14 一進一退の展開に

 3月の14日、15日は、集まれるメンバーで軽いチーム練習とミーティングを行った。高校生と大学生、それにユースチームの中から選ばれた埼玉県の学生代表チーム。それと昨年度の埼玉県代表チーム。これから対戦する相手はもう分かっている。昨年度の代表は『アルゼンチン国際大学』、今年の学生代表チームは『オマーン国際大学』である。いずれも埼玉県内にある私立大学で、スポーツ振興に力を入れている。文武両道、地域密着、国際交流を掲げる学校だ。もうお気付きかも知れないが、これらの大学の名前は下ネタである。……いや、違う、そうじゃない。これらの大学は同じ系列の学校である。埼玉県内で特にスポーツ強豪校として有名で、サッカーのみならず、オリンピック競技などの代表選手も多数抱えている。

 今回は僕たち『キュービックジルコニアTAKEDA』などという全く無名の、しかもどこに所属しているわけでもない、正体不明のチームが相手だ。という事で、侮っているだろう。予選ではなるべく力を温存して戦ったので、こちらのデータは揃っていないはず。まさに『敵を知らず~』である。逆に相手2チームの情報は、マネージャー栗岡が手を尽くして収集してくれた。20本余りの試合DVD、それらを編集したものと詳細なデータ、得点パターンに相手選手の特徴。数年前の高校サッカー全国大会に出場していた選手は、その当時の映像まで分析してあった。このアドバンテージは、きっと活きてくるだろう。編集済みのDVDや分析データをチェックした後、最後にキャプテンがそんな話をして解散となった。


 3月20日。金曜日・祝日。天候は晴れ。気温19度。サッカー日和であった。今日の対戦相手は大学チーム代表の『オマーン国際大学』である。監督には元Jリーガーで、日本代表の出場65試合という往年の名選手、後田秀樹うしろだひでき。現役引退後にS級ライセンスを取って、Jリーグチームの監督も経験している。コーチ陣にも元Jリーガーがずらりと並ぶ。実績、経験が豊富なスタッフが指導にあたっている。

 選手の方も、高校選手権に出場した選手たちが集まっている。Jリーグ内定をギリギリで受けられなかった選手たち。または内定があったものの、それを蹴って大学に進んだ選手たち。スポーツ推薦で日本各地から集めた実力者揃いだ。部員数は400名を超え、同大学内のチーム数だけでも2桁に及ぶ。メンバーが登録制限数を下回っている僕たちキュー武と比べれば、明らかに格上。野心ら3人がいなければ、到底勝ちは望めない相手だろう。だから僕たちは、余裕をかまして戦力を温存するのはここまでにした。今日からはフルメンバーで挑む。初戦のメンバーに近いスタメンだが、医師をDFラインに入れ、守備を安定させる布陣。


  玲人  真壁

 市原    與範

  葉鳥  伊良部

凡平      佐藤

  蔵島  医師

    野心


サブ:FW 古賀 MF 田所 DF 上野 野元 GK 中条

マネージャー:栗岡りんね


 試合は一進一退の展開になった。もっと一方的に押し込まれるかと思っていたのだが、そこまでの力の差は感じない。ディフェンスの中央にいる医師はクロスボールやロビングのボールをことごとく跳ね返したし、與範のキープ力でラインを押し上げる時間的な余裕も十分に作れた。相手は学生サッカーという事もあって、ラフプレーや激しい接触はなく、球際でもそこまで負けなかった。際どいシュートもあったが、野心にとってはイージーなものだったようで、体の正面でガッチリキャッチした。ただ、こちらも決め手を欠き、真壁のヘッドも玲人のシュートも枠を捉えきれず。前半は両チームともシュート数の少ない、中盤のせめぎ合いといった展開になった。

「予定通りね」そう言ったのは栗岡である。そう、前半はあまり前に行かない、というのは作戦通りだ。相手に慣れるためという理由の他に、これは分析の結果でもあった。

 栗岡の調べによると、大学リーグでオマーン国際が前半0対0で折り返した試合は10試合以上ある。この展開になった時、オマーン国際は8割方、後半から投入してくるスーパーサブがいる。5枚の交代枠のうち、後半開始から2枚を切ってくる可能性が高い。そして、その場合に入ってくるのは、相手右サイドバックの選手と、ハイボールに強いFWの選手だ。この2人は高い攻撃力がある一方で、守備には難がある。そこを逆用する。


 後半の5分過ぎ。僕のサイドから相手の突破を許した。交代で入ってきたばかりの、攻撃力に定評のある右サイドバックの選手だった。スピードに乗ったドリブルでサイドを駆け上がると、深い位置から上げたクロスボールは、同じく交代で入ってきた長身FWにぴったり合った。医師が体を寄せてニアサイドを消していたため、打てるコースは限定されている。山なりにファーサイドまで飛んだシュート。それをGK野心がしっかり掴む。すかさず野心がパントキックを送ると、ボールはハーフライン付近で待つ與範の元へ……

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