会うことも出来ないかもしれないけど、占ってもらえないかな。


ガタンっ!


次の街のことを考えていたら、馬車が急に止まった。


「危ねぇだろうが!死にてえのか、このクソガキが!」

外から罵声が聞こえる。


「何があったのかな?」

ヨツバが不安そうに言う。


「……子供が飛び出したのかな」

クソガキと言っていたし、子供が街道に飛び出したのかもしれない。


「見てくる」

ヨツバが馬車を降りてしまった。


ここからだと状況が分からないけど、子供がすぐ退いたなら馬車はすぐ動き出すかもしれない。


「おっとっ……うわっ……痛っ!」

僕も降りようと立ち上がったところで、思った通り馬車が動き出して、僕はバランスを崩して馬車から転げ落ちた。


馬車は止まってくれるかと思ったのに、そのまま行ってしまった。


「大丈夫?」


「ああ、うん。元の世界だったら死んでたかもね。ヒール!」

僕は頭を強打していたので、ヒールで回復する。


「馬車行っちゃったね。私のせいでごめんね」

困ったな。僕だけならなんとでもなるけど、ヨツバと一緒だと面倒だな。

一人ならファストトラベルで魔法学院に戻って、同じ街行きの馬車に乗り直すのに……。


「まあ、なってしまったからには諦めよう。それに、悪いのは乗客を落としておいて見て見ぬ振りした御者だよ。先払いだから途中で落としてもいいと思ったのかな」

料金が降りる時だったら止まっていたのではないだろうかと思ってしまう。

ヨツバは自業自得だけど、僕に関しては御者の急発進で落ちたのだ。

迷わず止まれと思う。


望遠のスキルでまだ馬車は見える。

桜井君が御者の方に向かって止まるように言っているように見えるけど、止まる様子はない。


なんで止まらないんだ?

普通止まるだろう。

もしかしたら僕が頭から落ちたから死んだとでも思ったのか……。

そうなると自分の操舵で乗客を死なせたから逃げたってことだよね?


くそ、乗客がいないならここから魔法で馬車を攻撃してやるのに……。

見つけたら衛兵に突き出してやる。


ヒールで回復させればいいし、死ななければ攻撃してもいいか……。


「本当にごめんね」


「別にヨツバには怒ってないよ」


「だってなんだか怖い顔してるよ」


「……ごめん。僕を落としたまま置き去りにした御者をどうしてやろうかと思ってただけだよ。ヒールで乗客は治すから、馬車を破壊してもいいかな?」


「……駄目よ」


「うん、わかってるよ。言ってみただけ。冗談だよ、冗談」


「あの、僕のせいでごめんなさい」

馬車に飛び出したであろう男の子に謝られる。


クラスメイトに異様に会っていると思っていたので、飛び出したのはクラスメイトじゃないかと思っていたけど、全然違った。


「なんで馬車の前に飛び出したのかな?」

ヨツバが男の子に聞く。


子供は苦手なので、ここはヨツバに任せよう。


「あの……ごめんなさい」


「お姉ちゃんもお兄ちゃんも君のことを怒ってなんてないからね。どうして馬車の前に飛び出しちゃったのかなって聞いてるだけ。馬車の前に飛び出したら危ないってわかるよね?」

ヨツバが子供に優しく聞く。


「僕逃げてきたの」


「どこから?」


「あっち。逃げる途中にみつかっちゃって、頑張って走ってて馬車が見えなかったの」

僕は子供が指差した方を見る。森がある。


ぐるっと一周見渡して僕は思う。

……本当に面倒だ。

まあ、ヨツバを放置しなくてよかったかな。


「そっか。君の名前は?」


「……ヘンズ」


「ヘンズ君ね。お父さんかお母さんは?近くに住んでるの?」


「わかんない。気付いたら知らないところにいたの」


「そう……。どうしようか?」

このヘンズと言った男の子に関しては、まあ、ヨツバが放置するなんてことを許さないだろうから、衛兵に引き渡すかすればいいだろう。


それよりも問題は、隠れている男達の方だ。

さて、どうしたものか。


「ヨツバはこの子を放置したくないんでしょ?衛兵に引き渡すなりするまでは連れて行けばいいよ」


「いいの?」


「ダメって言っても譲らないでしょ?それなら口論するだけ時間の無駄だよ。それよりも問題があるよ。……色んな意味で」


「……聞くのが怖いんだけど」


「まず、見張られてる。見えるだけで8人いて、僕達を囲もうとしている感じだね。距離があるから簡単に抜けれるとは思うけど、数は多いね。その子が特別なのかな。なんだとしても、助けるならここで始末するとかした方がいいね。ずっと追い続けられるのは勘弁だ」

子供に聞こえないように話す。


「始末って殺すの?」


「殺すことに抵抗があるなら捕まえようか?子供を誘拐するような連中だから、衛兵に引き渡しても結果は変わらないだろうけど」

生きたまま衛兵に引き渡せば、尋問された後に処刑されるだろう。

ここで死んでおいた方が幸せだったまである。


田中君の時のことで、どうなるかは大体想像がつく。


「簡単に言うけど出来るの?私は人を相手に剣を振れるか自信がないよ」


「少なくても見えてる8人に関しては問題ないよ。そもそも気付かれていることにも気付かないような連中だ。新しい武器を試すのにちょうどいいくらいだよ」


「そうなんだ」


「一人でやるから、ヨツバは隠れてていいよ。ヨツバでも問題なく相手に出来ると思うけど、覚悟が決まってないなら危険だからね」


「……ごめん」


「まあ話も聞きたいし、勘違いかもしれないから殺さずに捕まえることにしようか。それでいいよね?」

勘違いじゃなければ捕まえた人は死ぬ。

それでいいかの確認だ。

後々引きずられるのは困る。


「このまま逃げたらダメなの?」


「いいけど、この子を連れている限りずっと狙われ続けるかもしれないよ。もしかしたら僕たちの知らないところでまた賊のところに行くかもしれない。そこまで想定して逃げるならいいと思うよ」

僕の中に逃げるという選択はないけど、ヨツバがそうしたいなら今は逃げてもいいとは思う。


「ごめん。そこまで考えてなかった。……仕方ないよね」


「これは人助けだよ。ここで僕達が捕まえられるのに捕まえなかった結果、他の善良な人が代わりに不幸になるかもしれない。そう割り切るしかないよ」


「うん、そうだよね。それから、ごめんなさい。私も一緒に戦いたいけど、殺さないといけなくなるかもと思ったら手が震えて止まらないの」


「それは別にいいよ。ヨツバは隠れてて」


「うん。ありがとう」

よし、やることは決まったな。


ヨツバが決めたところで一番言わないといけないことを言うとするか。

どうせバレるわけだし、僕は約束を守る気があるのだと証明したほうがいいしね。


「それから、8人の内の2人はクラスメイトだけど、場合によっては殺すからね。捕まえるつもりだけど、自分が危険なら殺すかもしれない。それから捕まえた結果処刑されるかもしれないけど、許してね」


「えっ!?」

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