第54話 侵入

僕は薬師さんの後をバレないようについて行く。


僕は木原君の薬師さんへの扱いを見ていて、自分だけ宿に泊まって薬師さんには野宿させているのではないかと思ってしまった。

野宿ではないにしても、野宿と変わらないようなヤバい宿の可能性もある。


少なくとも、僕のような環境でなければ別のところに泊まる理由はないだろうから、別れた時点で怪しい。

部屋が2部屋空いてなかっただけという可能性も無いことはないけど……


僕の予想は残念ながら当たってしまい、薬師さんは大通りからは外れていってしまう。

人通りの少ない道に宿屋があるとは考えにくい。


そして、辿り着いたのは一軒のボロボロの家だった。

窓は割れているし、壁にも穴が空いている。

この様子だと屋根にも穴が空いているのではと思われる。


薬師さんがこの家にお金を払って借りているとは思えないので、空き家に勝手に住み着いているのだと思う。


防犯なんてされていないし、雨風が凌げるのかも微妙だ。

野宿よりはマシというレベルである。


僕は空いた壁の穴から家の中をコッソリと覗く。


「ふふふふ」

薬師さんが何か瓶に入った液体を見ながら不気味に笑っている。

この家に灯りはないのか蝋燭に火をつけている為、薄暗く少し怖い。


あの液体はなんだろう?

何かヤバい薬にでも手を出してる?


考えながら覗いていると、薬師さんはさっきの瓶を床下に隠した後、服を脱ぎ出した。

僕は咄嗟に目を逸らす。

身体を洗うためか、着替えるためかはわからないけど、流石に今は覗いたらダメだ。


少し待った後に、ゆっくりと家の中をチラッと見る。

薬師さんは寝たようだ。


あの液体が気になるけど、とりあえずヨツバと合流しないといけない。

寝ている場所がわかったらヨツバが泊まっている宿屋の前に行くことになっている。

約束を破るつもりはなかったけど、見つけた後も中を覗いていたせいで時間を食ってしまった。

信用を無くさないためにも僕は急いで集合場所に向かう。


宿屋の前に行くと、当然だけど既にヨツバがいた。


「ごめん、お待たせ」

とりあえず、待たせたことを謝る


「随分遅かったけど、何してたの?尾行がバレたのかなとか、心配してたんだよ?」


「見つかってはないよ。薬師さんがボロボロの家に入っていった後、中を覗いていたら時間が経ってたよ。自分でどこに泊まっているか確認するだけにしようって言ったくせに勝手なことしててごめん」


「問題がないならいいけど。ボロボロの家っていうのは?」


「多分、使われてない空き家じゃないかなって思うよ。勝手に使ってるんじゃないかな?場所は向こうの方だよ。木原君は?」

僕は薬師さんが寝ている方を指さす


「私が最初に追い出された宿屋があったでしょ?あそこに泊まってたよ。どこの部屋かまではわからない」

やっぱり木原君は自分だけ宿に泊まっていたようだ。

気になるのは木原君は薬師さんがあの家に寝泊まりしていることを知っているのか、それとも野宿していると思っているのか……


「お金に余裕があるってわけでは無さそうだね。今日はこれで解散して、明日は薬師さんが寝ている家を漁ろうと思っている。多分、明日も2人は討伐依頼を受けて街を出ると思うから、その間にお邪魔しよう」


「薬師さんの家を漁るの?」


「さっき覗いていて気になることがあったからね。薬師さんがよくわからない液体の入った瓶を眺めながら不気味に笑ってたんだよ。あれが何か調べたい。僕がストレージに入れれば名称は分かると思うんだ」


「それって大丈夫なの?」


「ヨツバは見てないからわからないかもしれないけど、侵入しようと思えば簡単に入れそうだったから問題ないよ」


「そうじゃなくて、不気味に笑ってたって。もう限界なんじゃないの?」


「不気味にっていうのは僕が感じたことだから、正直なんとも言えないかな。とりあえず明日調べてみればわかるかもしれないから、その後に考えよう」


「…わかった」


翌日、いつもより早くヨツバと合流した後、薬師さんの家へと向かう。


「多分まだ中にいると思うから、少し中の様子を見てくるね」

僕は薬師さんの家の中を覗く


あれ?いないな。早めに来たはずなのに、もう出ているようだ。


「薬師さんはもういなかったよ。もしかしたら死角にいるかもしれないけど、多分いない。調べたい物がどこにあるのかはわかってるからすぐに終わるけど、ヨツバはどうする?ここで待ってる?それとも一緒に行く?」


「一緒に行くわ」


ヨツバも不法侵入するとのことなので、2人で家の中へと入る。

鍵はかかっていなかったので、普通に玄関から入ることが出来た。


小さい家で浴室やトイレ、キッチンの他に2部屋あるだけだ。

2部屋とも生活感が全然なかった。

昨日は薄暗かったのでよく見えなかったけど、ほとんど何もない。


たしかこの辺りだったな。


僕は穴の空いた床に手を突っ込む。


ゴソゴソと手を動かすと、何かあったので掴んで取り出す。


「それが昨日言ってた液体?」


「多分そうだよ。昨日は暗かったから絶対ではないけど……」

僕はストレージに入れる


[アナフラフ]


「これはアナフラフみたいだよ。ヨツバは何かわかる?僕は聞いたこともないけど」


「聞いたことないよ」


僕は瓶を床下に戻す


「何かはわからなかったけど、調べたいことはわかったから出ようか」


「うん」


薬師さんの家を出た後、僕達はアナフラフが何かを調べる。

調べるといっても、冒険者ギルドで聞いたらすぐにわかった。


アナフラフは植物性の猛毒だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る