第65話 イロハのスキル
僕は今、ヨツバが泊まっている宿屋にいる。
1人部屋に泊まっていたヨツバは、ちょうど2人部屋が空いていたこともあり、中貝さんと同室で部屋を借り直した。
集まっている主な理由は、これから3人で行動するにあたって話をしておかないといけないことがあるからだ。
まずは呼び名を変える。
これはヨツバの時と同様だけど、中貝さんにも僕のことはクオンと呼んでもらうことにする。
僕は中貝さんのことはイロハと呼ばせてもらう。
「斉藤君のことはクオン君ってこれからは呼べばいいってこと?」
「それでお願い。僕はイロハって呼ぶけどいいよね?」
「大丈夫だよ。えっと、クオン君が四葉ちゃんのことをヨツバって言ってるから、2人は付き合ってるのかなって思ってたけど、こういうことだったんだ…ね?」
「いろはちゃん何言ってるの!?」
「そうだよ。僕みたいなひきこもりとヨツバが付き合ってるわけないでしょ」
ヨツバも僕がニーナといる時にそんなこと言ってたけど、なんで2人でいるだけでそんな勘違いをするのか不明だ。
「そっか。お似合いだと思ったんだけど残念」
「残念も何も、こんな訳の分からない状況になってる時に付き合うとかないよ。そんなことよりもイロハのスキルについて教えて欲しいんだけどいいかな?大体予想はしているけど、詳しいことはわからないから」
「私のスキルは[ショップ]だよ。スキルを使うとレベルとか見れるボードみたいなのが目の前に出てきて、この世界に無いものでも買うことが出来るんだよ」
僕はなにか引っ掛かりを覚えた。思ってた通りのスキルだし気のせいかな?
「お金で買うの?それとも魔力を消費するとか?なにか制限はないの?」
「こっちのお金で買うことが出来るよ。制限は分かってることだと、加工品は買えないって事と私の知ってるものしか買えないってことかな。それから生き物を買うことは出来ないよ」
「……あれ?でもあの酒場で秋刀魚を僕は食べたよ?」
「生きてなければ買えるよ。生きたままの状態で買うことが出来ないだけ」
「肉なんかはどうなるの?牛が1頭死んだ状態で出てくるの?」
「一度買って見せた方が分かると思う」
そう言ってイロハは空中で指を動かす。
多分僕が管理画面を触っている時もこんな感じなんだろう。
少しすると、イロハの目の前にパックに入った状態で牛肉が現れた。
スーパーとかでよく見る状態だ。
「とりあえず、牛肉を100g買ったよ」
「ちなみにこれはいくらするの?」
「銅貨1枚だよ。地球の物を買おうとすると割高になってる気がするんだよね」
宿屋の金額で換算すると、僕の感覚では銅貨1枚で1000円くらいだ。100g1000円の肉と考えたら高級品だと思う。
目の前にある肉はそこまで高い肉には見えない。
この世界だと、食糧の値段は高いから銅貨1枚が1000円という換算をするのがそもそも間違っているのかもしれないけど……。
「ちなみに、このお肉が入ってるパックはお肉を取り出すと消えて無くなるよ」
よくわからないスキルだな。
「加工品は買えないって言ってたけど、この肉は食べられるように加工されてるよね?これはいいの?」
「私も線引きがよくわからないんだけど、これは大丈夫みたいだよ。例えば、大豆は買えるけど豆腐は買えなかったり、鉄を買うことは出来るけど鉄製のフライパンは買えないとか」
「…ちょっと待って。買うことが出来るのって、食材だけじゃないの?」
「食材しか買えないなんて言ってないよ。私の知ってるものならなんでも買えるよ。加工品と生きたまま買うことが出来ないだけ」
僕は根本を勘違いしていたようだ。下手に情報を手に入れていたから頭が凝り固まっていたのかもしれない。
「ちなみに、買えるのは地球の物だけ?」
「この世界の物でも私が知ってれば買えるよ。ウルフの肉とか、薬草とか。この世界の物なら、金額はその辺りのお店で買うのと同じくらいかな」
イロハのスキルは色々とぶっ壊れているようだ。
仮にこことも地球とも違う世界があるとしたら、その世界の物を認知さえすれば買える可能性まである。
それから入手が困難な素材なんかも、お金さえあれば買えそうだ。
「イロハのスキルの事は大体わかったよ。このスキルの事はあまり知られない方がいいね」
「そうなの?」
「そうだよ。こういったチートみたいなスキルの事はとりあえず隠した方がいい」
「私のスキルってチートなの?」
「明らかにチートだよ。だから気をつけて」
「わ、わかった。2人のスキルも教えてもらっていい?」
イロハが僕とヨツバのスキルについて聞く。
僕が元の世界に帰れる事を話すタイミングだよな……
ヨツバが僕の方を見る
「とりあえず、ヨツバのスキルから説明して」
僕のスキルの話をすると、ヨツバのスキルの話をする空気ではなくなると思うので、先にヨツバに話を振ることにする。
「……わかった。[幸運]ってスキルだったんだけど、一度使ったら無くなっちゃうスキルだったから今は無くなってるの。勝手に使われてて、クオンに会った時に消えてたから、クオンを見つけたのがスキルの効果だったんだと思う。神様からもらったスキルはもうないけど、「剣術]と[剣技]それから[身体強化]っていう一時的に身体能力が上がるスキルも使えるよ」
「四葉ちゃんは冒険者で魔物と戦ってるんだよね?怖くないの?」
「怖くないわけではないけど、そうしないと生活が出来ないし、クオンとニーナって人が私が戦えるようになるまで手伝ってくれたからなんとか戦えるようになったよ」
「すごいね。私も戦わないとダメなのかな?」
「どうなの?」
ヨツバが僕に振る
「お金が稼げれば冒険者になる必要はないんじゃない?今回みたいな目立つ事はやめて欲しいけど、他の方法で稼いでもいいと思うよ。冒険者になるならレベル上げを手伝うけど、どうするかはゆっくりと考えればいいよ」
「うん、そうする」
「それじゃあ次は僕のスキルについて説明するよ。イロハにはショックなこともあると思うけど、とりあえず最後まで聞いて欲しい」
僕はゲームのようなスキルの事を説明する。
日本に帰れる事や、水魔法などのスキルの事も隠さずに説明した。
向こうの世界でヨツバやイロハが行方不明ということになっていることと、僕が元の世界でこっちの世界の事を話す事は出来ないことも説明する。
それから、僕がこの世界をゲームのように楽しんでいることも隠さずに伝える。
僕が変わる気がない以上、一緒に行動を始める前に知っておいてもらった方がいい。
話していないのは、僕がクラスメイトを殺していることと、ファストトラベルについてだけだ。
「前に状況が変われば話してもいいみたいなこと言ってたよね?話せないの?」
イロハから色々と言われるかもしれないと思っていたら、先にヨツバに言われた。
確かにそんな事を言ったような気がする。
ヨツバに打ち明けた時は、まだ神から色々と聞く前だったから、今とは状況が色々と変わっている。
イロハの方を見ると、ショックを受けているのか考え込んでいるのかはわからないけど俯いていた。
「嘘を言ってたわけじゃないよ。ヨツバに言った時は僕が騒ぎになりたくなかったから秘密にしてたんだよ。僕の親には、ひきこもりが部屋からちょくちょくいなくなってたら不審に思われるから、この世界の話をしてたんだけど、今は親にも話が出来なくなってるんだ。なんでかはわからないよ」
「…そうなんだ」
「イロハは何か聞きたい事はある?色々とひどい事を言った自覚はあるけど…」
僕は俯いているイロハに確認する
「…クオン君は日本に帰る方法は知らないの?」
「僕が日本と行き来出来るだけだよ。イロハはやっぱり帰りたいの?」
いいタイミングなので確認しておくことにする。
「もちろん帰りたいけど、今じゃないかな……」
予想とは違う答えが帰ってきた
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