第59話 酒場の噂

次の街にやってきた僕とヨツバは、クラスメイトを探しつつお金を稼ぐ為に依頼を受けていた。


以前のように、クラスメイトを偶然見かける事はなく、どうやって探そうかと冒険者ギルドで昼食を食べながら考えている時、気になる話が聞こえてきた。


「俺の家の側に潰れそうな酒場があっただろ?あそこはあまり美味くなかったからずっと行ってなかったんだが、遠出するのも面倒だったから、我慢するか……と思って久々に行ったんだ。そしたら見たことない料理が出てきてな。しかも美味かったんだ。なんていったかな……ああ、まよねーずだ。黄色いソースが今まで食べたことない味で特に美味かった」

冒険者の男性はもう1人の飲み仲間と思われる男性に話をしている。


「今、マヨネーズって言ったよね?」

僕は小声でヨツバに聞いてみる


「え、なんのこと?」

ヨツバは聞いていなかったようだ。

僕が勝手に隣の席の人の会話を盗み聞きしていただけだから、聞いてない方が普通か。


「隣の席の人が酒場の話をしていたんだけど、マヨネーズって言ったんだよ。誰か同級生がいるのかもしれない」


「気になるね」


どこの酒場か知りたかったので男性2人の話を引き続き盗み聞きする。


「それなら今度はそこで飲むか。そんなことより、王都の騎士団にとんでもない軍師が入ったって知ってるか?」


「いや、知らない」


「俺も王都に行っていた知り合いから噂を聞いただけなんだが、なんでも弱小だった騎士隊で盗賊のアジトを壊滅させたらしい。当初の任務は偵察だけで、偵察の情報を得た他の実績のある騎士隊が討伐する予定だったらしいが、その軍師の判断でそのまま壊滅させたみたいなんだ」

話が変わってしまった。敏腕軍師の話も少し気になるけど、僕はマヨネーズの話が聞きたい。


「先輩方、少しお話が聞こえてしまって……。美味しい酒場があるって話、詳しく教えてくれませんか?」

僕は勇気を出して話しかける。


「あ?」

男性が面倒くさそうに僕の方を見る。


えっと、こういう時は……

「あ、お姉さん、こちらの方達にエールを。お会計はこちらに付けといてください」


「お!坊主わかってるじゃねえか。それで何が聞きたいんだって?」

正解だったようだ。僕は背中をバンバン叩かれる。

上機嫌だ。


男性から酒場の料理の話と場所を教えてもらう。


「ありがとうございます」


「おう、また知りたいことがあったら遠慮せずに聞けよ」

この人達はお酒を奢れば、これからも色々と話を聞かせてくれそうだ。


ワイワイ飲んでいるなら、他の冒険者の人も相手をちゃんと立てて、メリットを提示すれば色々と教えてくれると思う。

話しかけるのは緊張するけど、冒険者の方達と交流を持ちたいし、出来ることなら積極的に話をしていきたいとは思う。


僕達は元いた席に戻る。

「誰か知らないけど、やらかしてるみたいだね」


「向こうの世界の料理を作る事に何か問題があるの?」


「問題は色々とありそうだけど、すぐに思いついて確実にヤバいのは異世界人だと隠す気がないことだね」

それからヨツバには話さない事で問題がもう1つ。その人物がこの世界で目立ってしまっていることだ。

下手に殺すと捜索されて、僕が捕まる可能性がある。


「そっか、こっちの世界の人が誰も知らない料理をバンバン生み出していたらおかしいもんね」


「マヨネーズだけなら、新しい調味料を1つ生み出したってだけで、誰か他のクラスメイトがマヨネーズを生み出したのは異世界人だ!って売らない限りはバレないかもしれない。でも、今聞いただけでもハンバーグとポテトチップスはメニューにあるみたいだから、僕は異世界人ですって言っているようなものだよ」


「でもこことは違う世界があるなんて誰も知らないから、そうはならないんじゃないの?それに異世界人だってバレるのはそんなにマズいことなの?異世界人ってだけで、神の話とかは今回はしてないよね?」


「田中君が捕まった時に、あの街のギルドマスターと話した事をヨツバにも教えたでしょ?情報がどこかから漏れた時に、異世界人は信仰心の強い国とか組織から敵対視される可能性があるんだよ。ギルドマスターから聞いた感じだと血眼になって探してきそうだから、こんな事してたらすぐに見つかって酷い目にあうよ。あのギルドマスターが話のわかる人だったから、田中君が話してしまっても情報が広まってないだけだからね」


「他の人が話しちゃった時にマズいんだね」


「だからヨツバも自分が異世界人だってバレるような事は絶対にしたらダメだよ。死んだ方がマシだと思えるような扱いを受けるかも知れないから」

殺されるだけなら結果的には元の世界に帰るだけだからいいけど、他の異世界人を探す為に尋問されて拷問を受ける可能性もある。

この世界は日本とは違い、捕まった人は物と変わらないような扱いを受けてもおかしくないのだから。


「わかった。気をつけるね」

ヨツバは気を引き締めて返事をした


「それでどうしようか?ほぼ確実に話の酒場に同級生がいると思うけど……」


「なんとかして会いに行かないの?」


「行こうとは思っているけど、向こうには僕達のことはバレないようにしないといけないね。僕は接触するつもりは今のところないよ」


「……仕方ないよね。本当にクオンが心配しているような状況になったら、私達まで追われることになるかもしれないもんね」

ヨツバもちゃんと考えてくれているようだ。

ここで何も考えずに会いに行こうなんて言うなら、今後が心配になる。


「そうだね。とりあえず、誰がいてどういう状況かは把握したいね。変装するとか、何かバレない方法を考えないといけない」


僕達は件の酒場に行くために、何か策を練ることにした。

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