第10話 side 田中 風磨

俺は地球とは違う世界にやってきたようだ。


まずは胡散臭い神が言っていたスキルを確認したいな。

そう思ったらレベルとスキルが表示された。


レベルは1でスキルは風刃だった。


持っているものを確認したらポケットにコインが1枚入っていた。

多分お金だ。銀貨ってやつかな。


いきなりこんな所にきて不安だけど、少しワクワクする。


とりあえず、少し先にあるっていう街を目指す。

途中、スライムみたいなのがいたのでスキルの試し撃ちをしてみる。


スパッとスライムが切れただけでなく、地面も抉れている。

結構な威力のようだ。ただ疲労感がすごい。膝をついてしまう。

いや、疲労感というか身体から何か吸い取られたような感じだ。ゲームでいうMPとかSPってやつかな。

連発は出来なそうだな。

レベルを上げれば出来るようになるのかな。


スライムみたいなのを1匹倒しただけではレベルは上がらないようだ。


少し休んでから引き続き街を目指す。


途中でスライム?をまた見つけたのでスキルを使わずに倒そうとして負けた。

負けたといってもスキルを使ってしまったということなので、倒してはいるんだけど……


何も考えてなかったのがいけなかった。弾力があるせいで殴ったり蹴ったりした所であまり意味は無かった。

武器があれば倒せたはずだ。


気を取り直して、休んでから街に向かい中に入る。

とりあえず、泊まるところの確保かな。


宿屋を探していると美味しそうな匂いがした。

匂いの方に向かうと何かの肉を串に刺して焼いている屋台があった。


「いらっしゃい、買ってくか?」

肉を焼いていたおっさんに聞かれる。


「何の肉ですか?」

うまそうだし、腹も減っているけど、何の肉かわからないと食べる気にならない。


「もちろんウルフの肉だよ」

ウルフっていうと狼みたいな動物?魔物?でいいのか。


「1本ください」

この世界のものにも慣れていかないといけないし、ゲテモノってわけでもなさそうなので食べることにした。


「まいど!銭貨5枚だ」


俺は銀貨?を渡す


「銅貨9枚と銭貨5枚のお返しだ」


お釣りと肉串を受け取る。


肉串を食べると普通に美味かったので、もう1本買ってしまった。


肉串を食べた後、宿屋が見つかった。

ボロくないし、ここでいいか。


「いらっしゃい」


「とりあえず1泊泊まりたいです」


「銅貨6枚だよ」

高いのかどうかがわからない。


「食事って付いてますか?」


「食事は付いてないけど、併設している酒場で宿泊者には銅貨1枚からで食事を出しているよ」


「わかりました。お願いします」

ぼったくられている気はしないし、泊まることにした。


手持ちが銅貨3枚になってしまった。


金を稼ぐなら冒険者だよな。あるのかな?

俺は宿屋の店主に冒険者ギルドの場所を聞き教えてもらう。

冒険者はいるみたいで安心する。なかったらなにか日雇いで仕事を別で探さないといけなかった。


冒険者ギルドに行き、冒険者になりたいと伝えたら登録料として銅貨5枚いると言われた。

足りない。お金がないと言ったら登録できないと言われた。

聞いたら登録しないと買取もしてくれないそうだ。


お金がない人はどうしたらいいのか聞いたら、荷物持ちをするのがいいと言われた。それか他で稼いでくるか。

ただ、荷物持ちを必要としているのは新人冒険者ではないのである程度危険を伴うらしい。

勧める理由として言われたのは、実力が確かなら荷物持ちとして雇われた後に、雇ったパーティが支援してくれることがあるらしい。

後々パーティに誘ったり、合同パーティを組んだ時の為らしい。

場合によっては荷物持ちもせずにお金を貸してくれるみたいだ。


受付の人がその場にいた冒険者を何人か紹介してくれた。

冒険者の人は荷物をどれだけ持てるかではなく、自衛出来るかを知りたいらしい。

荷物を持つだけでいいなら荷物持ち専属の人がいるようで、その人は守ってもらう契約で雇われる。

荷物持ち用のスキルを持っていたり、感知系のスキルを持っていて荷物を持つ以外の付加価値を付けていたりするらしい。


俺は訓練場で見られるなか力を見せる。


訓練用の丸太に風刃を当てる。

丸太はスパッと切れる。


「威力は申し分ないが、動けないのか?」

冒険者の1人に聞かれる


「大丈夫です」

俺はそう言って立ち上がる。


「フラついているが本当に大丈夫か?さっきの威力で何発撃てる?」


「少し休めばまた使えます」


「魔法以外で戦えるか?武器は?」


「戦えないです」


「そうか……俺のところでは無理だな。死ぬかもしれないやつを連れて行きたくないし、他人を守るほど余裕もない」

「俺のところでも遠慮しておく」

「悪いな」

…………


全員に断られてしまった。

まずい。このままでは明日泊まることも出来なくなる。


「待ってください。威力はあるので襲われても倒せます」


「お前が魔法を使うたびに、俺達はお前が回復するまで待ってないといけないのか?それに魔物が1匹とは限らないだろう?逃げる時はどうする?1発撃ったら動けなくなるのは使えないのと一緒だ。魔物を一掃出来たり、フロアボスでも倒せるくらいの威力があるなら別だがな」


「悪いな、俺達も同意見だ。お前の為に言うが、他の仕事をしながら少しずつレベルを上げた方がいい。冒険者になったとしても、今のお前が達成出来る依頼はほとんどないと思うぞ」

冒険者の人達は訓練場から出て行ってしまった。


俺はギルドを出て宿屋に行く。

宿泊をキャンセルして返金してもらう為だ。今は寝るところよりも金だ。このままでは食うものも買えなくなる。


ああ言われはしたけど、金を稼ぐには登録するしかない。

返金してもらったお金で登録しよう。

他の仕事って言われてもこの世界の常識も何も知らないので働きにくいからな。


「すみません、宿泊をキャンセルして欲しいんですが……」

俺は店主に伝える。


「何か問題がありましたか?」


「はい、冒険者になるのに登録費が足りなくて……」


「部屋に問題があったのか聞いたのですが……」

くっ!恥ずいな


「部屋には問題はないです。お金が足りなくなっただけです」


「それだと返金は出来ませんね。既に部屋をご利用されておりますので」


「利用したっていっても、部屋を確認する為に入っただけだぜ?」


「それを私は確認しておりませんので。それに現在この宿は満室なんです。部屋に居なかったとしても、あなたが借りられていることでお断りしたお客様もいるのですよ。それだけで当宿には不利益が出ております」

納得したくはないが、言っていることはわかる。

でも引き下がるわけにはいかない。


「全額でなくてもいいんです。少しでもいいのでお願いします」

俺は頼む


「はぁ、これでもう帰ってくれ。営業の邪魔だ」

店主に何か握らされて店を追い出された。


握らされたものを見ると銅貨が1枚あった。


……足りない。

そして今日寝るところも無くなった。

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