第40話 嘘

「昨日はごめんね。ちょっとあっちの世界で外せない用事があったからね」


翌日、ヨツバといつも通りに冒険者ギルドに依頼を受けに来ていた。

明るく言ってはみたけど、気まずい。


「やっぱり何も教えてはくれないの?」

ヨツバに聞かれる


「鈴原さん達のこと?教えないも何も、ヨツバは見てたよね?あのままだよ。僕があの2人は殺すべきだと思ったから殺した。それだけ」


「私は信じないよ。絶対に何か隠してる」


「はぁ。仕方ないから教えるよ。誰にも教えたらダメだよ」

このままだと、ずっとギクシャクして動きづらくなりそうなので、本当の事を混ぜつつ、嘘の説明をすることにする。


「教えてくれる気になったの?」


「ヨツバが教えるまで何度も聞いてきそうだからね」


「ごめん。そんなつもりじゃないんだけど……」


「いいよ。それで僕がクラスメイトを殺す理由だよね?本当に聞く?ヨツバが期待しているような理由ではないよ」


「教えて」


「実はクラスメイトを殺すと、クラスメイトのスキルを奪うことが出来るんだよ。神からもらったスキルのことね。だから殺してる。何のスキルを持っているかを先に見極めてるんだよ。欲しいスキルなら殺して奪う。どうでもいいスキルなら放置する。ヨツバを殺さない理由は、スキルを失っているから。わかった?」


「本当…なの?」

ヨツバはショックのようだ。


「言いたくなかった理由もこれでわかったでしょ?僕は冴木さんのスキルが欲しかったから殺したんだよ。鈴原さんはあのまま騒いでいたら僕の殺人がバレるかもしれないから殺した。それだけ」

少しだけ本当の事を話した。スキルの話だ。

もちろんそんな事の為に殺しているわけではない。

それからスキルを奪えるというのも、僕にとってはメリットは何もない。

奪うといっても、奪ったスキルがそのまま使えるのではなくて、今あるスキルと交換することが出来るというものだからだ。


多分交換したら地球に帰れなくなる。それにステータスを割り振ったり、獲得するスキルを選べたりと今のスキルは優秀だ。スキル欄には表示されてないけど……。

交換するメリットはない。


「それも嘘よ。適当な事を言って私を騙そうとしてる」

ダメか……。


「本当だよ。例えば鈴原さんのスキルはテレパスだよね?そのせいでヨツバに見られてしまった。僕は鈴原さんからスキルの話は教えてもらってない。でも殺して奪ったから知ってるんだよ。先に知ってたらヨツバにバレないようにもっとうまくやれたと思わない?」

殺した時に知った情報を出してみる


「……言いたくないなら無理に嘘を言わなくていいわよ。本当だって言うならテレパス使ってみてよ」


「それは出来ないよ。ヨツバが鈴原さんから聞いているかわからないけど、このスキルは欠陥スキルだからね。僕の考えていることが筒抜けになっちゃうよ。しかも一方通行でヨツバの考えていることはわからない。それに一度使った後に解除したら、同じ人には使えないから使い所は考えないとね」

これは本当だ。このスキルの詳細を見た時、よく鈴原さんはヨツバにテレパスを使ったなと驚いた。


「知ってたよ。鈴原さんから聞いてたから。それを知らずに使ってくれたらクオンが本当に隠してることがわかると思ったのに残念」


これはダメだな。なんでこんなに僕のことを信じているのか知らないけど、本当のことを言うことは出来ないし、けむにまくのは諦めよう。


「ヨツバが信じなくても、そういうことだから。そんなことより受ける依頼を決めるよ」

僕はこの話を終わらせる。


ギクシャクした空気のまま依頼をこなすこと数日、僕はヨツバと話をすることにする。


「大事な話があるんだけど……」


「……何?」


「最近の依頼なんだけど、うまく連携が取れなくて危ないよね?」


「う、うん」

ヨツバもわかっているようだ


「今は1人でも達成出来るような簡単な依頼しか受けてないからいいけど、僕はこの先もっと難しい依頼も受けたいんだよね。そうなると危険なんだよ」


「それは…わかってるよ」


「あんなことがあったから仕方ないのかもしれないけど、その上でついて来るって選択したなら、割り切ってもらえないかな?」


「クオンが本当の事を話してくれないからじゃないの?」

その通りではあるけど、本当の事は言えないのでヨツバに頑張ってもらうしかない。


「僕は話せることは全部話したよ。僕にはあの状況を見て、なんでヨツバが僕を信じようとしているのか不思議だけど、どうせ信じるならクラスメイトを殺すのを手伝ってくれるくらいの勢いで信じてくれないかな?」


「私にも皆を殺せって言うの?」


「別に殺さなくてもいいんだけど、中途半端に付いてこられるのは困るんだよね。言っていることはわかるよね?」


「……わかるわよ」


「別にヨツバが僕を見極めるつもりでついてくるなら、それはそれで良いんだけど、普段からこの感じなのはちょっとね。本当に危ないし、気疲れするんだよ。僕はこの世界をゲームのように思ってるってことは前にも言ったよね?正直クラスメイトを殺すのもついでなんだよ。この世界を楽しむスパイスみたいなものかな」

嘘はついていない。隠さないといけないことを言っていないだけだ。


「嘘じゃないんだね……」

僕はヨツバの返事に驚く。またそんな事ない!みたいなことを言われると思っていた。


「これは信じるんだね?」


「少しの間だけど一緒にいたから、クオンのことはなんとなくわかるのよ。それにゲーム感覚っていうのは見ていてわかるわ。私がわからないのは、ゲーム感覚だとしてもクオンが皆を何も理由なく殺すとは思えないってことだけ」


「それは前にスキルを奪う為って言ったよね?」


「それは嘘よ。本当に奪えるのかもしれないけど、そんなことのためにクオンは皆を殺さない」


「僕は学校に行ってなかったよね?正直皆のことなんてどうでもいいと思ってるんだよ」


「そうね。だからクオンは皆に会っても無視すると思うのよ。私の時にそうだったように。クオンは変に優しいから、困ってる私を見捨てることが出来なかっただけで、クラスメイトだから助けてくれたわけじゃない。それはわかってる」

ヨツバの言う通りだ。死んだら帰れることを知らなかったら、理由がない限りクラスメイトを見つけても見て見ぬふりをするかもしれない。

ゲームとして難易度の高いクエストが増えたなって事と、助けられるなら助けようくらいの理由しかない。


それがヨツバにはわかっているから、今の状況になっているのか……


「言える範囲で本当の事を全部話すよ。今度は嘘は言わない。言っても何故か気付かれるみたいだし、話さないとこのままギクシャクしたままのようだから。聞いた上でもう一度判断して欲しい。付いてくるか、別れるか。付いてくるならさっきも言ったけど、気まずいのは無しにしたい。少なくても普段は普通にして欲しい」

僕は話せない事を抜いて、ヨツバに教えることにした。

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