第75話 side 委員長③
冒険者としてスライム討伐をしている時に、リノという女の子と仲良くなった。
リノは村での生活が嫌で、冒険者になるために最近この街に移動してきたらしい。
リノもまだGランクだというので、一緒に依頼を受ける事になった。
それから何度か依頼を受けた後、リノと一緒の部屋に泊まる事にする。
2人部屋ではなく、1人部屋を2人で使う。
本当はいけないが、宿屋の店主をうまく説得した結果、5泊で銅貨20枚の所を銅貨25枚と少し上乗せするだけで許してくれた。
しかも夕食は2人分出してくれる。
大分出費が減った。ありがたい。
ベッドは日替わりで使うので、1人は床で寝るわけだけど、店主が使わなくなった布団をくれたので全然辛くはない。
こんなに良いことが続いていると逆に心配になる。
そんなことを思ってしまったからだろうか……、私は今死にそうになっていた。
私だけではなくリノもだ。
今日もいつも通り、安全を考えてスライム討伐と薬草採取の依頼しか受けていなかった。
基本は薬草採取で、スライムがいたら倒すくらいだ。
危ないので森には入っていなかった。
近くまで行っただけだ。
なのに私達の目の前にはウルフがいる。
しかも逃げようか迷っているうちに囲まれた。
どう考えても勝てる相手とは思えない。
逃げきれるとも思えない。
私はどうしようか考えた結果、賭けに出ることにする。
「リノに教えていなかったスキルがあるの。統率ってスキルで私の指揮下にある者の能力を上げるスキルなの。使ったことがないからどのくらいの効果があるのかわからないけど、使わないよりは良いと思うのよ。私の指揮下に入ってくれないかな?」
「……いいわよ。どうせこのままだと2人とも死んでしまうもの。どうすればいい?」
「ありがとう。私の指示通りに動いて。私よりもリノの攻撃の方が威力は高いわ。だから私がまず後ろのウルフに突っ込むわ。私ではウルフは倒せないと思うけど、気を引くことは出来ると思うの。だからウルフが私を攻撃している間にリノがその右にいるウルフと戦って。スキルで強化されているなら他のウルフに邪魔される前に倒せるかもしれないわ。倒せたら私を助けてね」
リノは1対1ならウルフにも勝てるくらいの実力はある。
統率のスキルで能力が上がってくれるなら、時間を掛けずに倒せる可能性はある。
私は振り向き、ウルフに向かっていく。
私の役目は気を引く事。倒そうとする必要はない。
私は自分から突っ込んで行ったのに、防御に徹する。
なんとか20秒持ち堪える。他のウルフをリノの方には行かせない。そしたらリノが助けに来てくれる。私はそう信じてウルフの攻撃を耐える。
そう思っていたのに、すぐに耐える必要はなくなった。
私が対峙していたウルフが倒されたからだ。
「言われた通り助けたよ。次はどうしたらいいの?」
20秒どころかまだ、10秒も経っていない。
それなのに既にリノはウルフを2体倒した。
リノは平静を装っているけど、かなり困惑している。
私もだ。統率のスキルがこれ程とは思っていなかった。
本当はこのまま逃げるつもりだった。
そうすればリノは助かると思った。
私は運が良ければ助かるかもしれないくらいだと思っていた。
でも、この状況なら戦った方が2人共が助かる可能性が高い。
「次はあのウルフよ。倒したら深追いはせずに一度戻って」
「わかった」
私はリノに指示を飛ばす。
リノがウルフに向かっていく。
速い!
リノはウルフを一撃で斬り倒した。
完全にウルフを圧倒している。
私が指示を出す必要なんてないように見えるけど、私が指示しないとスキルの効果が切れるかもしれない。
統率の効果範囲がわからない。
「今のでリノなら勝てるってわかったわ。残りも倒しちゃって。但し、逃げた奴まで追う必要はないわ」
戻ってきたリノに次の指示を出す。
「わかったわ」
リノが残りのウルフを倒しに向かう。
やっぱり明らかに強くなってる。
リノは一瞬とも思える速さで残りのウルフを殲滅した。
「ありがとう」
私はリノにお礼を言う。
スキルがあったというだけで私は何もしていない。
「お礼を言うのは私の方だよ。絶対死んだと思ったよ。どうなってるの?私が私じゃないみたいだったよ」
「それが統率の効果みたい。私も今まで使ったことがなかったから驚いてるよ」
私達は生きていることを喜びながら、ウルフを持てるだけ回収してギルドに戻った。
買取カウンターでウルフを買い取ってもらい、受付で報告をする。
依頼として受けていなくても、受付の人の判断で達成扱いにしてくれることがあるからだ。
「討伐お疲れ様です。差し支えがなければ、どのように倒したのか教えていただいてもよろしいでしょうか?」
ウルフを倒した事を報告したらどうやって倒したか聞かれた。
昨日まではスライムを倒していた2人がいきなりウルフを8体も討伐したら聞かれるのは当たり前だろう。
「ギルドには守秘義務があると聞いています。他に漏らさないのであればどのように倒したか説明します」
「もちろん冒険者様の情報を勝手に漏らす事はありません。ギルドマスターには報告しますので、それはご理解下さい」
「わかりました」
私は統率のスキルについて説明する
「なるほど、わかりました。お2人は現在Fランクですが、パーティランクはEとします。お2人が揃っている場合に限りDランクまでの依頼の受注を許可します。各人で受けられる依頼はEランクのままですのでご注意下さい」
Dランクまで受注出来るようになってしまった。
Fランクになってからもスライムと薬草しか受けてなかったのに……
報告が終わったのでギルドから出る。
「いっぱい貰えたね」
リノが言う。
確かに今までと比べ物にならない程もらった。
でももうあんな思いはしたくない。死にたくない。
「明日なんだけど、依頼は受けずに統率のスキルの効果確認に付き合ってもらえないかな?」
安全な時に確認しておきたい。
「もちろんいいわよ」
「ありがとう」
久しぶりに美味しいものを食べて寝た翌日、私はリノに手伝ってもらって統率のスキルの検証を行う。
わかったことは、私が指示を出したりする必要はないということだ。
大事なのはリノが私の指揮下にあるかどうかだけ。
リノが私の指示通りに動く時はもちろんだけど、指示を出していなくても、私が指揮をとる立場にいて、リノが私を指揮官だと思って動けば効果は発動した。
効果は私から離れれば離れるほど薄まって行くようだ。
多分指揮が届きにくくなっていくのが原因だと思う。
「ありがとう、リノのおかげで大分わかったわ」
「どういたしまして」
「効果の確認も出来たし、明日からは少し難しい依頼を受けても大丈夫そうね。少なくてもウルフを狩り続けられればお金を貯められそう」
スライムや薬草の依頼を受けてもジリ貧で、なんとかリノと共同生活をしているから生活が出来ていただけだった。
「昨日のご飯は美味しかったからね」
本当にそれだ。
「一度食べちゃうとあの硬いパンには戻りたくなくなるね」
「頑張ろうね」
「頑張ろう」
私達はあの食事に戻らないように頑張る事を決意した。
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