第92話 学院案内
翌日、魔法学院に向かい、門のところに警備の人がいたので、その人にアリオスさんに書いてもらった推薦状を見せる。
「通うかどうかは考えて無いですけど、アリオスさんからこれを見せれば見学させてもらえると聞きました。入ってもいいですか?」
「少しここで待っていてくれ。学院の方を呼んでくる」
少しして警備の人が戻ってきた後、女の人がやってきた。
「お待たせしました。わたくしこの学院で水魔法を主に担当していますベレッタと申します。本日の案内役をさせて頂きます」
「クオンです。よろしくお願いします」
僕に続いてヨツバとイロハも挨拶する。
「アリオス殿の推薦状を読ませていただきましたが、相当の才をお待ちのようですね。警備の方から聞いてはおりますが、入学する予定はないのですか?アリオス殿の推薦になりますので、当学院としましては、お仲間の方達の分も含めて入学金や教材、寮費等全て免除する用意が出来ています」
今の短い時間の間に学院としての僕達の対応を決めてきたらしい。
僕だけでなく、ヨツバとイロハも無料で通わせてくれるようだ。
「……今のところ考えてはいませんが、見学させていただいて気が変わるようであればお願いします」
短い期間でイロハが魔法を習得出来るなら、その間だけ通わせてもらうのもいいかもしれないとは思っている。
そういった融通が利くのかは分からないけど。
「かしこまりました。当学院に通いたくなるように案内をさせていただきますね」
「お願いします」
「それでは施設のご案内からさせて頂きますのでついてきて下さい」
僕達はベレッタさんについて行き、学院内を案内される。
「魔法についてほとんど知らない状態から、最初の魔法を習得するまでにどのくらいかかりますか?」
僕は案内されながら、知りたいことをその都度質問する。
「そうですね……カリキュラムによりますが早い方だと5日くらいでしょうか。大体の方は半年程通えば1つは習得出来ますね。ただ、魔法は才能に左右される所が大きいので、残念ながらいつまでも習得出来ない方もおられます」
5日は特例として、1ヶ月くらいであればここに在籍してもいいな。
習得できるか否かはイロハの才能次第になるけど……
「ここが学院で管理しているダンジョンになります」
聞いていた通りダンジョンがあった。
「このダンジョンは攻略済みのダンジョンですか?」
「いえ、89階層までしか攻略されておりません。20階層までは教育で使用するので、ほとんどのトラップも解除してあります」
トラップも無いとなるとレベルを上げるには良い環境だ。
「こちらが書庫になります」
「魔法関係以外の蔵書はありますか?」
「ほとんどは魔法学の基礎や応用などの実用書になりますが、他の蔵書もありますよ。何かお探しの本があるのですか?」
「信仰に関する本を探しています。神や奇跡、それから神の遣いについてです」
「多くはありませんが、置いてあったと思います」
それなら天使についても何かわかるかもしれない。
「こちらが訓練場になります。ちょうど訓練の最中ですね」
「随分と小さい子が多いですね」
10歳にも満たない子供ばかりに見える。
「この子達は長い期間を掛けて魔法のスペシャリストを目指しています。当学院には大きく分けて2つのコースがあります。この子達のように基礎から応用までをじっくりと学ぶコースと、短期間で魔法の習得を目指すコースになります。クオンさんの場合は既に魔法を習得されているようなので、軽く基礎の話をした後にこの子達と同じコースの応用の辺りから学んで貰いたいと考えています」
なるほど。そうなるとイロハが学院に通う場合は魔法習得を目指すコースになるわけだね。
ぐるっと一周、学院を周ってきた。
ベレッタさんが案内してくれたおかげで大体どんなところかはわかった。
「推薦状の内容を僕は見ていないのですが、1ヶ月程仲間のイロハだけ通わせてもらって、僕達2人は学院の設備だけ使わせてもらうことは出来ませんか?現状で魔法を習得したいのはイロハだけですが、ここの設備には惹かれるものが多々ありました」
僕はダメだろうなと思いながらも聞いてみる。
魔法を習得したいイロハはここに通うのが良いかもしれないけど、魔法を使うと言っても根本が異なる僕は通う必要はない。
ただ、案内してもらってここの設備には惹かれるものがある。
「構いません。魔法習得ということであれば1ヶ月だと足りない可能性もありますが、それは大丈夫ですか?」
ダメ元で聞いたのにオッケーをもらってしまった。
どのみち1ヶ月は誰も殺さないのだ。
ここに在籍していてもいいだろう。
「習得出来なければまたその時に考えるということでもいいですか?」
1ヶ月後にイロハが習得出来ていなくて、もう少し通いたいと言えば別行動してもいい。
僕は移動することになると思うけど、ヨツバもここに残ってもいいし、ある程度経って習得出来たら合流すればいい。
「構いませんよ」
「少し相談させて下さい」
僕はベレッタさんに断りを入れてから少し離れて相談する。
「レベル上げも出来るし調べ物も出来そうだから僕は1ヶ月くらいならここに在籍しても良いよ。2人はどうしたい?」
「1ヶ月で魔法を習得出来るかな?」
イロハは心配そうだ。
「それはやってみないと分からないみたいだね。1ヶ月で足りなければここに残ってもいいよ。1ヶ月したら僕はここを離れると思うけど、習得し終わった頃には戻ってくるようにするから、それまで別行動にすればいいよ」
「その時は私はどうしたらいい?」
ヨツバに聞かれる
「ヨツバもここに残ってもいいよ。ヨツバはここに在籍するなら1ヶ月間どうするつもり?一緒にレベル上げする?それとも何か依頼でも受ける?寮は使わせてくれるみたいだし、お風呂にも入れるよ」
ここの寮には共用の風呂があった。
しかも結構大きい。
ヨツバの希望は風呂に入れるようにお金を稼ぐことだったので、何をするにしても希望は叶うことになる。
「どうしようかな。宿を借りる必要もないし、ここの寮を使わせてもらえるのはありがたいな。クオンだけレベルが上がると、後々依頼で私が足を引っ張ることになるから私もレベル上げがいいかな……」
「レベル差が出来ても、ヨツバに合わせて依頼は受けるからその辺りは気にしなくてもいいよ。僕はお金を稼ぐのが目的であって、冒険者で上を目指したいわけでは無いからね。依頼とかとは別にドラゴンとかがいるなら戦ってはみたいけど、それは個人的な欲求だからヨツバが気にすることでは無いし」
「……何をするかは後でゆっくり考えることにするよ。何にしても宿代が浮くし、いろはちゃんが魔法を覚えられるかもしれないからここに在籍するのは賛成だよ」
「それなら1ヶ月程在籍しようか。僕はレベル上げの前に書庫に籠るからそれまでにヨツバはどうするか考えておいて」
「うん、わかった。クオンはなんで神様について調べようとしているの?」
ヨツバに聞かれる。
僕が調べようとしているのは神ではなく天使についてである。
でもそれを言うとなんで天使について調べるのかということになるので、他の理由を答える。
「実際に神がいるわけだから、そこを調べればヨツバ達も元の世界に帰れる方法が見つかるんじゃないかと思ってね。後はこの世界のことをもう少し知りたいと思うし、調べられる環境にいる時に調べておこうと思っただけだよ」
実際に死ぬ以外でも帰る方法はあるかもしれないので、本当にこれを調べたとしても、絶対に無駄というわけでも無い。
「それなら私も手伝うよ」
「それじゃあお願いしようかな」
断るのもおかしいので、頼むことにした。
「ベレッタさん、とりあえず1ヶ月程ここに在籍させて下さい」
「承知しました。編入手続きは私の方で準備しておきます」
「お願いします。1つ聞きたいのですが、実質的に編入するのは僕じゃないわけですけど、なんでそれでも構わないんですか?」
理由がわからないので確認しておく。
「学院としましては、アリオス殿の推薦状を持ってきたという理由で特例を認めています。正直に話すのならば、クオンさんの実力や才能を考慮しての特例ではないのです」
「同じ推薦状を持っていれば、魔法に関して何も才能がないのがわかっていて、さらに魔法に興味もない人でも同じ対応だったということですね?」
「言い方は悪いですがその通りです。実際には、流石にそのような人が持ってこられたら、本当にアリオス殿が推薦状を書かれたのか確認をさせていただくことになりますが……」
納得の理由だった。
やっぱりアリオスさんの影響力は凄まじいようだ。
こうして僕達は一時的に魔法学院に在籍することになった。
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