第30話 別れ
数日後の朝、僕はギルドでニーナから説教をされていた。
何故説教されているのか、それはニーナの武器のお金を僕が既に払っていたことがバレたからである。
装備が揃うまでと約束はしたけど、お金が貯まる前には街を出ると思っていた。実際、全額払えるほどニーナはお金を貯めてはいなかった。でもバレた。
なぜなら、依頼を終えて僕が2人と別れた後、ニーナが鍛冶屋に寄って、代金を少しずつでもと払いに行ったからだ。
そしたら代金は既に貰っていると言われたらしい。一緒に来ていた坊主からと。
「なんでこんなことをしたの?」
ニーナに言われる
「田中君の件でもっと早く街を出ると思っていたからね。装備を揃えるまでって約束だったけど、守れないならせめてお金だけでもと思って。たまたまお金を持ってたし……」
「私がそれで喜ぶと思ったの?」
「思ってないよ。代金を払うと言っても断られると思った。だから隠れて払ったんだよ」
ニーナが喜ぶとは思っていなかった。
「それがわかっててなんで?」
「僕の自己満足だよ。約束は守りたい。でも時間がない。ちょうどお金があるからこれで約束を守ったことにしよう。それだけだよ」
「だったらお金は返すわ」
ニーナにお金を返されてしまった。大銀貨が4枚ある。
「このお金はどうしたの?」
「鍛冶屋のおじさんに自分で払うって話をして返してもらったわ」
「受け取ってはくれないの?」
僕は足掻いてみる。
「いらない」
強く拒否された。
「そっか。わかったよ」
僕はお金を仕舞う。
「それじゃあ気を取り直して、今日も依頼を受けようか」
ニーナは話は終わったと言うように元気に立ち上がる。
「待って。明後日この街を出るって言ったよね。今日と明日は依頼を受けずに遊ばない?依頼ばっかり受けててこの街の観光とかもしてないからね。どうせなら観光してから街を出たいな……。思い出も作りたいしね」
「私もそうしたい。ニーナちゃんとはもうすぐお別れだから、少しでも思い出を作りたいよ」
ヨツバも賛成してくれた。
「わかったわ。私が案内してあげる」
ニーナが案内してくれるそうだ。
「ちょうどさっきお金が手に入ったからみんなで使っちゃおうか」
僕は2人に大銀貨を4枚見せる。
「クオンくん、さっき言ったよね。そういうことされても嬉しくないよ」
ニーナに言われる
「今回のは意味合いが違うよ。このお金は僕の中では既に使ったお金なんだよ。ニーナが受け取らないのと一緒で僕も返してほしくはないんだよ。だから散財しちゃおうってこと。これくらいはわかってほしいな」
「……わかったわ。そういうことなら使いましょうか」
ニーナが渋々ながらも納得してくれたようでよかった。
ギルドを出て、街をニーナに案内される。
雑貨屋で買い物したり、美味しいものを食べたりする。
旅に必要な物もいいタイミングなので揃えることにする。
服や調理道具などの日用品から、テントなどのキャンプ道具、それから食料も多めに買い込んだ。
翌日も店や食べるものが違うだけで同じように過ごす。
結構散財したはずだけど、3人共お金を使い慣れていないようで、結局大銀貨2枚くらいしか使わなかった。
そして翌日、ニーナに別れを告げてこの街を出ることにする。
餞別ではないけど、今までのお礼も込めてウルフ討伐で手に入っていた肉を渡す。
「このままだとあまり日持ちしないかもしれないから、すぐに食べるか、干し肉にするかしてね」
「ありがとう。このお肉がこれからは食べられなくなるんだね。辛いわ」
ニーナは戯けた感じに言った。
「でも、これからはエアリアさん達と依頼を受けるんでしょ?報酬も多くなると思うし、エアリアさんのことだから食べるのに困るようなことにはしないはずだよ。初めは大変だと思うけど頑張ってね」
お酒に付き合うのは大変そうだけど……
「そうだね。頑張るね」
「エアリアさんとクリスさんにもよろしく伝えといてね」
「うん、わかった。伝えておくね」
僕がニーナと話し終わった後、ヨツバがニーナと話をする。
2人きりで話したいこともあるだろうと、僕は席を外すことにした。
しばらくしてから戻ると2人の目は赤くなっていた。
「そろそろ行こうか」
僕はヨツバに声を掛ける
「うん。ニーナちゃん、またね。ありがとう」
「うん、またね」
2人は抱き合って、離れてから手を振る。
ニーナと別れた僕とヨツバは、街を出て街道沿いを歩いて進む。
この街道沿いを歩いていけば違う街があると教えてもらった。
街までは馬車で2日掛かるらしく、結構な距離である。
前もってヨツバには節約する為に馬車を使わずに、レベル上げも兼ねて歩いて行こうと話してあった。
ゆっくり歩いていたとして、遅くても7日もすれば街に着くだろう。実際には5日くらいと予想している。
節約とレベル上げ以外にも馬車を使わない理由があるので、ヨツバを説得して歩いてもらうことにした。
街までの途中には村がいくつかあるそうなので、近くに村があれば場所を借りて寝て、近くに村がない場合は野営することになる。
魔物がいたら倒しつつ、しばらく歩き夜になる。
近くに村がない為、ここで野営することにする。
「この辺りで野営しようか」
「うん」
僕はテントを2つ取り出して組み立てる。1人がギリギリ寝れるくらいの小さいテントだ。
僕がテントを組み立てている間にヨツバには夕食の準備をしてもらっていた。
歩きながら拾っておいた木の枝を薪にして火を起こしてもらい、買っておいた食材を調理してもらう。
「テントの組み立ては終わったよ」
「ありがとう、こっちももう少しで作り終えるよ」
少しして小さい机に料理が並べられる。
「ありがとう、いただきます」
僕は食事をしながらヨツバに聞くことにする
「ヨツバはすぐにでも地球に帰りたいよね?」
聞かなくても答えは決まっている。そう思っていたけど、帰ってきた言葉は違った。
「……この世界に来てすぐの時は、なんでこんな世界にって思ったし、すぐにでも帰りたかった。でも今は違うよ。ニーナちゃんのおかげかな。この世界の事が好きになれたよ。もちろんいつかは地球に帰りたいよ。でも今じゃなくてもいいかなって思ってる。……クオンにもまだ恩を何も返してないからね」
僕はヨツバの返答に驚き、困惑する。
「どうしたの?怖い顔してるよ」
「いや、なんでもないよ。すぐにでも帰りたいって言うと思ってたから驚いただけ」
「そっか。なにかあるなら遠慮しないで言ってね。私で力になれるかはわからないけど、話を聞くことくらいは出来るからね」
「うん、ありがとう」
夕食後、僕は一度地球に帰ることにした。
「旅の間は僕も元の世界には帰らずにこっちの世界で寝るから、当分の間家には帰らないって言ってくるよ。話をするだけだからそんなに時間は掛からないと思うけど、何かあったらとりあえず逃げてね」
「うん、わかった」
僕は自室に戻り、母さんに今日から次の街に移動していることと、次の街に着くまでは僕がこっちに帰ってくると立花さんが1人になってしまうから、向こうで寝ると伝える。
「気をつけるのよ」
「うん、危なくなったらすぐに逃げて、この家に帰ってくるよ」
僕は向こうの世界に戻り、寝ることにする。
今日の為に、貴重なスキルポイントを使ってアラームというスキルを獲得している。
ゲームだとこのスキルを使っていると、敵が不意打ちしてこようとした時に危険が迫っていることを音で教えてくれる。ゲームでは必須のスキルで、効果が常に切れないようにしていた。
寝てる時に襲われるってことは、不意打ちされるということなので多分効果はあるだろう。
襲われないのが1番いいけど……
ヨツバにもこのスキルの事を説明して、安心して寝ていいと伝える。
翌日からも街を目指して歩き続けて、予定よりも早く4日目の夜に目的の街に到着した。
2日目の夜の寝ている時に、テントにスライムが近づいてきたけど、ちゃんとアラームは発動してくれた。頭の中に直接音が聞こえたので聞き逃す心配もない仕様だった。
それから、途中でヨツバにもう一度「すぐに地球に帰りたくないの?」と聞いたけど答えは変わらずだった。
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