第9話 『空』

アナザー




著者:ピラフドリア




第9話

『空』



 ウィングは上の階にて天狗の仮面を被ったヴィランと対峙していた。




 ヴィラン名をテング。黒い羽を生やし、空を飛ぶことができる。




 ウィングは数週間前にこのヴィランに負けている。




「リベンジだ」




 ウィングが剣を構えると、テングも剣を抜く。




 二人剣を手に向き合う。そしてゆっくりと距離を詰め始めた。




 塔の中は広く、飛んで戦うには十分な広さはある。だが、飛び立つ瞬間にどうしても隙が生じてしまう。

 二人はそれを理解して、地上での剣術勝負に徹したのだ。





 お互いが間合いに入ると、歩みを止める。今にも踏み込めば、すぐに攻撃できる距離だ。




 ウィングは剣術には自信があった。




 それは小さな頃からずっと積み上げてきた技術であるから。





 ウィングの家系は元武士の家系であり、家には道場もあり、小さな頃から剣術を習ってきた。




 正義感の強い性格で、能力の発動する前からヒーローに憧れ、学校で弱いものいじめをするものや、悪戯をする子を懲らしめてきた。




 時には歳上の子と喧嘩をすることもあった。




 負けることもあった。それでもウィングの心の支柱になっていたのが剣術だ。




 やがて能力が発現し、羽が生えてからは独学で空中剣術を開発した。




 気候なども勉強し、風の動きなどを頭に叩き込んだ。




 ヒーローになるために受ける試験。ヒーロー試験はイナズマとウィングの二人上位争いとなり、トップで通過した。





 誰に負けないヒーロー。それがウィングだ。





 だが、このヴィランに一度敗北した。次は次こそは、勝利してみせる。




 ウィングが最初に仕掛ける。剣はテングに向かい振り下ろされる。しかし、テングはそれを受け止め、カウンターで攻撃を仕掛ける。




 やはり剣術では一歩負けている。だが、ヒーローとしては負けられない!!




 ウィングは剣が届くよりも早く、テングを蹴りつけた。カウンターを予想していたから可能な攻撃だ。




 蹴られたことでテングは体制を崩し、後ろにふらつく。そこを見逃さずウィングはテングを斬りつけた。




「汚くても良い。ヒーローは負けられないんだ!!」




 ウィングの剣はテングの顔から一直線に振り下ろすように攻撃した。

 しかし、テングは剣が顎より下に行く前に、体制を変えて回避した。





 しかし、顔を切られたことで画面が真っ二つに割れる。仮面の中には、黒髪の女性の顔。




 顔の鼻上から口元まで斬られたとこで血を流しているが、それはそれは美しい女性である。




「……女だったのか」




 ウィングがそう言うと、テングは鋭い目で睨み付ける。




「女で何が悪い」




 テングは冷たい目で激情する。性別に対してタブーがあったのだろうか。




 テングは勢い任せに攻撃を仕掛けてくる。しかし、雑に振り下ろされた剣であっても、その攻撃には隙はなく。

 何百、何千と繰り返してきた剣術だからこそ、無意識に隙のない攻撃を繰り出しているのだろう。




 その勢いに負けたウィングが一歩下がった時、テングがその隙を見て飛び上がった。




「しまった!!」




 ウィングはテングの勢いに負けてしまった。




 空中と地上では空中の方が有利である。上から一方的に攻撃できる上に、相手の攻撃は空中に逃げることができる。




 ウィングは一気に不利な状況になってしまったのだ。




 テングは空中から攻撃を仕掛けてくる。ウィングはそれを防ぐが、攻撃して下がる。攻撃して下がるを繰り返されるため、ウィングが攻撃することができない。

 さらにウィングが飛ぼうとすれば、それを阻止しに攻撃を仕掛けてくる。




 ウィングは防戦一方になる。




 このままではウィングは再び負ける。




 しかし、ウィングは諦めていなかった。




 ヒーローになりたての時、ウィングはヒーローでも有名な大規模組織に入っていた。




 中村事務所はトップヒーローが務めているが、それ以上にその組織の方が有名でニュースにも取り上げられることが多かったからだ。




 ウィングはその組織から推薦を受けて、ヒーロー活動を始めた。




 しかし、ヒーローの実態は違っていた。




 人質に取られたヒーローは見捨てられ、名声のみに目を向けた功績。ウィングはこんなヒーローのあり方に疑問を感じていた。




 そんな時に出会ったのが、中村だった。




 中村のヒーローとしてのあり方。そして目指す社会。それはウィングにとって本来あるべきヒーロー像と重なったのだ。




「俺はヒーローだ。人々のために戦うヒーローだ!!」




 ウィングは剣を鞘にしまい、構える。抜刀の構えだ。




「君がどんな思いでヴィランになったのかは分からない。だが、平和は俺たちが守る!!」




 テングも次の攻撃で終わりにするため、勢いをつけて急降下してくる。




 テングとウィングがぶつかる!!




 金属音。そして二人は背を向け合う。




 振り返らずにその場で立ち尽くす。




「私は男になりたかった。でも、本当に望んでいたのは違っていたんだろうな。だから、この願望なんだ」




 テングは最後にその言葉を残すと、眠るようにその場に倒れた。




 ウィングは剣を鞘に収める。




「俺の願望だってそうさ、空を飛びたいだけなら、飛行機で良い、でも、鳥だ。人の願望はより深いところにあってことだな」




 ウィング対テング。ウィングの勝利!!






【後書き】



 テングの能力は偽りです。自分の本心を隠すことを願ったことで、天狗の姿になりました。



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