第53話 偵察
ベアウルフの討伐を終えて街に戻ってくる。
万全ではなかったけど、ある程度ヨツバも依頼に集中出来ていたので、問題はなかった。
「依頼達成の報告に行くけど、木原君達がいるかもしれないから、目立たないように行くよ」
「うん」
達成報告をした後、ギルドの外に出てから僕はヨツバに言う。
「目立たないようにって言ったけど、あんなにコソコソしてたら逆に怪しいよ。2人がいなかったからいいけど、自然にしててって意味だからね」
「う……ごめん」
「バレてないからいいよ。2人は今日もあの店にいるかもしれないから、僕達も行こうか。その前に汗を流して着替えたいから、一度解散してまた宿屋の前で合流しよう」
「うん。私も着替えたい」
いつもならここで解散して終わりだけど、今日はその後の約束をする。
僕は自室に戻り、夕食がいらない事を母さんに伝えてからシャワーを浴びて普段着に着替える。
ヨツバの方が準備に時間が掛かるのはわかっているので、少し部屋で休んでから向こうの世界に戻る。
少し早めに戻ったつもりだったけど、既にヨツバは宿屋の外にいた。
「あれ、早かったね」
「薬師さんのことが気になったから急いで準備したの」
「そっか。もう少し掛かると思ってたから部屋でゆっくりしちゃってたよ。ごめんね。とりあえず店の前まで行こうか」
僕達は店の前まで行き、中に2人がいるか伺う
「いないみたいだね」
店の外から覗いた感じでは2人は見当たらなかった。
「どうするの?」
「少し外で待ってようか。中で待っててもいいんだけど、2人から死角になる場所で、出来るだけ近い席に座りたいからね」
「わかったわ」
僕達は店から少し離れた所に移動して2人が来るのを待つ。
「お腹は減ってない?店の中に入った後に食べることになるから、あんまり食べない方がいいけど、何かいる?」
「大丈夫よ」
「そっか。僕は小腹が空いてるから少し食べるよ。欲しくなったら言ってね」
僕は屋台で買ってストレージに保管しておいた肉串を食べる。
まあまあかな。
ボアの肉だって言ってたから気になって買ったけど、良くも悪くもない。獣肉!って感じだ。
臭みがあるけど、猪の肉って考えると大分食べやすい。
猪の肉を食べたことはないけど……
少し待っていると2人の姿が見えた。今日も同じ店で食事をするようだ。
待っていた甲斐があった。
「少し待ってから中に入るよ」
「うん」
怪しまれないように少し時間をズラして店の中へと入る。
2人から死角になる位置の席は空いていなかったので、木原君の後ろ側の席に座ることにする。
木原君と薬師さんは対面で座っているので、薬師さんから僕達は丸見えだ。
少し不自然だけど、僕とヨツバは対面ではなく隣り合わせに座り、顔は見られないようにする。
適当に料理を注文して、2人の会話を盗み聞く。
「なんですぐにポーションを使わなかったんだよ。俺が死んでもよかったのか?」
木原君が薬師さんに怒鳴っている。
「……持ってるやつを使うと思ったから」
薬師さんが怯えた声で返事をする
「戦いながらどうやって使うんだよ!お前が俺に投げて使うのが当たり前だろ」
木原君は自分がピンチの時に薬師さんがポーションを使わなかったから怒っているようだ。
ポーションは飲むものだと思ってたけど、体に当てるだけでも効果はあるのかな?
「でも……怖いし」
「俺がやられたら、お前も魔物に殺されるんだぞ!お前1人でキラーベアーから逃げれるのか?」
薬師さんは戦うことは出来ないようだ。逃げることも出来ないとなるとレベルは低いと思われる。
それから2人の相手はキラーベアーのようだ。
キラーベアー相手にピンチになって、回復アイテムを使う余裕もないとなると木原君のレベルは高くは無さそうだ。
レベル11のヨツバが1人で倒せることを考えると、レベルは8くらいかな?
戦闘系のスキルを持っているならもう少し低い可能性もある。
良い情報を得られた。
木原君と戦っても負ける可能性は低そうだ。
これでスキルがわかれば負けることはないと断言できそうである。
その後も木原君が怒り、薬師さんが謝るということが続く。
僕はコソッと振り向いて、2人の方を見る。
薬師さんは俯いていてこちらを見てはいなかった。
2人のテーブルの上を見ると、木原君の前には料理が普通に置いてあるけど、薬師さんの前には美味しく無さそうなパンがあるだけだった。
昨日見たのと同じ光景だ。
やっぱり木原君はクズだなと再確認出来た。
僕の隣ではヨツバが怒りを抑えて震えている。
ヨツバを宥めながら2人の会話を聞き続け、2人が店を出たので、僕達も少し時間を空けて店を出ることにする。
「後をつけて、2人がどこに泊まっているか確認しよう」
「うん。早く助けないと……」
「出来るだけ早くした方がいいけど、今日はどこに泊まっているか確認するだけにするよ。薬師さんを匿うだけならすぐに出来るかもしれないけど、その後に木原君に騒がれるのは避けたい。木原君が1人で騒いでいる分には構わないけど、誘拐されたなんて話になるのは困る。拠点がわかれば何かあった時に助けられる可能性も上がるから、今日はそこまでで我慢しよう」
僕達は2人の後をつけていく。
同じ宿に泊まっていると思っていたけど、2人は途中で別れた。
僕はさっきの食事中の光景を思い出し、考えたくない可能性が浮かぶ。
「木原君の方を任せていいかな?僕は薬師さんの後を追うから」
「え、うん。いや…」
ヨツバは薬師さんを僕1人に追わせたくないのだろう。でも僕の考えている通りなら、ヨツバに行かせるとマズいことになる気がする。
「今は何もしないって約束するよ。逆にヨツバだと情に流されそうだから、僕が薬師さんの後を追うんだよ。見失っちゃうから話してる時間はないよ」
「約束だからね」
「ちゃんと守るから今は2人に集中しよう。木原君の泊まってるところがわかったら、何もせずにヨツバが泊まってる宿屋の前に集合ね。僕も薬師さんがどこで寝ているのかわかったら行くから」
「うん」
僕はそうでないことを願いつつ薬師さんの後を追っていった
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