第105話 友達
桜井君の頼みを聞いて、レベル上げを手伝いに行く。
桜井君は心配そうにしていたが、一対一の状態であればスライムとゴブリンを相手にするには問題はなかった。
しかし、桜井君は魔法使いとして戦っていくつもりがあるのだろうか……。
剣を振ったら届く距離で魔法を使って魔物を倒している。
ゲームにも超近距離の魔法はあった。
その分威力が高いわけだけど、基本的に魔法をメインで戦うなら、相手からは距離を取るべきだ。
最後の一撃で相手からの攻撃を無視するなら悪くないと思うけど……。
クロスレンジで戦う魔法使いとか何がしたいのかわからない。
そんな事を考えていたら、桜井君の魔力がなくなったらしい。
桜井君は息切れしている。
システムが違うからか、僕は魔力が枯渇しても息切れ一つしないけど、この世界の人は魔力を使えば使うほど疲れていく。
桜井君は魔力がなくなったから終わると言うが、このペースでやっていたら桜井君は低レベルのまま学院を去ることになるだろう。
仕方ないので、僕はスキルを取得することにした。
[魔力操作]というスキルで、その名の通り魔力を操るスキルだ。
スキルポイントを50も使うが、汎用性の高いスキルなのでいつかは取得しようと思っていた。
5レベル分と考えるともったいない気もするけど、この世界でならお金稼ぎにもなるし、良しとしよう。
僕は桜井君の肩に手を置き、体内の魔力を操り桜井君の体内に移す。
とりあえずMPを1送る。
「何したんだ?」
「魔力譲渡ってスキルを使ったんだよ」
僕は桜井君に嘘を教える。
魔力譲渡というスキルも実はある。スキルポイント5で取得出来るけど、僕としては全くいらないスキルだ。
僕が魔法使いなので、魔力を貰いはしても、あげることは普通はない。
今回はイレギュラーだ。
魔力操作というスキルの本髄は別にあるので、敵として戦うことになるかもしれない桜井君には秘密にしておく。
魔力操作のスキルで魔力譲渡のスキルと同じことも出来るというだけだ。
ゲームであれば、魔法使いは魔力操作を取得して、戦士がパーティによっては魔力譲渡を取得していた。
ちなみに基本ソロプレイの僕は魔力譲渡のスキルは取得していなかった。
取得している戦士は初心者ともパーティを組む人くらいだ。
夕食を食べている時に桜井君から僕の魔力は無限にあるのか聞かれたけど、そんなことはないと答える。
MPを1送るだけで8割近く回復するなら、MPを2送れば桜井君の魔力は満タンになり、無くなる頃には僕のMPは自然回復で満タンになっている。それだけだ。
翌日からも桜井君のレベル上げを手伝い、見てられなかったので桜井君に魔法使いとしての立ち回りというのを教える。
僕はゲームでは戦士だったので、魔法使いの立ち回りに詳しいわけではないけど、桜井君よりはマシだろう。
1人で戦う場合とパーティを組んで戦う場合の2パターンを教える。
それから、ずっと攻撃にしか魔法を使っていないので、衛兵になるなら、攻撃魔法よりも防護魔法が必要なんじゃないかとアドバイスしておく。
マルチスペルの本来の強みは属性の違う魔法を同時に使えることではない。
防護魔法でシールドを張りながら、魔法で攻撃出来ることだ。
他にもバフを同時に2種類掛けたりも出来るし、戦略の幅がかなり広がる。
なぜ防護魔法を覚えようとしないのか不思議でならなかったので、つい教えてしまった。
「何飲んでるんだ?」
ある日、桜井君に聞かれる。
「魔力回復薬だよ。桜井君の魔力を回復させるのに、自然回復が追いつかなくなったからね」
桜井君のレベルが上がってきたことで、遂に僕のMPの自然回復が追いつかなくなった。
仕方ないのでMPポーションを飲む。
ゲームならコマンドを入れるだけなのに、実際に飲まないといけないのが地味につらい。
4本目からお腹がタポタポする。
「俺の為にそんな高級品を使わせて悪いな」
桜井君は勘違いしているが、MPポーションは買っていない。
自作品だ。
魔力操作のスキルを取得すると、生産職のようにMPポーションを作ることが出来る。
水にMPを移して溶け込ませているだけの、低品質のものではあるけど。
今度からは水ではなく、ジュースか何かに溶け込ませることにしようと思う。
飽和量の問題なのか、MPを込めれば込めるほど飲まないといけない量が多くなるのが困る。
「気にしなくていいよ」
桜井君が恩を感じているようなので、後々のことを考えて自作していることは言わないことにする。
その方がより恩を感じてくれるだろう。
桜井君のレベル上げを手伝い始めてから1ヶ月程経ち、桜井君が魔法学院の設備を使えなくなる。
まだイロハは魔法を使えるようになっていない。
体内の魔力感知は出来るようになっているので、いつ魔法が発動してもおかしくはないところまでは来ているが、発動してくれない。
「僕は一度学院を出ようと思うんだけど、イロハはどうする?」
「王都に行くの?」
「いや、桜井君に付いて行こうかと思ってね。用事が終わったら戻って来るけど、イロハはどうする?一緒に行くなら魔法学院に戻る必要がなくなるから、そのまま用事が済んだら王都に行くけど……」
「あと少しで魔法が使える気がするから、もう少し粘っていいかな?どのくらいで戻ってくるの?」
「桜井君が街まで1週間くらい掛かるって言ってたから、早くても2週間くらいかな」
「そっか。気をつけてね」
「ヨツバはどうする?ダンジョンに潜れなくなるから、ここにいてもやることはなくなるけど、残る?それとも一緒に行く?」
ヨツバ1人ではダンジョンに人数不足で入れない。
「……少し考えさせて」
「わかった。部屋でゴロゴロしてるから、決めたら教えて」
僕はそう言って自分の部屋に入る。
少ししてからヨツバが入ってきた。
「いろはちゃんの前だから聞かなかったけど、用事って何をしに行くの?あれから1ヶ月以上経ったよね?」
「ヨツバが心配しているようなことをやりに行くわけではないよ。次誰かを殺すときは前もって教えるって、前に言ったよね?桜井君以外にもしも旅先で出会ったら殺すかもしれないけど、桜井君を殺しに行くわけではないよ」
「……そっか。それなら何しに行くの?」
「前に桜井君の恩人が怪我で動けなくなったって言ってたでしょ?桜井君が僕達の秘密をバラすような人じゃないってわかったし、付いて行って治してあげようかと思ってね」
「……なんか怪しい。クオンがそんな善意だけで動くとは思えないんだけど……」
「流石にそれは……いや、まあ、僕も善意で動くことはあるよ」
否定しようと思ったけど、偽善者という称号を獲得している事を思い出して言い淀んでしまった。
実際に今回は善意だけで助けに行くわけではないので、ヨツバの言っていることも間違ってないし……。
「ごめんなさい。流石に失礼だった。クオンも善意で動く事はあるわよね。でも、今回は善意だけじゃないよね?」
気を使われた挙句、今回は善意ではないと断言された。
「桜井君の恩人の人を助けたいっていうのは本当だよ」
「そこを疑ってるわけじゃなくて、他にも理由があるんじゃないかなって」
「……まあ、そうだね。誤魔化せそうにないから話すけど、桜井君に恩を着せとこうかなって思っただけだよ。いつか困った時に、桜井君に何か頼み事をするかもしれない。その時に断りにくくしておこうかなと……」
「…………はぁ」
ため息を吐かれた。
「なんかごめん」
僕は空気に耐えられなくなり、なんとなく謝った。
「クオンらしい理由だったとは言っておくけど、あんまりそういうのはよくないと思うよ」
「よくないのはわかってるよ」
自分でもそのあたりは理解している。
だからこそタチが悪いともわかっている。
「恩人の人の怪我が治れば桜井君も喜ぶだろうから行くなとは言わないけど、友達なんだからもう少し損得無しに助けてあげてね」
果たして僕と桜井君は友達なのだろうか?
「まあそうはいっても、別に桜井君に無理矢理言うことを聞かせたりするつもりはないよ。それから僕と桜井君って友達なの?」
「友達じゃないの?」
「クラスメイトの1人ってくらいじゃないの?……友達なのかな?友達なら確かに損得なしに助けた方がいいのかな……?」
僕が桜井君と友達なのだとしたら、恩とか貸しとか関係なく助けるのは普通だ……と思う。
「私に聞かれても困るけど、一緒にご飯を食べたりしたんだから友達じゃないの?」
「……そういうものなのかな。ヨツバとイロハは親友だよね?」
「そうよ。少なくても私はそう思ってるわ」
「僕とヨツバは友達なの?」
「…………友達じゃないならなんだと思ってるの?」
ヨツバは少し怒っている気がする。
僕も自分で言ってからしまったなとは思った。
「……パーティメンバーかな?」
僕は恐る恐る答える。
「……それならいいわ」
正解ではなかったようだけど、地雷は踏まずに済んだようだ。
もしかしてヨツバは僕のことを友達だと思っていたのだろうか……。
「それで、ヨツバはどうする?一緒に行く?」
僕は話を戻すことにする。
「いろはちゃんを1人残して行きたくないし残るわ」
「それなら1人で行ってくるね。もしも何かあって魔法学院にいられなくなったら、冒険者ギルドに伝言を残しておいて。合流出来なくなると困るから」
「わかった。そうするね」
ヨツバ達とは別行動することになった。
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