第64話 裏の顔
酒場の店内と居住スペースを探したけど、中貝さんは見つからなかった。
「いろはちゃん……」
ヨツバはずっと心配そうに探している。
「そろそろよろしいでしょうか?私も心配ではありますが、ここにはいないことは確認できたでしょう?」
「もう少しだけお願いします」
時間が迫っているので、僕はスキルポイントを使うことにした。
僕がしたのは、マップの強化だ。
スキルポイントはスキルを覚えるのに使うだけではない。
覚えたスキルを強化することも出来る。
マップに関してはスキルではないけど、スキルポイントを使うことで同様に強化することが可能だ。
他にも強化することで名前の最大文字数を増やせたりするけど、そんなことに使うポイントの余裕はもちろん無い。
今までは平面でしか見ることの出来なかったマップが、立体でも確認出来るようになった。
さらに拡大、縮小することも出来る。
本当は尋問系や拷問系のスキルを獲得すれば確実なんだけど、衛兵の前で罪状の確定していない店主にそんなスキルを使うわけにもいかないし、そもそも僕がやりたくない。
なのでマップの強化にスキルポイントを使った。
今はまだ強化するつもりはなかったけど、本格的にダンジョンに潜ったりする時には強化することになるので、スキルポイントを使うタイミングが早まっただけだと思うことにする。
「何してるの?」
管理画面を操作している僕にヨツバが聞いてくる。
管理画面は自分にしか見えないので、他の人からは空中に指を動かしているだけに見えているはずだ。
「スキルを使って中貝さんを探してるんだ」
僕はマップを3Dにして人が隠れられそうなところで、僕達がまだ探していない所がないか調べる。
見つけた!この部屋はまだ探してない。
「衛兵さん、僕のスキルで厨房にまだ見させてもらってない空間があるのを見つけました。多分食材を保管する為の倉庫じゃないでしょうか?人が十分入ることの出来る大きさなので探させてください」
厨房の地下に大きな空間を見つけた。地下倉庫だと思う。
中貝さんを監禁するには十分過ぎる程広い空間だ。
「こっちは仕込みで忙しいんだ。そのガキの戯言に付き合っている暇はない。倉庫ならさっき確認しただろう」
急に店主が怒鳴り出した。かなり焦っているように見える。
これは当たりだな
「衛兵さん、お願いします。見ての通り店主の方は焦ってます」
「そのようだな。確認させてもらう」
衛兵さんはそう言って、止めたそうにしている店主を無視して厨房へと向かってくれる。
「倉庫はさっき見た所以外に無さそうだが……?」
衛兵さんが厨房を見渡して言う
「だから戯言だと言ったじゃないですか。もういいですか?」
店主は早くここから追い出したいようだ
「入口はこの無駄にでかい台の下にあります。動かしていいですよね?」
「ああ。店主、ここを見たら帰らせますので構いませんよね?」
「……構わない」
店主の反応に僕は違和感を覚えた
「僕が倉庫に入ったらヨツバはこの部屋から離れて」
僕は小声でヨツバに指示を出した後、台を動かす。
「やっぱり床下に倉庫がありましたね」
僕は衛兵さんに言って床にある大きい蓋を開けると、地下倉庫への入り口があった。はしごの下には中貝さんがいた。
「え、斉藤くん?……入ったら駄目!」
ドサッ!バタッ!
「痛っ」
中貝さんに言われるけど、意思とは関係なく僕と衛兵さんは店主に突き落とされた。
「女がいない!まあいい、女の1人くらい後でなんとでもなる。今はこいつらだ」
店主はそう言って、倉庫の蓋を閉めようとする。
僕はさっき蓋を開けた時に中貝さんの声が聞こえたことに違和感を感じていた。
なんで今まで声が聞こえなかったのだろう?
複数人の足音が中貝さんには聞こえていたはずなのだから、助けを求める声が聞こえてもおかしくなかった。
でも声は聞こえなかった。
僕はストレージから丸太を厨房との出入り口を塞ぐように立てて取り出す。
丸太によって店主は蓋を閉めることが出来ない。
丸太がデカ過ぎて、僕達が外に出ることも出来ないけど……
蓋を閉めさせたらいけない。咄嗟にそう思っただけだ。
少し冷静になって考えると、防音効果のある結界が張られているのではと思う。
それから、武器を持った衛兵を突き落として閉じ込めようとしている事を考えると、閉じ込められると天井を壊したりして出ることは出来ないようになっているのかもしれない。
「なんだ、この丸太は?」
衛兵さんが驚いている。
「アイテムボックスのスキルを持っているんです。この丸太は森に綺麗な状態で倒れてたので、何かに使えるかなと拾っておいただけです。アイテムボックスは珍しいスキルらしいので他の人には秘密でお願いします」
「あ、ああ」
後でもう一度秘密にしてもらうように言っておこう。
「くそ!なんだこれは!これだとスキルが発動しないじゃないか」
よくわからないけど、店主は蓋を閉めないと目的のスキルが発動しないらしい。
「衛兵さん、火魔法を使ってもいいですか?手加減が苦手なので、この酒場が燃えてなくなるかもしれませんが……」
実際に使うつもりはないが、脅しとして言ってみる。
正直に言うと、上にヨツバがいる時点で何も問題はないと思っている。
蓋が閉められて完全に閉じ込められても、実際のところは何も問題はなかったはずだ。
実は店主が戦闘も出来るなんてことがなければだけど……
「店主、聞こえていただろう?今すぐに投降しろ。でなければこの酒場は燃えてなくなるぞ。それに投降すれば処刑は免れるかもしれんな」
衛兵さんが店主に降伏勧告をする。
「そんなことが信じられるか。自分で戦えないから衛兵を連れてきたんだろうが!」
店主は衛兵さんの言葉を聞く気がないようだ。
本当に使ってやろうかな……そう少し思ってしまったけど、ここはヨツバに任せることにする。
「ヨツバ!助けて」
僕は助けを求める。
女の子に助けを求める男というのはどうかとは思うけど、僕がここからやろうと思うと、この建物は半壊するだろうから任せた方が安全だ。
「え、斉藤君、な、何言ってるの?」
中貝さんは僕の言ったことに驚いて、困惑している。
「君!何言ってるんだ。危ないだろう」
衛兵さんに怒られる。
「くぁはっ」
「終わったよ。縛っておいたから上がってきていいよ」
僕が衛兵さんに怒られている間に上での戦いは終わったようだ。
「衛兵さん、言ってませんでしたが僕達冒険者なんです。低ランクではありますけど、一般の人には勝てるくらいには戦えます。心配させてすみませんでした」
「ああ、それならいいんだ。だが、年の離れた女の子に助けられるとは……」
衛兵さんはわかりやすく落ち込んだポーズをしている。
「言わないで下さい。それを言ったら助けを求めた僕はどうなるんですか……」
僕は丸太をストレージに回収して厨房へと上がる。
厨房の床には縛られた状態で店主が寝かされていた。
「四葉ぢゃん、助けに来てぐれてありがどう」
中貝さんがヨツバに泣きながらお礼を言っている。
よっぽど怖かったようだ。
「お礼なら衛兵の方とクオンに言って。衛兵さんが私達の話を聞いて信じてくれて、クオンが隠してあったこの部屋を見つけてくれたから助けられたの」
「ありがとうございました。斉藤君もありがとう」
中貝さんが僕と衛兵さんにお礼を言う
「私はこれが仕事なので気にしなくていい。無事で良かった」
「無事でよかったよ。衛兵さんありがとうございました」
「また困ったことがあったらいつでも頼ってきなさい。今回は情けない姿を見せてしまったが、今度はカッコいい所を見せてあげるよ」
衛兵さんはそう言ってから店主を連れて詰所に戻っていった。
衛兵さんは情けない姿を見せたと言っていたけど、僕はヨツバに助けを求めた時に衛兵さんが何かをしようとしている事に気づいていた。
多分ヨツバが上にいなかったとしてもなんとかなっていたのだろう。
上でヨツバが戦っているのに、僕のことを怒っていたことを考えると、ヨツバが負けるとは考えていなかったようにも思える。
それに、地下に落とされた時も衛兵さんは冷静に見えたので、もしかしたらあのまま閉じ込められていたとしてもなんとか出来たのでは?と思ってしまう。
実際のところはわからないけど、そうだと仮定して考えると、無理矢理捕まえるのではなく降伏するように言っていたあの衛兵さんは素直にカッコよかったと僕は思った。
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