第48話 弁明
鈴原さんの家の前に戻ってきた。
チャイムを押すと、中から男性が出てくる。多分お父さんだろう。
「何かうちに用かな?」
「先日僕の家に鈴原さんが訪ねてきたって聞いたので、何か用があったのではと思って来ました」
「ああ、君が斉藤くんか。中に入ってくれ」
「お邪魔します」
僕は鈴原さんの家に入る
「娘は自分の部屋にいるが、先に君に聞いてもいいかな?」
「なんですか?」
「娘がいなくなっていた時の事を何も話してくれないんだ。君は何か知らないかい?警察から家を出てもいいと言われた後にすぐに君のところに行ったみたいだし、何か知ってるなら教えて欲しいのだけれど」
「いえ、僕は何も知りません。なんで鈴原さんが僕のところを訪ねてきたかもわかりません」
「そうか。娘が何か君に話したなら、後で私にも教えてほしい。もちろん話せることならでいいから」
「わかりました」
「頼むよ。娘の部屋はここだよ。琴音、斉藤君がきてくれたよ」
「中に入ってもらって」
許可も出ているので僕は部屋に入る
「ひさしぶりだね。僕の家に来たみたいだけど、何か用事があった?向こうの世界のことだとは思ってるけど……」
鈴原さんの部屋は盗聴されていないようだ。普通に話が出来た。
「色々聞きたいことがあるんだけど?」
鈴原さんは少し怒っている。でも他の感情もあるのか複雑な表情をしている。
「冴木さんに会ってないの?」
僕は冴木さんから僕のことを聞いていないのか確認する
「会ったわよ」
「冴木さんから僕の事は聞いてない?冴木さんに鈴原さんに会ったら話してもらえるようにお願いしておいたんだけど」
「何か言おうとはしてた気がするけど、何も聞いてないわよ。先に一つ聞きたいんだけど、なんで斉藤君とは向こうの話が出来るの?」
「どういうこと?」
「冴木さんと話をしようとした時は、向こうの世界の事は何も話せなかったわ」
「そうなの?クラスメイト同士でも話が出来ないのは知らなかったよ。僕と話せるのは、神に特別に話せるようにしてもらってるからかな。冴木さんとはどこで話したの?」
「この部屋よ」
「その時にこの部屋が盗聴されてたとかはない?誰かが隠れてでも聞いてると話せなくなるんだよ」
「あー、だから仁美ちゃんが風呂場に連れて行ったのね。何がしたいのか分からなかったけど……」
クラスメイト同士で話が出来ないのは厄介だな。
僕が毎回本人に説明しないといけないってことか……。
説明しないといけないってことはないけど、説明しないとずっと恨まれ続ける可能性もあるし困ったな。
「それで何か用事があるんだよね?」
冴木さんから聞いてないことがわかったので、何の用かは大体わかるけど、微かな可能性に賭けて言わないことにする。
「また聞きたいことが増えたけど、これだけは教えて欲しい。死んだらこっちに戻れるって知ってたから殺したの?それとも知らずに殺したの?」
まあ、そのことだよね。
「もちろん知ってたよ」
「そう。なんであんな感じで殺したの?言ってくれればよかったんじゃないの?」
僕は神とのルールを説明する。
冴木さんにも話しているのでこれで2回目だ。
面倒くさいな。
もう、異常者の認識のままでいいから戻ってきたクラスメイトに説明するのはやめようかな……
「そうだったんだね。ありがとう。でも、あんな風に殺す必要は無かったよね?もしかして仁美ちゃんもあんな風に殺したの?」
「ヨツバと近接戦するのは分が悪いから仕方なかったんだよ。あの方法が1番簡単だったんだ。苦しませたのは悪かったと思ってるけど、戻ってこれたんだから許してくれないかな?それと冴木さんは抵抗しなかったし、ヨツバが邪魔しにくることもなかったから苦しめることなく殺したよ」
僕が魔法で戦うことを選んだ為、ヨツバに近づかれた時点で僕がかなり不利になっていた。
あの時もヨツバに、勝てると思ってるの?と言っては見たけど、本気でかかってこられたら楽には勝てなかったと思う。
「……あの日から火が怖いのよ。料理したくても、コンロに火が点けられないの」
「ごめん」
鈴原さんからのカミングアウトに僕は謝るしかなかった。
「……トラウマになっちゃったってことだよね?治りそうなの?」
少しの沈黙の後、僕は鈴原さんに意を決して聞く。
「時間が経てば徐々に良くなるとはお医者さんに言われているけど、本当に良くなるのかはわからないわ。でも気持ちの整理をつけて乗り越えることが出来れば、すぐに良くなるかもしれないって。だから斉藤君にあの時の事を聞きたかったの。理由を知れば気持ちの整理は出来るかなって思って」
「そっか……。僕が聞いていいいのかわからないけど、気持ちの整理は出来そうなの?」
「斉藤くんの事情も聞けたし、すぐには難しいけどなんとか……」
「そう」
「斉藤君はこれからもみんなを殺してまわるの?」
「今のところはそのつもりだよ。それが目的ではないけど、死んだら帰れるってことを知っちゃったからには、見つけたら助けるつもりで殺すようにはするつもりだよ」
「そうなんだ。斉藤君はなんでそんなことが出来るの?……悪い意味じゃなくてね。そうだと知ってても私には出来ないなって思うんだよ」
「助かるのがわかっているから出来るだけだよ。それにみんなと僕はあんまり交流はないからね。鈴原さんが思っている程、抵抗はないんだよ。それから僕が向こうの世界に行ってるのは向こうの世界が楽しいからだよ。ああいった世界に憧れるのは人によると思うから、同意を求めてるわけではないからね」
「そっか。あんまり無理はしないでね」
「無理はしてないよ」
クラスメイトを無理して殺していると思ったのだろうか?
「すごいね。私が斉藤君の立場だったら、自分が死んだら他のみんながずっと帰れなくなるんだってプレッシャーに耐えられないよ」
「え、あ、そうだね」
「もしかして考えてなかった?」
「………………そんなことないよ」
言われるまで考えてもなかったけど、そうなるのか……。
神が言うには特殊な人がもう1人いるらしいけど、どう特殊かは分からないから、鈴原さんが言う通り僕が死んだ場合、向こうの世界に残ってる人は何かの拍子で死なない限りは帰ってこられなくなる。
生活の基盤が出来てしまったら、簡単には死なないだろう。
そうなると帰ってくるのは歳をとって寿命になった時かな。その場合はこの世界に戻ってきたところですぐに死んでしまうのではないかと思う。
「言わなければよかったよね。ごめんね」
「別にプレッシャーとかはないから大丈夫だよ」
言われてみてプレッシャーになったのか考えてみたけど、そんなことはなかった。
やっぱり僕はヨツバが言うような優しい人間ではないなと自分のことを再認識する。
もしも僕がひきこもらずに学校に通っていたなら、プレッシャーに感じていたのかな?
うーん、あんまり想像がつかないな。
感じるとしても、僕は僕だからね。仲の良かった数人を助けたいって思うくらいな気がする。
「……斉藤君に頼んでいいのかわからないけど、他のみんなも助けてあげてね」
鈴原さんに頼まれる。
「……うん、出来る限りで」
出来るかわからない約束をしていいものか迷った僕は、曖昧な返事をした。
鈴原さんの部屋を出た後、鈴原さんのお父さんに何か琴音が言ってなかったかと聞かれたけど、伝えた方がいいような話はされなかったと答えて、言及される前に家を出た。
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