第91話 足元を見たやり方
馬車に揺られ続けて魔法学院がある都市に到着した。
「とりあえず、宿探しだね。その後に時間があれば魔法学院に行こうか」
いつも通りヨツバとイロハの分だけ宿を借りる。
「今の宿で借りてきたけど高かった。1泊で銀貨1枚と銅貨5枚したよ。借りたのは2人部屋だけど、今までのところだと2人部屋なら銀貨1枚しなかったよ」
「今までの街と違って都市だからね。明らかに人通りも違うし、全体的に物価が高いのかもしれないよ」
「お金があるって言っても、節約しないとすぐに無くなっちゃいそうだね」
「そうだねって言いたいけど、まだまだお金はあるよ。ここまで来るのに乗り合いじゃ無い馬車を借りたり、温泉街でたくさん衝動買いしたわけだけど、まだ金貨1枚分も使ってないからね。何も考えずに散財していれば、ヨツバの言う通りすぐに無くなるだろうけど、なんだかんだで金額を気にしてるからね」
「でもいつかは無くなるでしょ?」
「使えばいつかは無くなるけど、一時的にお金を稼ぐだけならイロハのスキルでなんとでもなると思うし、あんまり考える必要はないよ。目立ちたくはないから、あまりやり過ぎないようにはしないといけないけど……。今後、僕と急に別行動することになることもあるかもしれないから、イロハにはそのスキルでお金を稼ぐ方法を教えておくよ」
「うん、ありがとう」
「魔法学院に行くには少し遅くなったし、今日はイロハがお金を稼げるように前準備をしに行こうか」
「何するの?」
「イロハのスキルはイロハの知っているものしか買うことが出来ないでしょ?」
「そうだよ」
「だから、イロハにはこの世界の知識を入れてもらおうと思うんだ。そのスキルって実物を見る必要はあるの?それとも例えば本に書かれているのを読むだけでも大丈夫?」
「それがどんなものかわかれば実物を見る必要はないよ。私もラインはわからないけど、ある一定以上その物の知識があれば買えるようになるみたい」
「それなら冒険者ギルドに行って資料を見せてもらおう」
よくわかっていなさそうなイロハに詳しく説明しながら冒険者ギルドに向かう。
「すみません。鉱石について知りたいんですけど、珍しい鉱石などのことも書かれている資料を見させてもらえますか?」
冒険者ギルドには、魔物や採取する植物、それから鉱石についてなど、依頼に関係がある資料があることを以前教えてもらった。
知らない魔物の討伐に向かったりする時は先にその資料でその魔物について調べてから行く。
「鉱石でしたらこちらですね。見終わりましたら忘れずに返却をお願いします」
資料を借りるにはギルド証が必要なので、僕は資料と引き換えにギルド証を渡す。
周りに人がいないところに移動した後、僕は資料をパラパラっと捲り、目的の鉱石を探す。
「今、ミスリルって買うことが出来る?」
イロハのスキルの条件も知りたいので、先に聞いておく。
「買えないよ」
「それじゃあこのページを読んでみて。ミスリル鉱石について書かれているから」
イロハにミスリルの知識を得てもらう
しばらくしてから再度買えるようになったか確認してもらう。
「あ、買えるようになったね」
「ちなみにいくらくらいで買えるの?」
「1gで大銀貨1枚くらいだよ」
僕は依頼書を見に行き、受けるわけではないので剥がさずに戻ってくる。
「ちょうどミスリル鉱石の納品依頼が出ていたけど、1gにつき銀貨8枚だったよ」
「それなら損だよね?」
「この依頼書通りであれば損だよ。でもその資料にも書いてあったと思うけど、ミスリルは希少なんだよ。前にこの世界にあるものは同じくらいの金額で買えるって言ってたでしょ?だから相場としては大銀貨1枚くらいで合ってると思うんだけど、それがお金を出したところで手に入らない物だったら相場以上にお金を出す人はいると思わない?」
「クオン君が言っていることはわかるけど、そんなに簡単にいくものなの?」
「入手経路を怪しまれるから何度も使える手法ではないけど、今いる土地に必要な物を考えれば難しくはないと思うよ。ちなみにここの魔法都市ならミスリルね。ミスリルはごく僅かしか採掘されないんだ。でも魔法の媒体になるミスリルを欲しい人はこの都市にはたくさんいる。相場が1g大銀貨1枚だからといって、金貨10枚払えば100g手に入るわけではないよね?物がないんだから」
「そうだね」
「イロハはミスリルを欲しがっている人を探して、例えば100gを金貨20枚で売ればいいんだよ。相場の倍だとしても手に入るなら買う人はいるはずだよ。魔法学院の研究棟にでも行けばすぐに買いたい人は見つかるんじゃないかな……。この時に100g全て買うなら売るって言えばさらに間違いないと思うよ。少しずつでも買えてしまうと、相場よりも高い金額は出し渋りそうだからね」
「なんだか悪いことをしている気がするんだけど……」
イロハの気持ちも分からなくはない。
欲しいものを目の前に吊るして、相場以上のお金を取ろうとしているのだから、相手の足元を見ているのと同じだ。
これが欲しいならもっと出せるだろ?と……
「まあ、実際にやるかどうかはイロハに任せるけど、こういったやり方があるよってだけ。イロハの気持ちが分からなくはないけど、本当にお金が足りなくなってきたら早めに決めた方がいいよ。何を売り買いするかによるけど、この方法は元手がないと出来ないからね。先にお金をもらうことでも可能だけど、それだと何かあった時に返金出来なくなる。それから気になるならあまり吹っかけ過ぎなければいいよ。さっきは相場の倍で売る例えをしたけど、金貨11枚で売ったとしても金貨1枚は浮くわけだから、気に病まない程度で必要な額を稼げはいいよ」
「うん、ありがとう」
「薬師さんの時もそうだったけど、クオンはよくそうポンポンとお金を稼ぐ方法が思いつくね。自分のスキルでもないのに」
「薬師さんは生産スキルだったからね。あれが普通なんだよ。多分この街にもいると思うけど、錬金術師が自分で森に入ったりして素材を集めたりはしないでしょ?冒険者ギルドに素材の依頼を出して集めてもらってるはずだよ。だから薬師さんには、あなたは冒険者じゃなくて生産職なんだよって教えただけだよ。それから今のイロハのやつに関しては需要と供給の話だからね。そこまで変わったことは言ってないよ」
「そうかも知れないけど、私だとお金を稼ぐってなるとどこかで雇ってもらわないとってまずは考えちゃうから、そういう思考にすぐならないのよ。そういった稼ぎ方があるって言うのは、全く知らなかったことではないのだけれど……」
「今までの生活環境の違いだと思うよ。日本に住んでれば多くの人は大人になったらどこかの会社に就職するわけだから、ヨツバは自分を雇ってくれるところを探さないと!って考えちゃうんだよ。僕の場合は引きこもってたからね。どうにかして将来は部屋にいたままお金を稼ぐ方法はないかって考えて、まずは今の自分の手持ちで稼ぐ方法はないかって考えるんだよ。雇われたくないということでもあるけど……」
あのまま引きこもり続けていた自分のことを考えると少し憂鬱な気分になる。
「そっか」
「それじゃあやり方も教えたし帰ろうか。明日は朝から魔法学院の見学だね。少しワクワクするね」
僕は訪れるはずの現実のことは忘れることにした
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