第8話 『盲目』

アナザー




著者:ピラフドリア




第8話

『盲目』




 一足先に上の階にいたウィングとグラビティは次の階層で紙袋を被った長身の男と対峙していた。




「ヴィラン名、マスク」




 殺人医師として知られる裏世界の医者である。人間を実験材料に使い、様々な研究をしている。




「先輩、ここは先に行ってください」




 グラビティが言う。ウィングは心配そうな目で見つめる。




「大丈夫か?」




「先輩の能力よりも僕の能力の方が有利に戦える。それに先輩は戦いたい相手がいるはずです」




 ウィングは少し考えるが、




「分かった。すぐに来いよ!」




 そう言い、階段を登っていく。




 マスクはウィングの邪魔をしようとするが、グラビティが重力を倍にし、マスクの動きを封じた。




「ぐ……」




 グラビティが動きを封じている間にウィングは上の階へと辿り着く。




 グラビティはそのままマスクに重力を操作する能力を使い続ける。




 マスクが体重に耐えられなくなり、倒れればその間に近づいて拘束することができる。だが、マスクは二本足で踏ん張って耐える。




 長身であるが、身体は細く力はない様に見える。だが、それでも耐え切ることができることにグラビティは驚く。




 このマスクの体力切れを狙う手もあるが、その前にグラビティの方が体力負けしてしまう。




 グラビティは重力を解除せず、しばらく様子を見る。すると、その重力に慣れてきたのか、マスクは徐々に動き始めた。




 そして十秒も経過する前にマスクはグラビティが重力を倍にしている中でもジャンプすることができる様になった。




「うそだろ……」




 グラビティは驚く。自身の能力には自信があった。この能力で多くの犯罪者を拘束してきたのだ。

 だが、このマスクには簡単に攻略されてしまったのだ。




「どうして?」




「俺は人一倍の適応能力を持っているのさ。だから、どんな空間でも俺はすぐに対応できる」




 適応能力?

 そんなもので簡単に慣れることができるものなのだろうか。




 だが、こうしてマスクが問題なく動けているのが現状だ。




 グラビティは能力を一度解除する。




 突然身体が軽くなったことでマスクはふらつくが、問題ないようだ。




 能力を解除した理由はこれ以上、自身の能力に慣れさせないため。マスクを倒すためには重力を操作する能力に頼るしかない。




 だが、そのためにも対応されてしまっては意味がないのだ。

 やることはただ一つ。一撃、一点の超重力で動きを封じ、その間に拘束すること。




 グラビティが隙を窺っていると、マスクは懐からナイフを取り出した。




 それは病院で使われるメスに近い形をしている。




「これから君を解剖しよう」




 医者気取りということか。




 マスクはナイフをグラビティに向けて投げつけた。




 グラビティは自身の周りの重力を倍にしてナイフの落下速度を速くする。

 それにより、グラビティに到達するよりも早く、ナイフは地面に落ちた。




 これくらいなら、どうにかなる。だが、なぜ奴は能力を使ってこない。

 そう考えていると、マスクは長い身体を曲げてグラビティを覗き込む様に見る。




「俺が能力を使わないのを警戒してるのか? それなら安心しろ。これから使ってやる」




 そうすると、マスクはグラビティを指さす。




 すると、グラビティの視界が突如真っ暗になる。




 何も見えない。真っ暗な世界だけが映し出される。




「どうだ? これが俺の能力だ」




 グラビティはやられてしまったと感じる。




 マスクの能力は盲目。マスクの視界にいる相手の一人の視界を奪うことができる能力。

 能力の発動条件は見るだけだし、マスクの視界から消えない限りこの能力は続く。




 ずっと使ってこないことを疑問に思っていたが、今までは遊んでいただけということだろう。




「さてともう一度ナイフを投げるが、これは君に届くことはないだろう」




 マスクの声だけが聞こえる。だが、先程の重力は解除していない。再び投げたとしても当たることはない。




 そう思っていた。しかし、グラビティの横腹に痛みが走る。




 触ってみると、ナイフが刺さっている。見えはしないが、グラビティの横腹にナイフが刺さっていた。




 理解ができない。だが、マスクのナイフがグラビティに攻撃できた。




「もう一度投げよう」




 再びマスクはそう言う。グラビティはさらに重力を重くするが、今度は腕に激痛が走る。




 再び刺されてしまったのだ。




 だが、この攻撃でグラビティは理解した。




「そうか、そういうことか」




 グラビティは自分自身も含め、自身から半径三メートル程度の重力を操作する。




 それは体重が倍になる程度ではない。何十倍にもなる。超重量だ!!




 グラビティは自身の能力に負けてその場に膝をつく。だが、地面に這いながら当たりに手を伸ばす。すると、人の腕の感触がした。




 グラビティは自身の能力に耐えながら、その人間にのしかかる。




すると、その人間は体重に耐えきれずに潰れる。




「うぐ!!」




 すると、グラビティの視界が元に戻る。そして潰れているのが、マスクだと判明した。




 グラビティは能力を解除すると、マスクに手錠をあげる。




「お前は重力に対応できるからな。目を奪った後近づき、投げるフリをして普通に刺した。そういうことだな」




「……ぐ」




 グラビティはマスクを逮捕した。





【後書き】



 対応能力強すぎる。



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