第60話 ヨツバの特技

地球の料理を作っている酒場があるという情報を手に入れた僕とヨツバは服飾屋に来ていた。


変装の為にスキルを新しく獲得するか少し迷ったけど、使い道が少なそうなスキルの為にスキルポイントを使うのはもったいないと判断して、変装道具を買いに来たのだ。


酒場にいる同級生が誰かは知らないけど、軽くでも変装すれば僕には気付かないはずだ。

なので、僕は帽子を被って何かマスクみたいなやつで顔を隠せばバレることはないだろう。


問題はヨツバの方だ。

酒場にいるのがヨツバの友達とかだったら、軽く変装したくらいではバレるかもしれない。

とりあえずヨツバには、声で気づかれるかもしれないから、極力喋らないように言ってある。

その上で、何か怪しまれないように顔を隠せるアイテムが欲しい。


「髪染めてみる?」

店内を見ていて面白いものを見つけたのでヨツバに聞いてみる。


この店独自のサービスで、髪色を服に合わせて変えることが出来るそうだ。

しかも3日程で元に戻るらしい。

これは店主のスキルによるもので、物の色を変える魔法が使えるみたいだ。


服を買えばサービスで1回スキルを使ってくれる。

服を買わなくても銅貨1枚で使ってくれるらしいが、安い服なら銅貨1枚で買えるので服を買った方が絶対にお得だ。


「その方が気付かれにくいね。せっかくだからクオンも変えてもらったら?」


「うーん。まあ、僕はやらなくてもそうそう気付かれないと思うけど、面白そうだしやろうかな」


僕達は購入する服を選ぶ。

その時に懐かしい服を見つけた。


「この服って学校の制服だよね?」


「そうだね。ここで買い取ってもらったのかな?」


「そうだと思う。酒場にいるのは男子みたいだね」


「名前は……書いてないから誰かはわからないね」

制服だし名前が書いてあったりしないかなと思ったけど、書いてなかった。


予想と違うところで同級生の情報を得た僕達は、服を選んで買い、髪色を変える。


僕は白髪に、ヨツバは金髪に変えてもらった。


「大分印象が変わったね。僕はこれだけで気付かれないんじゃないかな?ヨツバはどうだろう?あと目元を何かで隠せばバレないと思うけと」


「私はクオンだってわかるからなんともいえないよ」


「まあヨツバとは毎日のように会ってるからね。次は雑貨屋に行こうか」


僕達は服飾屋を出て、雑貨屋に入る。


「やっぱりこの世界に眼鏡はないんだね」

雑貨屋に伊達眼鏡置いてないかなと思ったけど置いてなかった。

眼鏡を掛けている人を見た事がないので、そんな気はしていた。

目が悪い人はどうしてるのかな?

治癒魔法とかで視力も治ったりするのかな?


「もう帽子を深く被るか、怪我してるような感じで包帯でも巻くしかないね。眼鏡とかマスクとかしている人がいないから、下手なことをすると逆に目立ちそうだよ」


「仕方ないね。とりあえず様子を見に行くだけだし、私は深く帽子を被っておくわ。椅子に座って少し俯いておけば顔は見えないと思うから」


「そうしようか。接触しないといけないようであれば、スキルを新しく取得するとかしてなんとかするよ」


変装する方法は決まったので、帽子を買って夜に件の酒場に入る


「思っていたよりは混んでないね。あの冒険者の人が言うには元々あんまり美味しくない料理を出していたみたいだから、変わった料理を出すようになったからって人が殺到するみたいな事はないんだね」


「そうだね」


「それで、誰かクラスメイトはいる?僕がわかる人はいないよ」


「……いないね」


「とりあえず、注文しようか。聞いてた通り日本で食べれる料理もあるけど、思っていたのと違うね」

メニューを見て話す


「うん……。私は天丼にするね」


「僕は焼き魚定食にするよ」


「すみません、この天丼って料理と焼き魚定食というのをお願いします。それからアルコールの入ってない飲み物をおすすめで2つ」


僕は適当に選んだ感じを装って注文する。


少しして、天丼と焼き魚定食が運ばれてくる。


「どう見ても米だよね?魚も秋刀魚に見えるんだけど……」


「……そうだね」


「とりあえず、食べてから考えようか」

ヨツバが天丼に釘付けなので、会話は後にする。


僕は米らしき物と秋刀魚らしき物を食べる。

秋刀魚は美味しいけど、醤油が欲しい。

米は微妙な感じだ。


でも味がおかしいわけではない。


ヨツバが食べ終わったので話をする。


「天丼の方はどうだった?」


「うーん。なんか食べたかった天丼とは違う感じ」


「他のも注文してみようか」


「うん」


冒険者の人がマヨネーズの話をしていたので、マヨネーズを注文したかったけど、どの料理にマヨネーズが付いているんだ?

わからなかったので、ポテトサラダとハンバーグ、それから唐揚げを注文する。


ポテトサラダにはマヨネーズが使われているだろう。

唐揚げにはマヨネーズが添えられているかもしれない。

ハンバーグはヨツバが食べたいと言っただけだ。


先にポテトサラダが運ばれてきた。


食べてみる。

うーん、微妙だ。不味くはない。でも日本でこれが店で出てきたら次は頼まない。


ヨツバも同じ感想だ。何か違うらしい。


その後、唐揚げとハンバーグも運ばれてきた。

狙い通り唐揚げにマヨネーズが添えられていた。


僕はマヨネーズだけを食べてみる。

ポテトサラダを食べた時に微妙に感じた理由がわかった。


「これ、油っぽすぎる。なんか油っぽいとも違う気がするけど、マヨネーズの味じゃない気がする」


「分量がおかしいんじゃないかな。市販のマヨネーズは他にも色々と入ってると思うけど、マヨネーズって卵と油とお酢を混ぜるだけで出来るんだよ。多分お酢が少ないか、入ってないんだと思う。だから油っぽく感じるんだよ」

ヨツバが僕にはよくわからないことを言った


「そうなの?」


「そうだよ。クオンは料理しないの?」


「ほとんどしたことないよ。家庭科の授業くらい。なんでヨツバはそんなこと知ってるの?」


「前にマヨネーズが無くなってて、お母さんと作った事があるの」


「そういえばヨツバは料理が得意だもんね」

調理はいつもヨツバに任せていたので得意なのは知っている。


「こっちにくる前はお母さんとよく作ってたよ」


ヨツバの料理の腕前はかなりのものだと僕は思っている。

今食べているハンバーグよりも、ヨツバが食用肉(★)とこっちの食材で作ったやつの方が美味しかった。


「ヨツバはこの店の料理はどう思う?」


「材料はちゃんとしているけど、作り方が適当なんじゃないかな?」


「あー、確かにそんな感じがする」


「このハンバーグはうまく焼けてるけど、ソースが微妙だね。それから玉ねぎをもっと炒めた方がいい思う。少しシャキッとした食感が残ってるからね」

確かにそうだ。掛かっているデミグラス風のソースが美味しくない。

ソースの掛かっていないところを食べると、普通のハンバーグの味がする。


「僕は同級生の誰かが、地球の料理の作り方をこの店に教えてると最初は思ってたんだけど、それだけではないよね?考えにくいけど、スキルか何かで地球と同じ材料を手に入れてるんだと思う」


「お米があるくらいだし私もそう思う。それと、手に入る材料は原材料だけなんじゃないかな。だからマヨネーズも自分で作らないとだめなんだと思う。魚にも醤油が掛かってなかったでしょ?」


「確かにそうだね。スーパーとかで売ってる状態で手に入るわけじゃないってことかな」


「うん、そうだと思う。それから酒場にいると思ってた同級生は、料理があんまり得意じゃないんじゃないかな?料理をする人なら、マヨネーズの作り方は知らなかったとしても、お米をもっとうまく炊いたりは出来るはずだよ」


「そうなると、クラスメイトはこの酒場で働いていない可能性もあるね。材料を売るだけでお金が稼げるんだから働く必要もないし、料理の作り方だけざっくり教えただけの可能性もあるね。元々この酒場の料理は美味しくなかったらしいから、美味しくなるように修正することも出来ないんじゃないかな」


「失礼だけど、そうかもしれないね」


「とりあえず、ここにいても会えそうにないし今日は帰ろうか。材料をここに持ってきてはいると思うから、酒場の辺りを探していれば見つかるかもしれないよ」


「うん」


僕達は酒場から出て帰る。

帰る時にヨツバに聞いたら、微妙ではあったけど懐かしい料理が食べれて満足だと言っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る