第61話 幼馴染

酒場で同級生を見つけることが出来なかった僕達は、酒場の周辺を観光しつつ探す。


「いないね」


「食材をこの酒場に売ってるのでは?という情報しかないから、そんなにすぐ見つかりはしないんじゃないかな」


「そうだよね。ずっと見つからなかったらどうするかクオンは考えてるの?」


「いくつか案は考えているけど、どれもリスクがあるしやりたくはないかな。正直僕はこのまま放置でもいいけど、ここにいるのがヨツバの友達かもしれないでしょ?だとしたら、少なくても目立つことはしないように忠告はしたいと思ってるよ」


「私のためにってこと?」


「ヨツバの為だけにやってるわけではないけど、僕はここに誰がいても思うことはそんなに変わらないからね。でもヨツバは違うでしょ?優劣をつけるのが良いわけじゃないけど、仲のいい友達だったらリスクを犯してでも助けたいかなって思っただけだよ。まあ、今回は男子みたいだけどね」


「そっか。ありがとね」


それから数日、酒場周辺を中心に探しては見たけど同級生を見つけることは出来なかった。


「見つからないね。前に何か案があるって言ってたけど、何をするのか聞いてもいい?」


「酒場の人に言って仲介してもらうのが本当はいいんだけど、それだと酒場の人にも僕達のことがバレると思うんだよね。だから手紙を書こうと思ってるよ」


「手紙?どうやって渡すの?」


僕はヨツバに方法を説明する


「うまく本人に渡るかな?」


「わからないけど、リスクと成果を天秤に掛けるなら悪くないとは思うよ。これでダメなら酒場の店主に直接聞くかどうかを考えよう」


「そうだね」

考えるとは言ったけど、僕としてはこれでダメなら放置するつもりだ。

本当に異世界人狩りみたいなことが始まったら、僕が先に殺しにここに来ることにしようと思っている。


ヨツバが放置するという選択を出来るかどうかという話だ。


3日後の夜、僕とヨツバは街の外で同級生が現れるのを待っていた。


「来るかな?」

ヨツバに聞かれるけど、僕にもわからない


「わからない。手紙が本人に届いてない可能性もあるし、相手が同級生に会いたいと思ってないかもしれない」


僕は封筒にこっちの世界の文字で『変わった料理を考えた人に渡して欲しい』と書いて酒場の裏口に置いておいただけだ。

次の日に無くなってはいたので少なくても誰かが回収はしている。


そして中身の方には日本語で3日後の夜に僕達が今いるところから少し離れた場所に来て欲しい事と、異世界人だとバレることのリスクについて書いておいた。


僕達は接触する前に相手が誰なのかを確認しようとしている。

来るよう書いたところは少し街の光が入ってきていて明るいので顔が見えるだろう。

でも僕達がいるところは暗いので相手からは見えにくい。


「あ、誰か来たね」

僕は現れた相手を見て少し驚く。

男だと思っていたけど、女の子だった。


「いろはちゃん!……あれは中貝さんだね」

ヨツバは隠れていることを忘れているかのような声量で名前を言った後に、小声で僕にわかるように苗字で言った。


マズいと思ったみたいだけど、もう遅いな。

中貝さんはこちらに気づいている。


「気づかれてるみたいだし行こうか。話しかける前に聞いておきたいけど、かなり仲のいい友達だよね。親友くらいの」


「うん、幼馴染なの。だから…お願い」

ヨツバのお願いというのは殺さないでということだろう。

殺す理由を知っている僕からすれば、幼馴染だからこそ日本に返してあげたいのだけれど、どうしたものか。


「……」

迷った結果、僕は返事をするタイミングを失ったので、返事をせずに中貝さんのところへと行く。


「いろはちゃん!」

ヨツバは中貝さんに抱きつこうとして、避けられた。


「あ、四葉ちゃん……?ごめん、一瞬誰かわからなかったの」

中貝さんは謝った後、ヨツバと抱き合った。

僕とヨツバはここに来る前にまた髪色を変えているので、ぱっと見では誰かわからなかったのだろう。


僕は2人を暫しの間見守る。


「四葉ちゃん、そっちの人は誰?」

中貝さんはヨツバに僕のことを聞く。


「斉藤君だよ。こっちの世界ではクオンって偽名を使ってるけど」


「……斉藤君?」

中貝さんはピンときてないようだ。


「不登校で学校に来てなかった人だよ」


「あー、あの斉藤君」

ヨツバの説明を聞いて、僕は少しショックを受ける。

間違ってないし、それが1番伝わるのだろうけど、他に説明の仕方はなかったのだろうか…。


2人の会話を聞いていて僕はふと思う。

そういえば、なんでヨツバは僕のことに気づいたんだろう?

薬師さんも僕が誰かわかったみたいだけど、あの時と違って、ヨツバはいるかもわからない僕を雑踏の中から見つけている。それも幸運のスキルの効果なのかな?

僕が話しかけてきたのが立花さんだとわかったのは、ヨツバがクラスで目立つ方で、たまたま僕の覚えている内の1人だったというだけの理由だ。

田中君含め、小学校も同じだった数人はわかるけど、他の人はあまりわからない。

話すことがないから女子の方は特にだ。


「中貝さん、ここに来たってことは手紙は読んだんだよね?」


「ええ、読んだわよ。本当にあんなことになるの?」


「可能性としては十分ありえると思うよ。信仰心の高い組織が異世界人狩りをするって可能性はあると思う。それとこれは書かなかったけど、神からもらったスキルはチートだと思うんだよ。僕の知っているところだと欠陥品でもあるけど、それでもかなり強力だと思う。だから国が戦力として奪い合う可能性もあると思うよ」


「それじゃあ、私はかなり危ないことをしてたってこと?」


「そうだと思うよ。なんであんなことしてたの?生活する為だけならあそこまで色々とやる必要もなかったんじゃない?中貝さんのスキルの詳細は知らないけど、こっちの世界にもありそうな食材を売るだけでも生活は出来たんじゃないかな?」


「お金を稼ぐ為っていうのもあるけど、知らないところで1人ってことが怖かったの。だから、日本の料理を作ってれば誰かが見つけてくれるかなって」


「ならこれで目的は達したわけだね。これからどうするのか考えてる?」


「今のまま続けてたらマズいことはわかったけど、どうしたらいいのかはわからない。四葉ちゃん達は何してるの?」


「冒険者になって、クオンと一緒に魔物を倒してお金を稼ぎながら色んな所をまわってるよ」


「……あ、クオンって斉藤君のことだったね。私はどうしたらいいのかな……」


「いろはちゃんも一緒に行くのはダメかな?」

ヨツバが僕に聞く。


幼馴染に会えたのだから、ヨツバとしては別れたくはないのだろう。

しかも今のままだと厄介なことになる可能性が高いから、少なくても放置はしたくないと思っているはずだ。


僕としては既にヨツバがいるので、2人が3人になるのは構わない。

問題は僕が日本に帰れることと、同級生を殺していることだ。


ヨツバは僕に恩を返したいみたいなことと、僕が同級生を殺すのを止めたいっていう理由で、まだ帰らなくてもいいと言っただけだ。帰りたくないと言ったわけではない。

このまま2人とも殺してあげるのもいいかと僕は思った。


「少しヨツバと2人で相談してもいいかな」

僕はとりあえずヨツバと2人で話をすることにした。

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