15 計画通りに
野心がキャッチしたボールは與範の元へ。カウンターのチャンス!
―――計画通り。
後ろからプレッシャーをかける相手に対し、與範は軽くワントラップすると、いわゆる『裏街道』、つまりボールを出した方向と逆側から相手の裏に抜け出す技で前を向いた。もう相手は2枚しか残っていない。抜かれたフリをして前線に残っていた僕の方へパスが出る。残る2枚のDFのうち守備の要の選手が寄ってくる。寄せきられる前に中央に折り返すと―――ドンピシャのタイミングで走り込んだのは玲人だ。落ち着いて転がしたシュートはGKの左足に当たって跳ね返ったが、詰めていた真壁がそれを押し込んだ。計画通りに先取点を奪う事に成功。
その後も何度か相手右サイドバックの開けたスペースを市原が使って攻め込んだが、追加点にはならない。野心と医師の守る守備陣は安定していたし、與範も無理して上がらず、中盤の底に近い位置で相手の攻撃の芽を摘んだ。僕は相手右サイドバックにマンマークで付き、その後は仕事をさせず。虎の子の1点を守り切り、僕たちは県内最終決戦に駒を進めた。
日曜日は完全オフ。中1日しかない休みなので、メンバー全員可能な限りの静養をと、キャプテン、マネージャーに念を押された。僕は3回お風呂に入り、固まった筋肉をほぐした。野心と少しサッカーの話をしたが、それ以外はサッカーから離れて頭も心もリフレッシュ。日課の筋トレも控えた。
迎えた3月22日、日曜日。晴れ。気温23度を超える初夏の陽気であった。今日の会場は駒場。地元さいサファのセカンドスタジアムである。2万人収容可能なこの会場は大アウェーになった。
今日の対戦相手であるアルゼンチン国際大学……長いので以降はチン国際とする。そのチン国際と、兄弟校であるオマーン国際大学……以降はマン国際とする。チン国際とマン国際、両校の応援団がそれぞれ数千人規模で結集したのだ。吹奏楽部とチアだけで約三千人。敗退したマン国際のサッカー部員が400人。選手の家族親類、その他一般生徒も合わせて1万人規模の応援団である。対する僕たちの応援団はと言えば、家族と知り合いが総勢200人いるかどうか。
チン国際の監督は、元日本代表選手で代表監督も務めた経験のある、
選手の方では、ユニバーシアード、国際大学スポーツの日本代表にも選出されている9番、10番の両名には特に要注意と、栗岡がミーティングで教えてくれた。この2トップがチン国際の主な得点源。大学リーグで得点王に輝く9番の
試合は立ち上がり、お互い穏やかな展開で始まった。自慢の2トップを中心に攻勢に出て来るかと思いきや、チン国際はどっしり構えてパス回しで様子を見る。僕たちキュー武も同様で、無理して奪いには行かず、ラインを自陣深くに引いて奪ってから一気に裏を狙う作戦である。しかし、この形で先のマン国際戦で決勝点を奪ったので、チン国際は想像以上に警戒しているようだ。ラインを押し上げて攻めて来るというよりも、どこか穴を探して最少人数で攻めようとしている様子であった。知将岡沼による指示なのだろうか? 焦れる展開になったが、前半の15分、下田のシュートを皮切りにチン国際がミドルシュートを度々狙ってくるようになった。
僕たちの強みは守備の中央の3人、蔵島キャプテンと医師 & キーパー野心にある。しかし、その前に位置するボランチの2人は、正直高校レベルでしかない。この最終ラインを無理して抉じ開けようとせず、その手前ボランチの裏から少し遠めでもシュートをガンガン狙って来るというやり方に変えてきたのだ。キャプテンと医師が体を張ったブロックで凌ぎ、防ぎ切れなかったシュートが何本も飛んできたが、大半は枠を捉えていなかった。ボールを支配され、シュートを打たれてはいるものの、決定的なピンチには至らないという状態だったので、僕たちとしては焦らず気を緩めないよう、集中して守った。
シュートが枠を外れる度にゴールキックからリスタートになるのだが、マイボールになった時にはチン国際が厳しいプレスを掛けてきた。2人に密着マークされ與範が前線で孤立。必死にキープするもののプレスをかいくぐって決定的なチャンスを生み出すのは難しかった。ここもマン国際戦で研究されていたかも知れない。たった1試合だったが、うちの強みを完全に読まれてしまっていた。
前半を終えて0対0。浴びたシュート数は15本、逆にこちらのシュートは僅かに3本だけという内容であった。
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