55 大きなお腹を重そうに
「妻のりんねです」
「では奥さんにもお話を伺いましょう!」
大きなお腹を重そうに揺らし、隣に腰掛けるりんね。
「何か月ですか?」
「もう臨月近くて。出産予定は来月です」
「名前はもう決めているんでしょうか?」
「まだです」
「幸せの絶頂といった感じのお二人です!」
―――パチパチ。
「日本代表として昨年の
―――あはは。
悪戯っぽく、指で
「構いませんよ。公開されている範囲でですが」
「是非!」
あれから5年。弟妹たちの所属チームや年俸も大きく変わった。チームが変わったのは玲人、医師、神子。玲人はJ2得点王の実績が認められ、念願のさいサファ入り。医師はポルトガルでの活躍により隣国スペインの強豪バルサンへ。神子はイタリアの古豪ナポリタンへ……それぞれの年俸は以下の通りだ。
年俸 (万円) 代理人報酬
野心 84002 25201
與範 459012 91802
神子 701000 140200
玲人 4500 450
医師 490103 98021
僕への報酬総額は、年間35億5674蔓延。祖父の遺産などなくとも、使い切れないほどの富を築いた。全て弟妹たちのおかげだ。
番組はラスト10分。CMの間にトロフィーを元に戻そうとした時、ガラスケースの中から1冊の大学ノートを発見。「これは……」「何ですか?」ワッチーも興味深げに僕の手元を覗き込む。「CM明け30秒前で~す」スタッフの声が響く。「見せて頂いても?」僕はワッチーの声を、どこか遠くの出来事のように聞いていた。「大丈夫ですよ」「ではCM明けに」ノートに書かれているタイトル。『僕のサッカー日誌2020』それが何であったのか、僕はすっかり忘れていた。確かに何かを書いた気がする。自分自身で書いたはずだ。だけど内容は全く覚えていない。「CM明け10秒前……5、4、3……」スタッフが手を伸ばし、番組が再スタートする。
「皆さん! 凄い物がありました!」ワッチーが目を輝かせながら、カメラにノートを見せる。「見て下さい! ここ、僕のサッカー日誌ってありますね! これは何でしょう?」僕の方にマイクを向けるので、全く覚えていなかったが「天皇杯当時のノートだと思います。何を書いていたのか、全く覚えていないんですけど……」苦笑いを浮かべながら答えた。「見せて頂いて宜しいでしょうか?」先ほど確認されたばかりだが、カメラの前でもう一度ワッチーが確認する。僕が頷くと、ワッチーはカメラマンとテレビの前の人にも見えるよう、体を半分ずらして窮屈そうな体勢になりながら、ページをめくっていく。全部は読めないので、部分部分を声に出して朗読していく。
『僕の名前は
「この辺は飛ばしましょう」ページをめくる。
『2020年の誕生日は、いつもとは少し違う、ただならぬ雰囲気を感じていた。それが成人のお祝いだからなのか? 特別な何かがあるような……そしてその直感は正しかった。』
「2020年ですね! 天皇杯優勝の年。もう少し読んでみましょう」カメラにその部分を指さし示す。
『武田家の家系には一子相伝の秘密がある。』
「おお! 秘密ですよ、秘密! みなさん大注目です!」興奮して大袈裟なリアクションを見せるワッチー。僕の方を窺って、読んでも大丈夫か? というようなアイコンタクトを取る。僕自身、何の秘密かさっぱり分からないので、まあ大丈夫だろうと、頷いた。ワッチーは先を読み進める。
『自分の思う通りの人間を4人まで生み出せる能力。』
「えっ……?」絶句するワッチー。
『人種も、顔も、性別も、性格も、背格好も、能力も。全てが思いのままだという。「信じられないか? 無理もない。オレ自身も使ってみるまでは分からなかったからな」二十歳の誕生日になるまで、この能力の話をしてはいけないという決まりがあるらしい。そして、この能力は一子相伝の長男だけにしか知られてはいけない、とも。その禁忌を破った時、全ての能力は失われ、今まで積み上げてきたもの全てが夢幻であったかのように消え去ってしまうという。試した事はないから本当かどうかは分からないが、そんなリスクを背負ってまで試したいとは思わない。父はそう言った。「もしこの能力を失えば、凡平、お前の存在まで危うくなる。何しろお前の母親こそが、この能力の産物なのだから」』
遠くから聞こえる声。不思議な感覚。自分とは全く関わりのない世界で起きている出来事のようだ。
頭が真っ白になる。猛烈な眩暈を感じる。世界がグルグル回って……立っていられない。膝からその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
コポポ……暖かい……ここは……どこだ?
「凡平くん!?」
コポポ……水の音。誰かの声が……遠くで響いている……
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