43 後手後手に
ハーフタイム。ロッカールームでは、みんな上気した顔で、それぞれ手応えを語った。やれるぞ、後半もこのまま行こうと、声を掛け合った。内容的に押されっぱなしなのは想定内。僕たちのカウンターは効果的に機能して、少ないチャンスを確実にものに出来ている。やり方を変える必要はない。
しかし相手もこのままで終わるとは思えない。気になるのは選手交代。さいサファはいつも両サイドから代えてくる。ミシャミシャのシステムで最も運動量を必要とする両翼。原田と関野を下げて、廻神とィノスを投入してくるだろう。後半の頭からか、15分ほど様子を見てからか。その違いだけよと、りんねは予想した。
「疲れていない? 大丈夫?」心配顔のりんねに「全く問題ない」余裕顔で返答。伊達にこの1年間トレーニングを積んで来たわけではない。今の僕ならフルマラソンでも走れる。一方、右サイドの佐藤はと言うと、かなり消耗している。本人はまだ行けると言っているが、交代はりんねの判断に任せる。「行ける所まで。がんばってね」「絶対に走り負けるな」「さあ行くぞ!」「オォーッ!」
15:00。後半のキックオフ。ハーフタイムの交代はお互いになし。
僕たちキュー武ボールでスタート。センターサークルの神子から医師へ、そこから一気に右サイドの與範へ。これを木真里にヘディングで跳ね返され、こぼれ球を黒木に回収されて、あっさりさいサファボールに変わった。やはり、さいサファ相手に力押しで攻めるのは難しい。そして前半と同様に、一方的に押し込まれる展開となった。
47分、右サイド佐藤が、抜かれて慌てたのか相手を引っ張ってしまい、警告を受ける。この試合最初のイエローカード。右の深い位置からのFK。黒木の左足では直接狙えない。低く鋭いクロスは、中央の医師を避けてニアサイドへ。これを木真里が上手くすらせたところにレオが飛び込んだ。田所に当たってCKに。続く同サイドからのCKをファーサイドで待つ木々岐鬼が折り返し、溝呂池が合わせたが当たり損ねたボレーは大きく枠の上へ。
その後も50分の武藤、52分のレオのシュートと、立て続けにエリア内まで攻め込まれ、いずれもDFの身を挺したブロックで難を逃れた。CKのこぼれ球を原田が狙うも、GK野心がフィスティングで防ぐ。右CKは素早いリスタート。近くにいた武藤がフォローに来た関野へ。僕がタテを切って立ち塞がると、関野は中に切り込んで左足のミドルを放ったが、枠を外れた。
56分。予想より早くさいサファが動いた。右の関野に代えてィノス、左の原田に代えて廻神。交代策はりんねの予想通りの2枚代え。これを見たりんねも、右の佐藤に代えるべく上野と椋也二人にアップを命じた。結果から言えば、このりんねの動きは間に合わなかった。後手後手になってしまったと、りんねは試合後に反省の弁を述べたが、こればかりは仕方ないと思う。
交代直後の57分。早速、僕のサイドからィノスが仕掛けてきた。さっきまで対峙していた関野とは全く違うタイプ。正直やりにくい。今まで関野を想定した練習は繰り返してきた。関野のスタイルを模倣した與範相手に、何度も反復練習を繰り返した。だから僕のサイドでは、最初の失点以外、そこまで「やられた!」という印象はない。これは試合中に感じていたことで、後でビデオを見返すと、もうちょっと上手くやれなかったかと、赤面するようなシーンもある。ただ失点には繋がっていないので、及第点といったところと、自己評価している。
それに対してィノスは、関野とは違ってフィジカルで勝負するタイプ。特に圧倒的な瞬発力とスピードに優れる。ィノスが一瞬でトップスピードに乗ってしまえば、僕の足では追い付けない。ドリブルするィノス相手に僕が全力疾走して、ようやく互角か、それでも僕の方が遅いぐらいだ。だからィノスに対応するためには、裏にスペースを作らないこと、トップスピードに乗らせないことだ。タテへのドリブルのコース、スペースを与えないよう対峙した。
すると、ィノスはくるりと向きを変え、左足で大きくサイドチェンジをした。一気に逆サイドの廻神の元へ。僕のサイドに寄っていたDF陣が逆サイドに集まる、その間に佐藤と廻神が1対1の状態になった。大きなスペースがあり、疲労の溜まった佐藤と、フレッシュな状態の廻神。地力の違いもある。これで「廻神を止めろ!」などと言うのは酷だろう。
ほとんどフェイントを入れずにスピードだけでサイドを突破する廻神。追い縋る佐藤をあっさり切り返してかわし、そのままペナルティエリアに侵入。本職ではないCB田所のフォローが遅れた隙を突いてシュートを放った。至近距離からのシュートに素早く反応した野心だったが、決死のスライディングを敢行した田所のつま先に当たってコースが変わる。完全に逆を取られた野心は為す術なく。ループ気味になったシュートがネットを揺らした。
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