第104話 side 委員長⑤

「失礼します」

入団テスト後、団長に残るように言われた私達は、騎士団のテントの中で話をするとのことだったので、リノとテントにお邪魔する。


「まずは入団テストお疲れ。君達の合否を決めるに当たって、聞いておかなければならないことがあったので、残ってもらった」

朝から夕方までずっと模擬戦をしていた団長にお疲れと平気そうな顔で言われたことに、少し思うところがある。

この人の体力は無尽蔵なのだろうか……。


「団長こそお疲れ様です。聞きたいこととは何でしょうか?」


「いくつか聞きたいことがあるが、まず一つ目にリノ1人ではどこまで戦えた?」


「え……、えっと、あんな動きは出来ませんでした」

リノが答える。


「リノはEランク冒険者の中でも上位に入れるくらいに戦えます」

リノをアピールするように私は答える。

嘘は言わない。でも、ちゃんとアピール出来るところは、アピールしないといけない。


「なるほど。それじゃあ2つ目だが、インチョーがずっと変な動きをしていたのは何だ?」


「……あれは団長の動きに隙がないかを自分の体を動かしながら探してました。入団させていただけるのであれば共に戦う仲間なので、詳しくお話しします」

私は恥ずかしいと思いながらも答える。

団長の動きをトレースして動いていたわけだけど、私の体が追いついていないせいで変な動きに見えたらしい。


「ふむ。3つ目だが、最後の一撃は狙っていたのか、それとも偶然かどちらだ?」


「もちろん狙っていました。団長は剣を振り下ろした後、深追いはせずに一歩下がって構え直す癖があります。そこを狙いました。もちろん、これが入団テストだからです。実戦であれば死地に行かせたりはしませんでした」


「なるほど、負けるとわかっていて仲間を踏み込ませた訳だね」

痛いところをつかれたと思った。

確かにあそこに踏み込めば殺されると思った。


「そうです。しかし、団長と対峙した時点でそれは同じです。実戦であれば話の分かる相手なら降伏、分からない相手なら逃走を選びます」


「ふむ。4つ目だけど、君の力はリノ以外を強化することも可能か?」


「強化するには条件があります。その条件をクリアしていれば多分誰でも強化出来ます。ただ、リノ以外を強化したことはないので、確証はありません」


「なるほど。最後の質問だが、君だけを入団させたいと言ったらどうする?」


「お断りします」


「え!?」

私の返答に、リノがバッと私の方を見る。


「私はリノがいなければ死んでいました。リノだけ騎士になる資質がないと言うのであれば、騎士になれるようになってから2人でまたテストを受けにきます」


「ふむ。その答えを聞いて私も君達の合否が決まったよ。まずリノ、騎士見習いとして入団する事を許可する」

リノは合格のようだ。

良かったと思うけど……私は?

あれ?今の流れで私だけ落ちるパターンなんてあるの?


「それから、インチョー。君は参謀として入団を許可する」

え……参謀?


「団長!?」

まさかの発言に私が言葉を失っていたら、控えていた騎士の1人が声を発した。


「私は以前から13騎士団がどうして騎士団最弱なのか考えていた。私は決して13騎士団所属の騎士達が無能だなんて思っていない。他の騎士団にも引けを取らないと私は思っている。だが、他の騎士団ではなんなくこなせる任務も失敗し、他の騎士団との模擬演習にも勝った試しがない。この騎士団に足りない者は頭脳だ。君達と戦ってそれがわかった。正直、君達との模擬戦でだけ私はスキルを使わざるを得なかった。私も力量を測る目は持っているつもりだ。確かにリノの力は冒険者で言うならEランク相当だろう。インチョーのスキルで強化されてCランク相当になってはいたが、スキルを使うほどではなかった。そのリノにスキルを使わされた。インチョーの策略に嵌った結果だ。これは正当な評価だ」


「し、しかし……」

先程声を上げた男性は納得のいっていない様子だ。


急に私のような小娘が参謀だと言われても、納得できなくて当然だろう。


「ではこうしよう。今回の盗賊のアジトの偵察任務の指揮官をインチョーに任せる。その結果次第でどうするか決めることとする。期待された成果を出せば参謀に、期待外れであれば騎士見習いだ」

私の意思とは関係なく話が進んでいく。

一応、失敗しても騎士見習いにはしてくれるようだけど……。


「……それであれば皆も納得するでしょう」


「決まりだな。貴様らがインチョーの指示を聞かなければ正しい判断も出来ない。この任務が終わるまでは必ずインチョーの指示を聞くように!これは団長命令だ。全員わかったな?」


「「はっ!」」


「そういうことだから、早速だが準備を進めてくれ。出発は2日後の朝だ。君が正式な騎士に対して、リノは騎士見習いにした説明をしていなかったが、説明は必要だろうか?」


「必要ありません。お心遣いありがとうございます」

私に合わせてリノを正式な騎士にした場合、実力不足で命を落とす可能性が高い。


最前線で戦うリノと、周りに守られながら指示を出す私とでは、同じ任務でも危険度が違い過ぎる。

その辺りを考慮してリノを騎士見習いとしてくれているということだ。


しかし、不思議なことが一つある。

この団長は柔軟な思考の持ち主だと思う。

私の方が上手くやれる可能性はあるが、この騎士団に頭脳が足りないとは思えない。


何か他に要因がありそうだ。


「よろしい。勘違いしないように言っておくが、リノを合格としたのはインチョーを引き止める為ではない。リノ自身を評価した結果だ。リノのこれからの活躍にも期待している」


「ありがとうございます。頑張ります」

騎士達を残して団長がテントから出て行った。


「早速で申し訳ありませんが、皆さんのレベルとスキル、戦い方を教えて下さい。教えてもらえる範囲で構いません」

私はとりあえず全員分の情報を集めることにする。

何をするにも、指揮をする相手が何を出来るのか知らないことには始まらない。


団長命令だということもあるのか、納得いかない様子を出しつつもみんな素直に教えてくれた。


全員分の情報を聞き終わり、任務である盗賊のことも聞き終えたところで私は宿に戻り休むことにする。


「大丈夫?」

リノに聞かれる。


「大丈夫だよ。この騎士団の問題もわかったから、とりあえずこの任務は何とかなるように頑張るよ」


翌日、私は団長の所に行き、聞かなければならない事を聞くことにする。


「団長にお尋ねしたいことがあります」


「なんだ?」


「以前失敗した任務とは何でしょうか?もしかして今回のような偵察任務だったりしないですか?」


「ああ、そうだ」

やっぱりそうだ。


「恐れながら言わせていただきます。この騎士団に偵察任務は向いていません。今回は受けてしまっている以上やらなければならないのはわかりますが、以後断るべきです」


「……私の仲間達が偵察も出来ない程の無能だと言いたいのか?」

団長の眉がピクっと動く。


「違います。偵察任務に向いていないと言っています。今回の任務ですが、偵察ではなく盗賊の討伐でも構いませんか?もちろん、実際に盗賊のアジトを確認してから最終的な判断をしますが、偵察で留めないといけない理由があるのかどうかの確認です」


「討伐出来るならそれに越したことはない。今回の盗賊は規模がデカい。だから私達が偵察をして詳しい情報を持ち帰り、実績のある第5騎士団がしっかりと準備して討伐する予定になっているだけだ」


「わかりました。では明日は討伐する方向でやらせてもらいます」


「偵察任務でいいところを討伐しようとして失敗した場合、私達の評判がどうなるかわかっているのか?」


「地に落ちるでしょう。しかし、偵察任務の方が成功率が低い以上、こうするのが最善です」


「……わかっているなら私からは何も言わない。君を指揮官としたのは私だ」


「ありがとうございます。それから1つお願いがあります」


「聞けることならなんでも聞こう。今回は君の力量を見るのも目的の一つだからな」


「昨日の入団テストのリストを先程副団長に見させてもらいました。ロゼという女性を明日同行させてもよろしいでしょうか?もちろん、彼女の返答によりますが、団長にはロゼさんの活躍も見てもらい、ロゼさんの必要性をわかっていただきたいです。わかっていただけたなら入団させて欲しいです」


「ロゼというのは君の知り合いか?」


「違います。昨日見てはいるはずですが、ほとんど覚えていません」


「それなら構わない。私的な理由でないなら認める」


「ありがとうございます。ではこれから勧誘に行ってきます」


「待て!ちなみにロゼというのはどいつだ?何番目に戦った?」


「リストでは28番目ですね。弓を使っていたようです」


「……ああ、彼女か。了解した」

模擬戦をした相手全員を覚えているのだろうか?

それとも少数派の女性だから?


私はロゼさんを勧誘するべく冒険者ギルドへと行き、泊まっている宿を教えてもらって会いにいく。


運良く宿にいたので、話をして、明日ついて来てくれることになった。

ロゼさんとしても入団テストの再選考になるので、悪くない話だと理解してくれた。


夜にロゼさんも含めて、騎士団全員で作戦会議をする。

偵察ではなく討伐作戦に変わっていることに驚かれはしたが、団長から説明をしてもらい納得してもらう。


そして翌日、作戦を開始する。


盗賊は街から少し離れた森の中にある洞窟を住処にしているらしい。

森で狩りをしていた男性が偶然見つけ、衛兵に連絡したことで今回の任務となっている。


以前からこの街道では盗賊による被害が多く、高ランクの護衛を複数人連れていないと安心して通れなかった。


そういった事情がある為、今回の任務の重要度は高い。


「予定の位置に着きました。皆さんはここで一時待機してください」

私は大多数を待機させて、少数でさらに先へと進む。


メンバーは私とロゼさんと副団長に騎士見習いのゴンズさんの4人だけだ。


相手も見張りは欠かさずしているはずだ。

大人数でぞろぞろと動けば気付かれるだろう。


「どう?見える?」

少し丘となっている所に移動して、ロゼに確認する。


ロゼのスキルは[鷹の目][気配察知][弓術][風魔法]と素晴らしい。


何故団長はロゼの入団を断ったのか。

それは入団テストのやり方がよくないからだ。


あのやり方だと、ロゼが入団出来る可能性は限りなく低い。

結果として第13騎士団の団員は猛者が集まってはいるが、全体で考えると必要なピースが足りていない。


「参謀のスキルの効果もあってか、いつもよりよく見えます」


「見張りの位置はわかった?」


「はい。3人います」


「狙えそう?問題ない?」


「大丈夫です」


「……お願い」

ロゼさんが弓を引き絞り、矢を連続で3本放つ。

風魔法を乗せた矢は猛スピードで森の中へと消えていく。


「3人とも倒れました」

ロゼさんから報告を受ける。

私の指示で3人殺したということだ。


思うところはあるが、覚悟は決めている。


「流石ですね。ゴンズさん、これを洞窟に投げ込んで下さい。ロゼさん、サポートをお願いします」

私はゴンズさんに薬の入った瓶を5本渡す。


「わかりました」


ゴンズさんのスキルには[遠投]がある。

本人はハズレスキルだと言っていたが、そんなことはない。

使い方次第だ。


ゴンズさんが瓶を洞窟がある方向へ力任せに投げて、ロゼさんが風魔法で落下位置を調整しつつ追い風で飛距離をさらに伸ばす。


「5本ともおおよそ狙い通りの位置に落下して割れました」


「作戦通りですね。本隊と合流して捕縛しましょう」

私達は一度本隊を待機させていた場所に戻り合流して、全員で洞窟を目指して森の中を進んでいく。


「ロゼさん、洞窟の中はどんな感じですか?」

洞窟の入り口付近に着いたところで、ロゼさんに確認する。


「暗くて奥まで見えませんが、見える範囲では皆倒れています」


「……光魔法で洞窟内を照らして下さい」

騎士の1人に光魔法で洞窟内に光球を放ってもらう。


「見えましたか?」


「はい。眠らなかった賊は武装しています。見える範囲で50人程います」

ロゼさんが答える。


「当然こちらには気付いているでしょう。しかしやることは変わりません。副団長、用意をお願いします」


「ああ」

副団長の指示の元、洞窟の前に葉っぱが敷き詰められる。


賊が遠距離から攻撃してくる可能性もある。

葉っぱを敷き詰める者と守りを固める者に分かれて準備を進める。


「燃やして下さい。風魔法の使える方は作戦通り煙を全て洞窟の中に送って下さい。こちらに漏らさないように」


ゲホっ!ゴホッ!


洞窟内から咳き込む音が聞こえて来るが、少しして静かになった。


「換気して下さい。誤って吸わないように注意して下さい」

さらに数分待ってから、洞窟内の空気を入れ換える。


「これで全員寝ているはずですが、注意しながら捕縛して下さい」

再度、光魔法で洞窟内を照らしてロゼさんに確認してもらってから、洞窟内に入っていく。


「団長、無事終わりました。後は賊が起きた所で、この場にいない仲間の情報を吐かせられれば尚良いと思います」

私は作戦が無事終了したことを確認してから団長に報告する。


「……ああ、良くやった。期待以上だ」

初任務を無事終わらせて街に戻り、祝杯を上げる。


「今回の活躍は高く評価している。私の見込み以上の働きをしてくれた。何か褒美を出そうと思うが、何か欲しい物はあるか?」

団長に宴の席で聞かれる。


「褒美ではありませんが、私にはやらないといけない事があります。今は宴の席です。また後日時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わない」

私は転移したことと、一緒に転移させられたクラスメイト達を探している事を団長に打ち明けることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る