第47話 謝罪

翌日、ヨツバに急用が入ったので、午後からは日本に帰ると伝える。

午前中に冒険者ギルドで依頼の確認をして、僕は日本に戻る予定だ。

今日ヨツバが依頼を受けるなら1人で受けてもらうことになる。


ギルドに行き、依頼を確認する。


「ヨツバは今レベル19だったよね?」


「そうだよ」


「それならこの辺りの依頼に手を出してもいいと思うんだ。Dランクの依頼だけど、今はEランクだから受けることは出来るよ」


「クオンはこの辺りでも達成できると思うんだよね?」


「そうだね。物理系の攻撃をしてくるやつなら問題なく倒せると思ってるよ。魔法使ってきたり、状態異常にしてくるやつはまだ危ないかもしれない。倒せるとは思うけどね」


「そっか。それならDランクの依頼でもいいよ」


「今日は何か依頼受けるの?」


「この街を見て回ろうと思ってるよ。1人で依頼受けるのも少し怖いし……」


「それなら、明日受ける依頼を受注しちゃおうか。どれにする?」


「よくわからないし、クオンが決めていいよ」


「それならこれにしようか。相手はベアウルフだよ」


「ベアウルフってウルフ?それともベアー?」


「ウルフだよ。熊みたいに凶暴なウルフ。前にキラーベアーと戦ったでしょ?単体だと同じくらい危険な魔物みたいだけど、ベアウルフは群れで襲ってくるからDランクなんだよ」


「そうなんだ。危なくないよね?」


「もちろん安全が保証されてるわけではないけど、よっぽどのことがなければ問題ないと思うよ」


「なら、それでいいよ」


「それじゃあ、受けてくるね」


僕はベアウルフ討伐の依頼を受けた後、予定通りヨツバと別れて自室へと帰ってくる。


気が重いけど、鈴原さんに会わなければならない。

僕を訪ねてきたってことだけど、わざわざ来たってことは何か用事があるのだろう。


僕は鈴原さんの家へと向かう。

今回は鈴原さんの方から僕に一度会いにきているので警察の事を考える必要はないだろう。


鈴原さんの家のチャイムを鳴らそうとしたところで、知らない男性に声をかけられた。


「もしかして斉藤くんかな?」

僕のことを知っているようだ。


「誰ですか?」


「君に少し聞きたいことがあるんだよね」

名乗るつもりはないようだ。大体予想はつくけど、身分を名乗らない人と話すことはない。


「そうですか」

僕は面倒だと思いながらも、離れることにする。


「どこに行くんだい?話は終わってないよ。それにこの家に用があったんじゃないのかな?」

男性は大分イラつきながらついてくる。いかにもプライドが高そうだからな。


「不審者に声を掛けられてます。助けて下さい」

僕は警察に電話を掛ける

男性には聞こえないように小声で話をして、今いる場所を伝える


「少し話を聞きたいだけなんだよね。無視は酷いんじゃないかな?」

男性はイラつきながら僕の肩を掴む。


「痛いので離してください」


「君が逃げるからだろう?」


「身分も明かさない人からは逃げるに決まってるでしょう」

僕は掴んだ手を振り払おうとするが、離そうとはしない。


男性は大分頭に血が上っているようだ。

まずいなぁと思っていたら、ちょうどパトカーが見えた。


「助けて下さい!」

僕は助けを求める


「おい!てめぁ」

男性は慌てて掴んでいた手を離す


僕はパトカーの方に走っていく


「助けて下さい」

僕はもう一度助けを求める


パトカーが僕の近くで止まり、中から警察官が降りてくる。

「君が通報した子でいいかな?」


「はい。あの人が急に話しかけてきて……。僕のことを知ってるみたいなんですけど、誰か聞いても言わないので怖くて通報しました」

僕は男性を指差して警察官に話す


「もう大丈夫だからね。何かされてない?」


「肩を掴まれただけです」

僕が説明している間に、もう1人の警察官が男性が逃げないようにしている。


「ちょっと見させてもらうよ。……少し痕が残ってるね」

警察官は僕のシャツを少しめくって肩の状態を確認する


「署まで同行願います」

男性がパトカーに乗せられる。顔色が青白くなっている気がする。


「調書をとりたいから君も来てもらっていいかな?」


「わかりました」

やり過ぎたかなぁとも思うけど、手を出したのもあの人が自制出来なかっただけだし、母さんがマスコミに迷惑してるって前に言ってたから、そこまで悪いことをしたなとは思わなかった。

僕の家に来ていた人がこの人かは知らないけど。


警察に行くのは面倒だけど、助けてもらっているので当然了承する。


警察署にて何があったかを説明する。


と言っても、特に話すことも無いのですぐに終わった。

ただ、男性の取り調べが終わるまで少し待ってほしいと言われた。

黙秘していたり、長くなりそうなら帰ってもいいとのことなので了承する。


少し待った後、警察官に話をされる。


さっきの男性はやはり記者で、行方不明事件について調べるために鈴原さんの家を張っていたらしい。

そこに僕が来たから声を掛けたそうだ。


僕の話と男性の供述に差異はないことが分かったのでこれで終わりらしいけど、最後に男性の今後の事について話をされた。


「相手が君に会って謝りたいと言っているんだけどどうする?」


「会いたくはないので、謝罪の気持ちだけ受け取ったと伝えておいてもらえますか?許してないわけではないです」


「わかりました、相手にはそのように伝えておきます。また何かあれば連絡しますのでその際には協力をお願いします。家まで送るから少し待っててくれ」


「大丈夫です。1人で帰れます」

家に帰るよりもここから鈴原さんの家に行った方が近いので断ることにする。


「そうかい?気をつけて帰るんだよ。また何かあれば遠慮せずに通報していいからね」


「ありがとうございます」


僕は母さんに電話で警察署の事を説明して、また警察から連絡があると思うと伝えてから、気を取り直して鈴原さんの家に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る