第90話 猶予期間の過ごし方

ヨツバが部屋を訪ねて来た


「聞きたいことがあるんだけど……」


「何?」


「えるちゃんとの話っていろはちゃんがさっきはいたから話せなかったこと?それとも私にも話せないこと?」


「神下さんがヨツバに話していいと思っているかはわからないけど、僕としてはヨツバには話してもいいよ」


「聞いてもいい?」


「神下さんは僕にクラスのみんなを殺すのを待ってって言いに来たんだよ」


「えるちゃんはクオンに人殺しをやめろって言いに来たってこと?えるちゃんはクオンがみんなを殺して回っているのを知ってるってことよね?」


「ヨツバとの会話を聞いたって言ってたからどこかで盗み聞きされたんじゃないかな。どうやってかは知らないけど。それと、止めるようにじゃなくて待ってって言ってたから、時間が欲しいってことだと思う。それから、身勝手な理由で殺してほしくないって言ってたから、みんなが死ぬことが嫌なんじゃなくて、みんなが死ぬことで神下さんが何か困るんじゃないかな」


「えっと、よくわからないんだけど……」


「だよね。僕もよくわからないから詳しく聞きたかったんだけど、聞く前に消えちゃったよ」


「それでクオンはどうするの?」


「とりあえず1ヶ月は殺さずに待つことにしたよ。絶対ではないけど、基本的にはそうするつもり。それまで何をするかはまだ決めてないよ」


「そうなんだ……。えるちゃんの体がどうのって言ってたでしょ。あれは?」


「それはイロハがいたから話さなかったことじゃないよ。僕としては2人に言わないでとは言われてないし、話してもいいけど、どうする?」


「…………いい。今は聞かない」


「そう。それじゃあ、明日イロハも含めて3人でこれからどうするか考えようか。何かやりたいことがないかイロハにも聞いておいて」


「わかった。おやすみ」

ヨツバは戻っていった。


翌日、3人でこれからの事を話し合う。


「私、クオン君みたいに魔法を使ってみたい」

何かやりたいことがないか聞いたら、イロハが魔法を使いたいと言った。


「魔法か……。アリオスさんから魔法学院の推薦状もらったから行ってみる?」


「それって私も入れるの?もらったのはクオン君だよね?」


「中に入るくらいは出来るんじゃないかな?通うのは出来ないかも知れないけど……」


「通わなくても魔法を使えるようになるかな?」


「さあ?僕が魔法を使えるのは特殊なケースだからね。でも色々と話は聞けるんじゃないかな?ヨツバは何かないの?」


「魔法学院に行くのは私も構わないよ。ただ、お風呂のある生活に慣れちゃったから、お風呂のある宿屋に泊まれるようにお金を稼ぎたいな。クオンは?」


「レベル上げかな。魔法学院に行くなら、学院内のダンジョンを使わせてもらえないか頼んでみようかな。1ヶ月くらいレベルを上げればかなり上げれると思うんだよね。後は装備品かな」


「装備品?」


「レベルを上げてステータスを上げたり、スキルを獲得するのもいいけど、装備品を揃えるのも必要だよね」

転職もゲームと同じだったし、場を整えれば鍛治も出来ると思う。


「それじゃあ次の目的地は魔法学院でいいのかな?」


「そうしようか」


行き先が魔法学院に決まった。


その後は自由行動にして、馬車を借りに行った後は適当に街をブラつきながら考え事をする。


ずっと視線を感じる気がするのは、昨日神下さんに会ったのが原因かな……。

見られている可能性を知ってしまったから、そう感じるのかな?

今後も勝手に覗き見されることを考えると、何か隠れている人を見つけるようなスキルを獲得した方がいいのかな?

そんなスキルあったかな?気配察知系のスキルでいいのかな?

いや、もう色々バレているわけだし神下さん1人のためにスキルポイントを使うのは勿体無いか……


そもそも天使ってなんなんだろう?


考えても答えなんて出ないし、調べるしかないよね。


そういう意味でも魔法学院に行くのはよかったかも知れない。魔法以外にも資料とかはあるだろうし。


考え事をしながら目に入っていた物を買っていたから、必要ないものまで買ってしまった気がする。

まあ、どこかで必要になるかも知れないからいいか。


翌日、魔法学院がある都市を目指して出発する。


「温泉ではなかったけど、満喫したみたいだね」

出発前にも露天風呂に入っていた2人に言う。

相当気に入ったようだ。


「開放感があって、大きいお風呂ってだけで十分満喫出来たよ」


「温泉が無いって聞いた時はあんなにショックを受けてたのに……」


「すごく楽しみにしてたんだから仕方ないじゃない」

ヨツバは少し恥ずかしそうだ。


「また温泉が湧いたら来ようか」


「また来たいね。でも温泉湧くのかな?」


「そう遠くない内に湧くと思うよ」


「クオン君はなんで温泉が湧くってわかるの?」


「マップであの掘っているところの下に水脈があるのが確認出来たからね。まあ、温泉じゃなくてただの水の可能性もなくは無いけど、今まで温泉が湧いてた土地だし温泉の可能性の方が高いんじゃないかな」


「そうなんだ。だったら教えてあげればよかったんじゃない?あそこが出ないって思い込んで違う所を掘り始めちゃうかもしれないよ。水だったとしてもそれはそれで喜ばれると思うし……」

イロハに言われる。


「目立ちたくないからね。それにピンポイントであの場所を掘ってたわけだし、何かしら根拠があって掘ってると思うよ」


「そっか。気になってたんだけど、なんでクオン君はそんなに目立ちたくないの?異世界人だってことがバレることのリスクは教えてもらったからわかってるつもりだけど、バレるリスクがなさそうなことでも出来るだけ目立たないようにしてるよね?」

イロハに痛いところを突かれる。

もちろん、みんなを殺して回っているからだけど、そうは答えられない。


目立つということは、それだけ記憶に残るということだ。


例えば堀田くんが事故ではなく、殺されたということが後で発覚したとする。


その時に、そういえば怪しい男がいたと思われるのか、観光で女の子2人と来たと言っていた10代前半くらいの黒髪の青年が怪しかったと思われるのかでは大きな差がある。

同じ情報を与えていたとしても、目立ってなければどんどんと記憶から薄れていくものだ。

思い出そうとした時には顔は出てこない。


「異世界人ってことがどこから漏れるかわからないから、日頃から気をつけているだけだよ」


「そっか。慎重なんだね」


どんどんとハードモードになっていくから慎重にならざるを得ないだけだけどね……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る