第121話 魔法武器

自由時間と言いつつ、みんなを巻き込んで素材集めを続けて、遂に必要な素材が揃った。


桜井君もこの7日で十分稼げたと言っていたので、結果的には巻き込まれてよかった……はずだ。


イロハのスキルで闇の魔石以外の素材は買ったので、大分お金が無くなったけど、これで護身用みたいな片手剣を卒業出来る。


魔法使いなんだから、やっぱり装備は杖だよね。


今までは近付かれた時に対処する方法が無かったから片手剣を使っていただけだ。


今なら近付かれても魔力操作を取得したからやりようはあるし、そもそも仲間が増えたので近付かれることが少ないはずだ。


本当は汎用性の高い全属性のマルチワンドを作りたかったけど、それは無理なので作るのは闇特化のブラッドワンドだ。


近距離戦もやることがあるだろうし、これも悪くはないだろう。


汎用性には欠けるけど、対人戦ならこっちの方が圧倒的に使い勝手がいいし。


「今から武器を作りにいくの?」

イロハに聞かれる。


「そうだね。学院長には炉を使うって言ってあるし、勿体ぶる必要もないからこれから作ってくるよ」

一度元の世界に戻り、必要な準備もしてある。


「私も見に行っていい?」


「別に良いけど、何も面白くはないよ」


「私には面白いことかもしれないから、見せてね」

結局イロハだけでなく、ヨツバと桜井君もついてきた。


僕は炉の前に座る。


「火は入れないのか?」


「必要ないから火は付けないよ。重要なのは目の前に炉があることだからね」

桜井君は僕の答えに、こいつ何言ってるんだ?と言いたげな顔をしている。


別にその反応は間違ってない。

今から目の前で摩訶不思議なことが発生するとは知らないのだから。


僕がこれからやるのは鍛治だ。

鍛冶屋や工房などにある炉の前に行くと鍛治メニューが現れる。

そしてストレージに入ってる物で作成可能なリストが表示されるので、作りたい物を選択すると材料が消費されてミニゲームが始まる。


「おい、なんで急に杖が出てきたんだ?」

桜井君が言っているけど、答える暇はない。


このミニゲームはリズムゲーである。

上から下にマーカーが落ちていき、マーカーが目の前の杖に当たった瞬間にハンマーを振り下ろす。

それをリズムよく繰り返すだけの鬼畜なミニゲームである。


何が鬼畜かというと、生産職を優遇し過ぎたミニゲームだからだ。

各種生産スキルを取得していると、落ちてくるマーカーの数が減ったり、ハンマーを打ち下ろした時の判定が優しくなる。

全ての生産スキルを取得すると、どこでハンマーを打ち下ろしても、目の前にexcellentと表示されるクソ仕様だ。


ミスするたびに能力が下がっていき、状態が0%まで低下すると装備が壊れる。

つまり、減点方式である。


そして、クリア出来ないなら生産スキルを取得してこいと言っているのではと思えるほどに、スキルなしでは難しい。

もちろん僕は、生産スキルにポイントを振るなんて甘えだと思っていたので、何で音ゲーをやらないといけないんだと思いながらもやり込んだ。

そして、ゲームでは最高状態の装備を作れるようになった。


だけど、これからやるのはゲーム以上の鬼畜仕様だ。

何故ならゲームではあったはずの音楽がないから……。


試しに木の剣を作った時にマジか……と思った。

木の剣は簡単だから何も問題はないけど、ブラッドワンドは簡単ではない。

音楽があっても失敗する時はある。


だから僕はうまくいくまでゲーム内で練習してきた。

無音にして。


カン!カカン!カカカカン!カン!――――――――――


永遠とも思える時間ハンマーを打ち下ろし続け、遂に完成した。

結果……356打してフルコンボ。

なのに状態が88%である。

great表示を1回出すと1%性能が下がる。

僕はgreatを12回も出してしまった。

結果、フルコンボなのに12%も能力がダウンしたブラッドワンドが完成した。


goodだと2%、missだと3%も一気に落ちるので、頑張ったと思う。

……やっぱり悔しい。


伝説武具なら仕方ないけど、中級装備で失敗するのは悔しすぎる。


「何落ち込んでるんだ?」


「いや、思ったよりも上手くいかなかったからね」


「完成しているのを何度も叩いていたが、何してたんだ?というか、失敗したのか?」


「桜井君達には見えてないんだね。音ゲーをやらされてたんだよ。ゲームセンターにある太鼓のやつみたいなやつ。僕の腕のせいでこの杖は能力12%減なんだよ」


「12%って落ち込むほどなのか?」


「別に12%能力が落ちたから落ち込んでるんじゃないよ。完璧な物を作れなかったことに落ち込んでるんだ。気持ち的には12%減も50%減も同じだよ」


「……そうか。それで完成はしたのか?」

リア充で廃人ではない桜井君には僕の気持ちはわからないだろう。


「完成はしたよ。闇属性に特化した杖が」


「なんだか禍々しいね」

イロハが言うけど、その通りだ。


この杖は闇属性に特化してはいるけど、特化の仕方が変わっている。

ブラッドと言う名の通り、血の杖だ。

この杖は血に飢えているという設定で、この杖で攻撃されると命を吸われる。


命というのはHPのことだけど、設定を聞く限りでは呪われていないのが不思議なくらいである。


「闇属性だからね。そう思うのは仕方ないよ」


「その杖は何が出来るの?」


「杖を介して魔法を発動すると、闇属性が追加付与されるんだ。例えばウォーターボールを放つと、相手には水属性と闇属性のダメージが入る。光属性の相手とかには効果的だね。もちろんそのまま殴ってもいいけど」


「なんだかクオン君が作ったにしては普通だね」

イロハは僕のことをなんだと思っているのだろうか……。


まあ、実際には普通の杖ではないから間違ってないんだけど……。


「変わった武器を作る必要はないからこれで良いんだよ。それに、闇属性を乗せるだけじゃなくて、杖が魔力の増幅装置にもなってくれるから、単純に魔法の威力が上がるんだよ」


「クオン君はそんなに強くなってどこを目指してるの?」


「どこって言われるとどこだろう。この世界の覇者?ゲームでもそうだったけど、こういうのって最終的には自己満足だから終わりなんてないんだよね」


「……。」

聞いておいて無言はやめてほしい。


「イロハも僕みたいにゲーム廃人になればわかるよ」


「……クオン君を否定するわけではないけど、私はクオン君みたいにはなりたくはないかな」

わかってはいたけど、辛辣である。

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