第77話 サブクエスト
露天風呂の準備が出来たので、ヨツバとイロハは露天風呂へと向かった。
僕はずっと迷っていた。
やるべきかやらないべきか。
何を迷っているのか、簡単に言うと覗きをしに行くかどうかである。
覗きにいきたい理由は僕が思春期だからというわけではないし、2人の裸を見たいというわけでもない。
見たくないと言えば嘘になるかもしれないが、覗きに行ったとしても見るつもりはない。
僕のやっていたゲームにはサブクエストが数多く存在していた。
この覗きに関してもサブクエストの1つである。
ほとんどのサブクエストはやり込み要素の意味合いが強く、達成した時に貰える報酬も魅力的なものではない。
お金や素材など他の方法でも手に入るものだ。
しかし一部のサブクエストでは達成した場合に貴重な報酬が手に入る。
その代表となるのがスキルだ。
スキルポイントを使えば獲得出来るスキルであっても、スキルポイントは有限だ。出来れば使いたくない。
この覗きイベントもその内の1つである。
手に入るのは[望遠]というスキルで遠くまでハッキリと見ることが出来る様になるスキルだ。
[覗き魔]という不名誉な称号も手に入ってしまうわけだけど……
サブクエストを達成する条件は、露天風呂にいるプレイヤーが見える位置に10分間滞在し続ける事である。
実際に覗くかどうかは関係ない。
ゲームでは仕様上覗くしかなくなるのだが、今は覗かなくてもいい。
しかもゲームでは覗いたところで見えるのは作られたキャラクターだし、水着姿だ。
海のフィールドに行けば危険を冒さなくても見ることが出来るので、報酬以外に得るものは無いと僕は思った。
しかし覗くという事に意味があるのか、サブクエスト達成後も何度もリトライする人がたくさんいるらしい……
そんなこのサブクエストだけど、10分間滞在する以外にも達成させるには2つのルールを守る必要がある。
まず1つ目に、露天風呂にいるNPCは覗く対象としてカウントされない。そして男性もカウントされない。
つまり、ちゃんと誰かが動かしている女性のキャラクターでなければならないということだ。
これに当てはめると、ヨツバ達はこの街に住んでいる他の人よりは対象として判断される可能性が高いと思う。
2つ目に、覗かれる対象と協力してはいけない。
サブクエストを達成させるために対象のプレイヤーが手助けしてはいけないということだ。
「クエスト達成したいから覗かせてね」
「わかった。私は露天風呂で気づかないフリして待機してるね」
みたいなやりとりはNGということだ。
この辺りの判断をどうやってやっていたのかは不明だけど、リアルの知り合いに協力してもらっても達成扱いになるらしいので、会話ログなどでチェックされているのだろうと僕は勝手に思っている。
ゲームの場合は、女性側の覗かれてるプレイヤーが覗いているプレイヤーを撃退(クエスト失敗に)すると、相手のレベルに応じて経験値を得ることが出来る。
その結果、女性側プレイヤーの経験値の稼ぎ場になり、このサブクエストの難易度は最高レベルに高くなった。
しかも撃退されるとデスペナを食らうという鬼畜仕様だ。
僕も何回ここでデスペナを食らったことか……
それはゲームの話で、今回はそんなに難易度は高くない。
ヨツバ達は経験値に飢えた狼ではないのだから。
僕が迷っているのは、実際に覗く気が無いにしても、倫理的にスキルの為に覗きをしてもいいのかということと、覗きがバレた時のことが心配だからだ。
仮に撃退されたとしても、ゲーム内ではデスペナと同じペナルティを食らうというだけで、実際に死んだわけではなかったので、それはそこまで心配していない。
レベルが1割下がるだけだ。
「気持ちよかったわ。温泉じゃなくても、久しぶりにお湯に浸かれただけで満足出来たよ」
「気持ちよかったね。足も伸ばせたし大きいお風呂ってだけで今は満足だよ」
僕が迷っている内に2人が風呂から上がってしまった。
「それは良かったね」
「クオンも入ってきたら?宿の人が温め直すのは厳しいって言ってたから早く入った方がいいと思って呼びにきたんだよ」
「ありがとう。入ってくるよ」
僕は露天風呂に浸かりながら考える。
別に今日やらないといけないことはないので焦ることはない。
焦って行動したら、どう転んでも後から後悔する気がする。
うーん、あの辺りならバレずに覗けそうだな。
僕はそんなことを考えながらゆっくりと露天風呂を楽しむ。
僕は風呂から上がった後、ヨツバ達の部屋に行く。
「露天風呂ってだけで確かに気持ちよかったよ」
「やっぱりお風呂にちゃんと入れるっていうのは幸せだね」
ヨツバは少し前までの悲壮感が嘘のように幸せそうだ。
「温泉は無かったけど、どうする?どのくらいこの街に滞在する?」
僕は2人に希望を聞く
「温泉とは関係なく、静かで良いところだからすぐに出るのはもったいないかな」
「そうだね。もう少し滞在してもいいね」
2人はもう少しこの街に居たいようだ。
ということはまだ考える時間はあるってことだね。
「それじゃあとりあえず1週間くらいはこの街に滞在することにしようか。誰かいるかもしれないしね」
「そ、そうだね。この街にも誰かいるかもしれないもんね」
「もしかして忘れてた?」
ヨツバの言い方が少し怪しかったので聞いてみる。
「忘れてはないよ。今は久しぶりのお風呂のことで頭がいっぱいになってただけだよ」
「それなら仕方ないね。自分に余裕がないと誰かを助けることなんて出来ないからね」
「そ、そうよ。それに私もクオンが元の世界に帰れて余裕があったから助けてもらえたんだし、間違い無いわ」
ヨツバが誤魔化すように言った。
「ごめん、僕の言い方が意地悪だったね。常にクラスメイトの事を考え続けてる方がおかしいよ」
「クオン君、慌ててる四葉ちゃんが可愛いからってあんまりいじめたらダメだよ」
話を終わらせようと思ってたのに、先にイロハにおかしなことを言われてしまった。誤解である。
「誤解だよ。そんなつもりはないからね」
「それはそれでヒドいよ」
ヨツバに言われる。
「今のはなんて言っても正解はなかった気がするよ」
何を言っても地雷を踏んだ気がする。
「わかってるよ。別に本気でヒドいなんて言ってないからね」
「勘弁してよね。それじゃあ僕は自分の部屋に戻るね」
僕は自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。
とりあえず猶予はあと少なくとも1週間はある。
スキルの為に人として間違ったことをするか、スキルを諦めるか慎重に決めないといけない。
僕は考えながらそのまま寝てしまった。
そして翌日、僕は[望遠]のスキルを獲得する
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