50 與範と神子に
與範と神子について。
16歳だった與範は、2021年、高校サッカーとインターハイに出場。惜しくも優勝を逃した。17歳で地元さいサファの特別強化指定選手になると、カップ戦5試合に出場。そのまま高卒ルーキーとして、さいサファに入団。初年度の年俸は900万円であった。僕たち全員の夢でもあった、さいサファでサッカーをするという栄誉。「さいサファ入りなんて羨ましすぎる」僕の言葉に、「アニキぃ~……アニキと一緒にサッカーやりたかったよぉ~」甘えた声を出した。
さいサファは海外移籍に寛容なクラブである。入団2年目の2024年。前年、高卒ルーキーながらリーグ戦25試合に出場し22ゴールを挙げた若武者に、海外から複数のオファーが舞い込んだ。得点王こそ逃したものの、日本人で初年度ルーキーイヤーに22点も取った選手はいない。Jリーグ新記録である。それまでの記録が13ゴールなので、大きく記録を塗り替えた上、今後この記録が破られる可能性は低いだろうと言われている。
その得点力に海外も注目。中でもフランス1部リーグの強豪、
PRSでレギュラー。普通に考えれば夢物語。しかし與範の力なら十分に可能だと、考えた。與範は「アニキがそう言うなら」PRS挑戦を決断。移籍1年目はコンビネーションの問題もあって苦しんだ。それでも途中出場ながら19試合に出場し16得点。契約更新で1500万アップの4500万を勝ち取った。
今年25-26シーズンではレギュラー定着と、更なる活躍が期待される。
中学を卒業した神子は、一旦は高校に進学する。女子サッカーでは将来食べていけない。特に日本では。だから高校まで出ておくべきだと、僕も他の家族も声を揃えた。だけど神子のサッカーに対する情熱は凄まじく、誰にも止める事は出来なかった。高校女子サッカーでは満足できないという。何度も話し合いを重ねた末、神子は16歳、高校1年で中退し、なでしこリーグ入りを果たす。
しかし神子には、それさえも役不足であった。ルーキーイヤー。さいサファレディースで後半戦の9試合のみながら、圧巻の19得点11アシスト。得点王に輝くとともにチームも優勝。
翌22年はチームの中心としてリーグ連覇に貢献。18試合で43得点。史上最多得点記録を更新した。それまでの記録が25得点だったのだから、どれだけ秀でた数字か分かるだろう。まさに無双状態。国内では敵なしである。この活躍に、アメリカ、イタリア、ドイツ、フランス……女子サッカー世界最高峰の国、チームから数多のオファーが舞い込んだ。
日本ではどんなに活躍しても年俸は安い。日本代表のトップ選手でも年俸500万円から1000万円。一方、海外では億を超えるプレイヤーもいる。神子に舞い込んだオファーの中には、日本にいた時の10倍以上、5000万円というものまであった。神子と数々のオファーを吟味する。最高額を提示したチームはフランスのPRS
トルコ・スーパー・リーグ1部、ガラムマサラ。年俸は1000万円。
「男子チームだぞ、それ」
「知ってるよ! バカ兄」
そう。女子ではなく男子プロチーム。それもCLに出場するような強豪だ。PRSLと比較すると年俸は1/5しかない。それでも神子は男子に混じって欧州プロリーグへの参加を希望した。
チームとの直接交渉。条件面を詰めた。結果、17歳の神子が入団したのはPRSLであった。やはり欧州で何の実績もない神子が、男子プロチームで出場確約は無理。ガラムマサラは、神子がもしPRSLで活躍出来た暁には再オファーを出すと、約束してくれた。だからPRSLへ行って結果を出すこと。そう神子に告げると、「は? バカ兄のクセに生意気!」悪態を吐いた後、「でも感謝してあげてもいいんだからねッ」真っ赤な顔でそう言った。
神子は開幕からレギュラーに名を連ね、3年間で得点王3回、アシスト王2回、MVP3回、リーグ3連覇。海外の女子最高峰でも無双状態。誰も神子を止められない。そのプレーは見る者を魅了した。誰も思い付かないようなプレーを平然と、事も無げにやってみせ『現代最高のファンタジスタ』『パリの女王』と、呼ばれるまでに成長。
こうして20歳になった神子は満を持してガラムマサラ入りを果たす。年俸は3500万円。PRSL時代より下がったが、出場手当を含めれば、つまり男子に混じって活躍出来る事を証明すれば、億を超える。
欧州トップリーグ、女性初のプレイヤーの誕生であった。
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