第78話 サブクエスト②

翌日、2人を覗くかどうか冷静になって考えた結果、覗きをするのはやめる事にした。

やっぱり覗きをするという行為を、スキルを獲得する為とはいえ自分の中で肯定することが出来なかった。


それによくよく考えてみたら、今ここで覗きをした場合、僕が死んでゲームオーバーになった時に、覗きをしたという事実を残して元の世界に戻る可能性が高い。

それは嫌だ。罪の重さとかではなく、あいつは自分の欲望の為に覗きをした奴だとレッテルを貼られるのが嫌である。


神から言われたのは、クラスメイトを殺した場合に関しては、元の世界に戻っても殺人者にならないというだけだ。

覗きを含め、全ての罪が許されるわけではない。


危なかった。

ゲーム感覚になりすぎていて、感覚が麻痺していたかもしれない。

ゲームのような世界ではあるけど、この世界はゲームではなく現実だ。

それは忘れないように気をつけよう。


ただ、だからといってスキルを諦めたくはない僕は、サブクエストの達成条件を考えて、薄い可能性に掛けて1つ試してみる事にする。


「今日はいつ頃風呂に入る?」

僕は2人の部屋に行き、風呂に入る時間を聞く。


「夕食の後がいいかな」

相談した結果、夕食を食べてから風呂にする事にしたようだ。


「わかった。店主にそう伝えておくよ」


店主に今日は夜に風呂に入りたいから、僕達が夕食を食べ終わってからお湯を張ってもらえるようにお願いする。


その後、3人で活気の無い温泉街を見て回り、夕食を食べた後に作戦を実行する。


「イロハ、ちょっと時間もらってもいい?」

僕はイロハを呼ぶ


相手はヨツバでもいいのだけれど、ヨツバだと僕が何か企んでいることがバレそうな気がしたので、イロハを呼ぶことにした。


「堀田くんのことでしょ?別に私に気を使わなくていいわよ」

ヨツバに検討違いのことを言われる。


タイミングとしてはヨツバがそう思うのは仕方のないことだ。今日、温泉街を見て回っている時にたまたま堀田くんを見つけていたのだから。


見つけただけでまだ堀田くんに接触はしていない。

慎重にというのもあるけど、堀田くんが普通に生活を送れていそうだったから緊急性を感じなかったというのが大きい。


以前にヨツバは堀田くんに告白されて断ったことがあるらしく、それからは少し気まずいらしいので、ヨツバはその事に対して気を使わなくていいと言っているのだと思われる。


しかし僕の中の優先度として、今はメインクエストよりサブクエストだ。


「堀田くんのことではないよ。ヨツバにはあまり関係のないことだからイロハだけ呼んだだけで、別にヨツバも一緒に来てもいいよ」


「違うの?」


「うん。堀田くんのことも考えないといけないけど、ある程度余裕はありそうだったからね。完全に別件だよ」


「何をしにいくの?」

イロハに聞かれる


「昨日ここの露天風呂のお湯の張り方を店主に見せてもらったんだけど、魔法の使い方として参考になりそうだったんだよ。イロハがこれからどうするのかはわからないけど、魔法を使う方向になるなら見ておいて損はないんじゃないかと思って誘いに来たんだ。ヨツバを誘わなかったのは、既に近接戦のスタイルが出来ているからだよ」


「そうなんだ。クオン君がそういうなら見ておこうかな」


「私も見に行こうかな。1人で部屋にいてもやることないし……」

ヨツバも行くようだ。

イロハをメインで誘ったからか、特に僕の言動を疑ってはいないようだ。


僕達は店主の所に行き、今日は3人で露天風呂にお湯を張るのを見させて欲しいと頼む。

店主に了承をもらい、露天風呂へと向かう。


昨日と同様に店主が水魔法で水風呂を作って、火魔法でお湯に変えていく。


3人でそれを見ているわけだけど、しばらくして僕のスキルに[望遠]が追加された。

ちゃんと[覗き魔]の称号も獲得してしまっている。


露天風呂にいる女性プレイヤーを覗ける位置に10分間滞在し続ける。

騙すような形で露天風呂内に誘いはしたけど、サブクエストの話はしておらず、このクエストに関しては協力関係にない。


ちゃんと条件を満たしている。


女性プレイヤーの格好や入浴が目的かどうかはルールに書かれてなかったので、その裏をかいた形になる。

可能性は低いと思っていたけど、この辺りの仕様はやはりガバガバのようだ。

占い師の水晶で転職が出来た時もそう思った。


そもそもゲームでは露天風呂内に入浴以外で入ることは出来ず、強制的に水着姿に変えられる。

なので、その辺りのことは運営がルールにわざわざ書かなかっただけだと思われるが結果的に助かった。


「クオン、なんだか嬉しそうね。どうしたの?」

顔に出てしまっていたようだ。


「なんでもないよ」

クエストは達成したのだから話しても問題ない気がしたけど、元々は本当に覗こうとしていたということがバレる気がした。

実際に覗いたわけではないし、バレたところで問題はないけど、なんだか言いたくないな。


「何か隠してるね」

やっぱりヨツバは鋭い気がする。

それとも僕がわかりやすすぎるのかな?


「別に隠してないよ」


「本当に隠してない?いろはちゃんもクオンが何か隠してるって思うよね?」


「え?私にはわからないよ」

イロハにはわからないようだ。

そうなると、ヨツバが鋭すぎるのかな?

それかイロハが鈍感すぎるのか……


「何か言えないようなことを隠してるわけではないよね?」

言い方でわかる。ヨツバの中で僕が何かを隠しているのは確定しているようだ。


「あー、わかった、教えるよ。ここでは言いにくいから部屋に戻ろうか」

僕は店主に話を聞かれないように、部屋に戻ってから白状する事にする。


「さっきスキルを新しく獲得したんだ。望遠ってスキルね。ゲームのサブクエストの達成条件を満たしたら、もしかしたら獲得出来るかなって思って試したら、本当にスキルを獲得出来たから嬉しかったんだよ」

とりあえず、覗きのことは伏せて答える。


「それならなんで隠そうとしたの?」

ヨツバに問い詰められる。


まあ、覗きをしようとしていたことをバレたくなかったわけだけど、流石にそうとは言えないな。


「このサブクエストなんだけど、露天風呂にいる女性プレイヤーが見える位置に滞在し続けるっていうクエストなんだよ」


「それって覗きってことだよね?」

ヨツバがジト目で僕のことを見る。


「そうだね。だから言いにくかったんだよ。でも勘違いしないで欲しいのは実際に覗いてはいないからね。さっき一緒にいたからわかると思うけど、2人と一緒に店主がお湯を張るのを露天風呂内で見てただけだから」


「それならそう言ってくれれば良かったのに……」


「女性プレイヤーと協力したらいけないって条件があったから言えなかったんだよ。騙すようなことしてごめんね」


「実際に覗こうとしていたわけじゃないみたいだから別に怒りはしないけど、それじゃあいろはちゃんを誘ったのはそれが目的だったってことね」


「魔法の使い方として参考になるって言ったのは本当だよ。それからヨツバを誘うと今みたいに勘付かれると思ったからイロハを誘ったんだ。イロハもごめんね」


「別に覗かれたわけではないし、実際に魔法は参考になったからいいよ」


「それじゃあクオンの事情もわかったことだし、私達はお風呂に入ってくるわね。ちょっと準備があるからいろはちゃんは先に行ってて」


「うん。先に行ってるね」

イロハは露天風呂へと向かっていった


なんとか、肝心な所は言わずに済んだようだ。


「クオンに聞きたいんだけど」


「なに?」


「元々は覗こうとしてたでしょ?」

あー、ヨツバにはバレていたようだ。


「……なんでそう思うの?」


「昨日の夜、なんだかクオンの様子が少しおかしかった気がしたから。それに温泉が枯れているのは本当に知らなかったみたいだし、この街に行こうって誘ったのはクオンだからね」


「……おっしゃる通りです」

誤魔化しようがなさそうなので、正直に認める事にする。

本当に覗いてなくてよかったと思う。


「やっぱり。実際には覗いてないみたいだし、いろはちゃんには内緒にしておくね」


「うん、ありがとう。助かるよ。僕はそんなに顔に出てるかな?」


「さっき風呂場で嬉しそうにしてたのはちゃんと顔に出てたよ。隠し事してる気がしたのはなんとなくかな」


「そっか」

やっぱりなんとなくなんだね。

そう言われると何に気をつければいいのかわからないな。

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