第29話 side 田中風磨③

馬車を襲った翌日、冒険者が俺達を捕まえにきたと見張り役の男から連絡が入った。


逃げないと……そう思ったけど、既にこの洞窟が拠点になっていることはバレているようで包囲されているらしい。


「俺達がここにいることが既にバレているってことは、大体のこちらの戦力も把握されているってことだ。戦っても勝てないだろう。勝つ為ではなく、逃げる為に戦うぞ」


俺に声を掛けてきた男の合図で一斉に洞窟から飛び出す。


死ぬ覚悟も戦う覚悟も出来ていない俺は一歩出遅れた。

戦うにしても風刃を使うと動けなくなるし、短剣で戦うなんて俺には出来ない。


戦うことも逃げることも出来ずにいたら、女の冒険者に見つかった。

斬りかかってきたので、反射的に風刃を使う。

風刃は女の手を切り落とした。


女は後退したが、俺はまともに動けなくなってしまった。


その後、他の冒険者に見つかったが、動けなくなっているのが逆に良かったのか、殺されずに拘束された。


しばらくして周りが静かになる。

仲間はみんな殺されるか捕まるかしたようだ。


俺は拘束されたまま馬車に乗せられている時に、冒険者の中に知り合いを見つけた。あれは……斉藤だ。

斉藤も俺に気づいていたようで目が合う。


斉藤は目を逸らした。

俺は斉藤に助けを求める。


「斉藤!助けてくれ!」


斉藤には聞こえているはずだけど、無視される。

斉藤が学校にほとんど登校していなかったから、ほとんど交流はなかったけど、同じ境遇なんだから助けてくれたっていいじゃないか。


「待ってくれ!斉藤!助けてくれよ」

叫んでいたら、黙るように言われ殴られた。


捕まった俺達は街に護送される。

衛兵に引き渡されると思ったが、冒険者ギルドが管理する牢屋に連れてこられた。


俺達は拘束されたまま一つの牢屋に詰め込まれる。


1人が連れていかれて、そのまま戻ってこない。

戻ってこないまま、次の1人が連れていかれる。


そして俺の番になった。


連れていかれた部屋の棚には見慣れない道具が置かれていた。

俺は椅子に固定された状態で座らされる。


「これから質問をしていく。あそこの道具が見えるだろう?痛い思いをしたくなかったら正直に話すことだ」


俺は察した。あれは尋問する為の道具だ。


「まず名前は?」

「た、田中風磨です」


「ふざけてるのか?もう一度聞くぞ、次はないからな」

本当のことを言ったのに……

「ふ、風磨です」


「フウマだな。他の盗賊はどこにいる?お前らの仲間じゃなくてもいいから知ってることがあれば隠さずに言え」

「知りません」


「本当か?後で嘘だとわかれば罪が重くなるぞ?」

「本当に知りません。昨日、路地裏で声を掛けられて盗賊になったばかりです」

昨日、よくわからないまま入ったばかりだ。本当に何も知らない。


「そうか。それならそれまでは何をしていた?」

「お金を稼ごうとしたけど、どこも雇ってもらえなくて路地に座り込んでました。冒険者になろうともしましたけど、登録料も足りなくて……」


「金がないから盗賊になったってことだな」

「はい」


「今まではどうやって生活してたんだ?まだ若いだろ?親は?」

「こことは違う世界で暮らしてました。少し前に急にこの世界に連れてこられて、お金も銀貨1枚しか持たされていませんでした。これでどうやって生活すれば良かったんですか?」


「ふざけるのもいい加減にしろ!何がこことは違う世界だ。それとも変な薬でもやってるのか?」

「本当なんです。信じてください。俺はこの世界に誘拐された被害者なんです」


「その話が本当だったとしても、お前が盗賊なことには変わらない。昨日、盗賊になったと言ったな。何か悪事に手を染めたか?」

「……してません」

俺は嘘をついた。昨日馬車を襲った件に関わったことがバレたら罪が重くなる。

昨日盗賊になったばかりで、何もしてないなら軽い罪で許してくれるかもしれない。


「嘘だな。俺が何年尋問官をやってると思っている。さっきからふざけた事ばかり言いやがって、一度痛い目をみせた方が良さそうだな」

男はそう言って棚から金属の棒を取って俺を叩く。

痛い。なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよ。


「もう一度聞くぞ。なにか悪事を働いたか?」

「……昨日、馬車を襲いました」


「それで?襲って何をした?」

「護衛の冒険者に怪我を負わせました」


「報告にあったのはやはりお前か。それだけか?報告だと動けなくなっている所を捕まえたと聞いているが、なんで動けなくなっていた?」

俺が昨日大怪我させたのはバレているようだ。

「スキルを使ったら動けなくなるんです」


「なんてスキルだ?」

「風刃ってスキルです」


「聞いた事ないな。それでそのスキルを何に使ったんだ?」

「女の冒険者に見つかった時に使いました」


「……使って手を切り落としたのか?」

「…………はい」


「そうか、お前がクリスさんをあんなにした奴か。お前は死罪だ。自分がやった事を後悔しながら死ぬといい」

死刑になることが決まってしまったようだ。

まだ死にたくない。


「待ってくれ!さっきも言ったが俺も被害者なんだ。この世界に無理矢理連れてこられてどうしようもなかったんだよ」


「まだそんな寝言を言っているのか」

「本当なんだ。信じてくれよ……そうだ、俺と同じでこの世界に連れて来られた奴を捕まった時に見た。そいつに聞いてくれればわかる」


「俺にはもう手に負えん」

そう言って男は出ていき、少ししてから3人部屋に入ってきた。1人は女だ。


「お前が異世界から来たとか言ってる賊か。俺はこのギルドの長だ。この2人は今回の作戦を率いていたから連れてきた。一応話だけは聞いてやる」


俺はこの世界に連れてこられた経緯から、斉藤悠太に会った事、それから地球の事まで説明する。


「サイトウユウタというものは隊にいたか?」

ギルド長が2人に聞く


「いないな」「いません」

2人は答える。


「いたとすると偽名を使っていることになるな。話を信じるとして、可能性がある者はいたか?最近この世界に来たそうだから、まだ新人だろう」


「いないな」「1人いるわね」

女の方がいると答えた。


「誰だ?」


「クオンって少年よ。治癒魔法が使えるから、まだ新人だけど参加してもらったのよ。ちょうど治癒魔法が使える冒険者がほとんどいなかったからね」


「なら、その少年に話を聞くか」

クオンって男に話をしてくれることになった。

偽名を使っているだけで、斉藤だと思いたい。

斉藤が俺の弁護をしてくれれば、もしかしたら助かるかもしれない。


そう思っていたが、数日後言われたのは「お前の言っている人物はいなかった。クオンという男はお前の言う異世界人ではない」ということだった。


そして俺の死罪が確定した。


処刑当日、俺は既に死にそうだった。

捕まってから、最低限の水しか与えられていなかったからだ。

フラフラになりながら、処刑が行われる広場の近くの小屋まで連れてこられる。

一緒に捕まっていた盗賊も一緒だ。

俺と同じく何も食べていないのか気力が無い。


小屋の小さい窓から外を眺めていると、斉藤が女を3人も連れて酒場に入っていくのが見えた。

あれは立花だ。それに、俺を尋問した時にギルド長と一緒に来た女もいた。


くそ!あいつギルドと繋がってやがった。それで俺を売ったんだな。


「モガモガ」

叫ぼうとしたけど、口に布を噛ませられているので言葉が出なかった。


その後、広場で知らない奴らに見られながら首を固定されて、鐘がなると同時に俺の意識は途切れた。

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