僕のサッカー日誌2020 ～高校サッカーレベルの僕だけど、本気で天皇杯優勝を目指す。～

51 医師に

　医師について。

　玲人の一つ年下の医師は、２０２１年、天皇杯終了後に二十歳になった。成人と共に医師は独り立ちを決意。その夏、サッカーの本場ブラジルへと渡った。オファーを待つのではなく、得意のポルトガル語を駆使して自ら売り込みに行く。その話を聞いて、既に代理人としてやっていくと決めていた僕も同道した。

　数か月間。２人でブラジルの各地を回り、数多くの試合を観戦。試合後、クラブに直接交渉に行くと、練習生として迎え入れてくれるクラブを発見。アメリカン・ミケネコ。今年ブラジル・セリエAに昇格したばかりの若いチームである。他のクラブはほとんど門前払いで、誰一人会ってくれない事が多かった。「天皇杯優勝」なんて肩書きは全く役に立たなかった。そんな中でミケネコだけは僕と医師の話を真剣に聞き、その熱意を買ってくれたのである。

　練習生という待遇は、給料ほぼゼロで、試合にも出場不可。それでも医師は「力を見て貰えばチャンスはあるぜ」と、体当たりで挑んだ。初めはボールに触る機会すらなく、FK練習の壁役やパス交換の相手をする時に少し蹴る程度。１週間、２週間。医師はそれでも文句を言わず、自分の役割をこなした。

　やはり言葉でコミュニケーションを図れるというのは大きい。食事中など練習以外の場所で、医師は積極的にチームメイトや監督とコミュニケーションを取った。すると３週目あたりから、少しずつボールを使った練習やミニゲームに参加させて貰えるようになった。こうなれば医師の力はすぐに証明出来る。監督の見る目も変わった。

　ひと月ほどで練習生から選手登録へ変わり、安いが給料も出るようになった。試合にはまだ使って貰えない。

　ふた月。主力CBの怪我により、急遽出番が回ってきた。連携面には不安があったが、医師は持ち前の身体能力でゴール前の空中戦を制すると、デビュー戦で１ゴールを挙げる活躍。チームは引き分けたが、貴重な勝ち点を手にした。

　数試合、怪我の選手に代わって出場を続けた後、そのDFが復帰すると、医師はボランチとして出場するようになった。医師の能力が高く評価された結果である。それからチームは勝ち点を積み重ね１部残留。契約更新で、ようやく生活できる程度の給料を貰えるようになった。

　海外挑戦２年目。５月の開幕戦からスタメンに名を連ねた。ポジションはボランチ。医師はチームの司令塔として奮闘。累積警告で出場できなかった２試合を除き、ほぼフル出場。３６試合で１９得点。中盤の底にいながらチーム得点王。守っては、相手キーマンを持ち前の強さと激しさで潰し、自陣ゴール前でも高い壁を築いた。獅子奮迅の活躍である。医師に引っ張られ、チームもリーグ戦を上位で終えた。

　２０２３年は更なる年俸アップがあったが、１０００万円という金額は、昨年の医師の活躍を考えれば過小評価というもの。そんな医師に、夏のマーケットで複数のオファーが舞い込んだ。中でもポルトガル・プリメイラ・リーグの強豪 U（ウッサーウィン）・ボルトーは、攻守にわたるキーマンとして医師をリストアップ。完全移籍で２年契約年俸７５００万円。高評価である。他の候補もあったが、同じポルトガル語圏でコミュニケーションの心配がないボルトー入りを決断。シーズン途中でブラジルを去った。

　２３－２４シーズン。まだチームに馴染めていない医師は開幕から８試合をベンチで過ごした。迎えた第９節、１点ビハインドの中、途中出場でポルトガルデビューを果たすと、早速同点ゴールをアシスト。以降、途中出場が多かったが２５試合に出場、６得点を挙げた。

　ポルトガル２年目。医師は開幕からチームの中心、主力としてフル出場を続け、３７試合で１０得点１６アシスト。リーグ連覇とチームのアシスト王に輝く。CLではパッとせず、チームもすぐに敗退してしまったが、ボルトーの監督・首脳陣からの評価は高かった。

　迎えた契約更新。僕も医師も、評価額を知る前からボルトーを去る考えはさらさらなかった。そんな僕たちに提示された金額。３年契約、年俸は１憶４０００万円であった。これ以上ない評価に迷うことなく一発サイン。「これからもチームの中心として期待している」オーナー直々の言葉まであった。

　２５－２６シーズン。２４歳の医師はキャプテンマークを託され、チームの司令塔として、攻守の要として、ボルトーで活躍を続けている。

　最後に、僕が受け取る報酬についても軽く触れよう。僕たちにとって金は無用の長物なのだが、あるに越した事はない。年俸の少ない玲人からの報酬はナシ。野心からは３割を、他３人からは２割を受け取っている。これは基本給のみで、活躍に応じた特別報酬（ボーナス）その他の収入に関しては受け取らない。

　　　年齢　　年俸 （万円）　代理人報酬

野心　２５　　　８４００　　２５２０

與範　２１　　　４５００　　　９００

神子　２０　　　３５００　　　７００

玲人　２５　　　　６００　　　　　０

医師　２４　　１４０００　　２８００

　２０２５年。僕への報酬額は、合計６９２０万円である。