第39話 口裏合わせ

冴木さんに僕の説明は終わったので、今度は冴木さんのことを聞くことにする。


「僕からの説明はこれで終わりだよ。次は冴木さんのことを聞かせてね」


「何が知りたいの?大したことは知らないわよ?」


「他のクラスメイトのことは何か知らない?誰が帰ってきてるとか」


「知らないわよ。何も教えてくれないもの。それなのに家から出るなとは言われるんだよ。それに盗聴されてることまで知っちゃったし……。嫌になっちゃうわ」


「がんばってね……。それから何か戻ってきて変化はあった?」

僕も部屋に戻ったら盗聴されてないか調べよう。部屋の中で独り言で異世界のことを話そうとすれば分かると思う


「スキルは使えなくなってたわ。他は特に変わらないかな……」


「やっぱりそうだよね。警察からはなんて言われてるの?」


「行方不明になってた時のことを話してほしいって……。話したくても話せないから、覚えてないって答えたよ。そしたら、まだ犯人が近くにいるかもしれないから自宅から出ないようにって言われたよ。マスコミが来ないように公表もしてないみたい」


「盗聴されてることを考えると、守られているっていうよりは、疑われてるって感じだね」


「そうだね。実際そうだと思うよ」


「見つかった人が皆揃って話さないんだもんね。疑われても仕方ない気もするよ。これで聞きたいことは最後なんだけど、公園の木の下にいたって言ったよね?そこからはどうやって帰ってきたの?歩いて?時間は深夜2時くらいで合ってる?」


「もう少し後かな。4時前くらいだと思う。なんでそんなこと聞くの?」

少しこっちの世界に戻るのにタイムラグがあるのかな?


「警察に目をつけられないようにね。なんで冴木さんの家を訪ねたか疑われてそうだから、たまたま見かけたことにするよ。深夜に遊び歩くなって叱られそうだけど」


「そうだよね……。なんで私が戻ってきてるのを知ってるのか絶対聞かれるよね」


「うん。聞きたいことは聞けたから僕は帰るけど、何か他に聞きたいことはあった?」


「聞いていいのかわからないんだけど、斉藤くんってクラスメイトのために頑張るような人じゃなかったよね?あんまり会ってないから勝手なイメージかもしれないけど。なんでこんなことしてるの?助けてもらって私は感謝してるけど、感謝して欲しいって感じでもないでしょ?」


「僕にも色々とあるんだよ。言いたくないわけじゃなくて、聞かない方がいいと思うから言わないことにするよ」

ゲームのクエストみたいに思っていることは言わない方がいいだろう。


「……わかった。そう言うなら聞かないことにする」


「それじゃあ帰るね」


僕は冴木さん宅を後にする。


帰り道、当然かのように警察官に声を掛けられた。

前に警察署に行った時に会った刑事だ。


「こんな所で会うなんて偶然だね」

刑事は偶然を装って声を掛けてくる。当然偶然ではないだろうけど……


「偶然ですね。お仕事お疲れ様です」

僕はそう言って刑事と別れようとする。

逃げるわけではない。


向こうは用があるのだろう。どんな用かも想像がつく。

でも惚けるつもりの僕は、本当に知らないという演技をする必要がある。


一度応対された刑事に街で偶然だねと声を掛けられたら、偶然ですねと返すくらいが正解だと思った。

無言で会釈するくらいの方がよかったかな……


「ちょっと待ってくれるかな?聞きたいことがあるんだよ」


「なんですか?」


「今、冴木さん宅から出てきたよね?何してたの?」


「元気にしているか見てきただけですけど……」


「聞き方を変えようか。なんで冴木さんが発見されたのを知っているんだい?以前の時と違って情報は漏れていないと思うんだけどね……」

刑事は軽い口調を変えはしないが、明らかに疑っている。


「…………。」

僕は話さない。これは話せないわけではない。

騙すために頭をフル回転させる。


「言いにくいことでもあるのかな?」


「あの、両親には黙っててくれますか?」


「内容による。でもよっぽどのことでなければ黙っていよう」


「冴木さんをたまたま公園で見かけたんです。その時は本人かどうか確信がなかったので、帰ってきたのかなって、今日になって家を訪ねたんです」


「……黙ってて欲しいことってなんだい?それなら別に隠すことなんてないよね?」


「あ、いえ。それならそれでいいんです。それで話は終わりですか?」


「何か急いでいるのかな?もう少し聞きたいけど」


「帰ってゲームの続きをしたいだけです」


「それならもう少し時間をもらってもいいよね?」

刑事は当然のように言うけど、本当にゲームをするなら時間は大事なんだけどな。限定イベントとかあるし……。

今は関係ないからいいけど……


「少しなら……」


「助かるよ。それで話は戻るけど、さっきの話だと隠すようなことはないよね?なんですぐに言わなかったんだい?」


「……わかってて聞いてますよね?冴木さんを見かけたのが深夜だからですよ。親には黙って外に出ていたので、バレたくなかったんです。それに中学生が深夜に出歩いていたら補導するでしょ?約束したんですから黙っててくださいね」


「深夜に出掛けるんじゃない。と立場的に言わせてもらうけど、約束だからここだけの話にしておくよ。それで今日になって会いにきたと」


「そうです。冴木さんかなって思ったけど、暗くてよく見えなかったのでその時は声を掛けなかったんです。でも行方不明になってるのに公園にいるなんておかしいなって思ってて、どうしても気になったので会いに行ったんです」


「ふーん。そうなんだね。それで何の話をしたんだい?」


「特にこれといった話はしてませんよ。元気にしてそうだったので安心はしましたけど、行方不明になってた時のことは話したくないみたいだったので。顔を見ただけですね」


「…………それにしては長かったみたいだけど?」


「冴木さんがお菓子を取りに行くって言って部屋から出た後、全然戻って来なかったので……。僕は公園で見たのが冴木さんだったのか気になってただけでしたし、何か話してくれるわけでもなさそうなので帰ることにしたんです。全然戻ってこなかったのは、お菓子が見つからなくてずっと探していたって言ってましたよ」


「本当に?」


「はい」


「そうか、時間をとらせて悪かったね」

疑ってはいるようだけど、なんとか乗り切れたって感じかな。


「僕からも1つ聞いてもいいですか?」


「なにかな?」


「なんで見つかった事を秘密にしているんですか?」


「行方不明になっていた時のことを誰も話してくれないから仕方ないんだよ。どうやって帰ってきたかも教えてくれないから、犯人がまた誘拐しに来るかもしれないでしょ?口封じのために殺されちゃうかも知れないしね」


「そうですか。わかりました」

僕はお辞儀をして刑事と別れる。


本当は殺すたびに説明しに行った方がいいのだろうけど、当分はやめておいた方がよさそうだ。

どうしてもって時だけにして、僕が極悪人でないことは冴木さんから他の人に伝わることに期待しよう。

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