第2話 ⑤
梨花の言ったとおり、夜の田舎道は明かりが乏しかった。加えて道幅が狭い。前回も通った道とはいえ、慎重な運転は必要とされた。しかも前回は、時子の運転するSUVのあとについていっただけなのだ。もっとも、普段の足にしているミニバンには慣れており、ゆえに今回は時子の駆るSUVをそつのない走りで先導し、何ごともなく山神の広場に到着した。閉口を免れなかったのは、最後のわずかな距離――アスファルトの道を離れてから山神の広場までの悪路だった。
二年前もそうだったが、時子とともに私服に着替えてからの出立となった。車での移動とはいえフォーマルスーツのままで出歩くことに信代も時子も抵抗があったのだ。厚地ブラウスとガウチョの組み合わせはこの田舎に不釣り合いのような気もするが、思い起こせば二年前も同じ装いだった。そもそも明かりの少ない僻地なのだ。場に不釣り合いな服装だの着古しているだの、気にするだけ無駄なのかもしれない。
いずれにせよ、着替え終えたときは台所の仕事は完了寸前だったため、時子と二人で臨時駐車場へと急いだ。それでも葬列より先に山神の広場に着いたのだから、差し支えはないはずだ。
別ルートで進む葬列がどの辺を歩いているのか見当もつかないが、山神の広場の端には黒い車が停まっていた。セダンをステーションワゴンのように改造した車両である。派手な装飾はないが、間違いなく霊柩車だ。エンジンがかかっている様子はなく、灯火類も落とされている。この大柄な車両の定員は、棺のスペースを除いて五人だという。
信代がミニバンをその霊柩車の横に停めると、SUVが信代のミニバンに並んだ。このSUVの所有者は紀夫だが、信代の場合と同じく運転は時子のほうが慣れているという。
エンジンを切った信代は、助手席からショルダーバッグを取って車外へと出た。
民家は元より街灯さえ見当たらない。鬱蒼とした雑木林を照らすのは、時子の乗るSUVが放つヘッドライトと、東の空に位置する月だけだ。木々の奥にたたずむ深くて重い闇が、自分たちの世界との隔たりを感じさせる。
思わず雑木林の闇に引きずり込まれそうになり、信代はかぶりを振った。そして、ドアを閉じてロックをかける。
霊柩車の運転席からフォーマルスーツの岸本が降りた。信代は岸本の元へと小走りで進んだ。
「お疲れ様です」
岸本はドアを開けたまま、信代に向かって言った。
「よろしくお願いします」と返して、信代はミニバンのキーを渡した。
「確かにお預かりいたしました」
慇懃な言葉を受けて、信代は頭を下げた。
「じゃあ、野辺送りが来ないうちに戻りますね」
見送った葬列と遭遇するのは禁忌とされている。ために信代は、もう一度一礼すると、SUVのほうへ急いだ。「お気をつけて」と岸本の言葉を背中に受けるが、その直後に、ドアを閉じる音を耳にした。岸本が霊柩車の運転席へと戻ったようだ。見送りなど期待していなかったが、「やはりこの夜陰が心細いのだろう」と察した。
カーディガンにジーンズという姿の時子がSUVの運転席で信代を待っていた。助手席に乗り込んだ信代は時子に「お待たせ」と声をかけ、ドアを閉じてシートベルトを締めた。
「じゃあ、行きましょう」
言って時子は、SUVをバックさせてその向きを変えた。
舞い上がった土埃がヘッドライトの明かりに浮かんだ。
「本当に気味の悪いところね」信代は言った。「二回目だけど、慣れないものね。夜だから、っていうのもあるかもしれない」
「日中に来ても気味悪いわよ」
時子はそう言ってSUVを前進させた。
藪の中の一本道で車体が緩やかに揺れた。とはいえ、来たときよりも速度を抑えているため、助手席で目を白黒させる、という醜態を披露せずに済みそうだ。
「そういえば時子さんは、子供の頃にも何度か来たことがある、って言っていたわね」
「ええ」時子は頷いた。「和彦兄さんや雅之兄さんに連れられてね。さすがに夜には来なかったし、林の中には入らなかったわ。それでも十分に気味の悪いところよ。でもね、ある日、ついに兄さんたちは山神様の斎場まで行っちゃったのよ」
「山神様の儀式とかじゃなくて、遊びで?」
「そうなの。ほかにも何人かの男の子がいたんだけど、みんな兄さんたちと一緒に行っちゃって、わたし一人があの広場に残されちゃったのよ。本当は、山神様の斎場まで一緒に来い、って兄さんたちに誘われたんだけど、大人たちにきつく言われていたから」
「山神様の斎場に立ち入ると祟りがある、とか?」
雅之やほかの親族から聞いた話を、信代は口にした。
「そうそう」時子は苦笑した。「でもいくら林の外とはいえ、とても心細かったわ」
「うちの人って薄情なところがあるもんね」
「やっぱり信代さんもそう思う?」
「そりゃもう」と言って信代が噴き出すと、時子も声を上げて笑った。
「で……」笑いをこらえて信代は問う。「みんな無事に林から出てきたんでしょう?」
「もちろんよ。特に何もなかった、って言ってけろっとしていた。でもね、同行した男の子の誰かが自分の親に話しちゃったみたいで、うちの両親にばれちゃったの。わたしはおとがめなしだったけど、兄さんたちはお父さんに何度もげんこつをもらってね」
「まあ」
「それ以来、お母さんのお葬式があるまで、兄さんたちは、山神様の斎場はもちろんだけど、山神様の広場にも近づかなかったはずよ」
「そうだったのね」
夫のやんちゃな少年時代を、信代はあまり知らない。ゆえにこんな話が聞ける機会を嬉しく思った。
「そういえば」ふと、時子が正面を向いたまま神妙な趣を呈した。「わたしが中学生のときだったかな」
不穏な空気を察して、信代は息を吞む。
「小学生の男の子が二人、あの林に入って行方をくらましたの」
SUVが舗装路に出た。左折して進路を東へと取る。藪ばかりの風景からは解放されるが、左右の暗がりに見えるのは、稲刈りの済んだ田んぼばかりだ。
車速がわずかに上がった。しかし信代は、得体の知れない何かに追われているような錯覚にとらわれ、「もっと速度を上げてほしい」と願ってしまう。だが、センターラインがあるとはいえ、乗用車がどうにか擦れ違える程度の道幅なのだ。まして夜なのだから速度は控えめで当然だろう。
「そのときばかりは、警察や消防団や近所の大人たちが林に入って捜索したわ」
「で、どうなったの?」
尋ねる声がわずかに震えた。
「結局、見つからなかったのよ」
「それっきり、見つからないまま?」
「今も行方不明のままよ」時子は頷いた。「広場までは一緒だったという子供たちは無事だったけど、いなくなった二人はリーダー格のようで、どうやら勇気のあるところをほかの子たちに見せたかったみたいね」
なんと返せばよいのかわからず、信代は口をつぐんだ。
「そういえば、二年前に亡くなったうちのお母さんがね……」
時子が言いさして口を閉ざした。
「お義母さんが、どうしたの?」
促したのは、沈黙を払拭するためでもあった。
意を決したように頷いた時子が、口を開く。
「うちのお母さんも山神様の儀式に出たことがあるのよ」
「それって、野辺送りとか火葬祭とかそのあとのも、っていうこと?」
「ええ」
支障なく答えを返され、信代は啞然とした。
「女性では珍しいわよね」
「そうなのよ」時子は同調した。「結婚した直後で、和彦兄さんを身ごもる前のことだけど」
「お義母さんも
「ええ。でも堤家は跡取りの男の人が未婚のまま夭逝しちゃったのよ。その妹であるお母さんはすでに芹沢気に嫁いでいたし」
義母の生涯のあらましは雅之から聞いたことがある。信代は「そうだったね」と相づちを打った。
「そうしたら」時子は続けた。「堤家では、おじいちゃん一人になっちゃったの」
「親より先に跡取りの息子が亡くなった、ということよね?」
信代の問いに時子は進行方向に向いたまま頷いた。
「そうよ。しかも、うちのお母さん以外におじいちゃんの親族はいなかったの。だから、そのおじいちゃんが亡くなったときに、お母さんがその野辺送りに参加したのよ」
初耳だった。これについては雅之さえ何も口にしていない。
「そして」時子は続けた。「お父さんも自分の父親の葬式で山神様の儀式は経験していたから、お母さんと一緒に堤のおじいちゃんの儀式に参加したそうよ」
無論、その話も初めて知った。流れゆく夜景を横目で見ながら、信代は時子の話に耳を傾ける。
「わたしが子供の頃、お母さんがわたしと二人のお兄さんを前にして言ったの。自分は山神様の儀式に出たことがあるけど、出なくて済むのなら出るもんじゃない、ってね。あんなのは神様なんかじゃない、とも言っていたわ」
「お義母さんはまるで山神様を見たような感じね」
だとすれば山神はいかなる存在のか――信代は尋常でない秘めごとにふれてしまったかのような気がした。
「まさかねえ」と時子は失笑した。
道は右に直角にカーブし、進行方向は南向きとなった。このままな南下して県道に出るのが近道だ。この先の十字路を左折するという道順もあるが、若干迂遠なうえ、葬列に遭遇する可能性があった。
「あら」と時子が声を漏らした。朱川を渡り終えたばかりだった。
その声につられて運転席に顔を向けると、時子と目が合ってしまった――否、時子は助手席のドアガラスの外を見ているらしい。もっとも、運転中であるため、彼女はすぐに正面に視線を戻した。
「今、小さな明かりがいくつか見えたけど、きっと野辺送りね」
正面を向いたまま、時子は言った。
時子に変わって信代はドアガラスの外に目を向けるが、宵闇の中で遠くに街灯が見えるだけだ。月明かりを頼りにしても、葬列の様子を認めることはできなかった。
「もう見えないけど、これって野辺送りに出くわしたことにならないかしら?」
とっさに浮かんだ不安だった。
「大丈夫よ。これだけ距離があるんだもの」
「わたしには、その距離もわからない」
自分を落ち着けるためもあり、信代は苦笑しながら言った。
「そうね……この道と向こうの細道は、何百メートルも離れているわ」
そんな言葉をもらったが、何かに追われているような錯覚や、野辺送りとの遭遇――それらが脳裏に浮かび、一向に安堵は訪れない。
横や後ろに目を向けることだけは避けたかった。正面だけに視線を預ける。
遠くに街灯に照らされた十字路が見えた。信号機はない。十字路の左方向は「葬列に遭遇する可能性がある」という例の道だ。県道はまだ先ということである。
早く本家宅に戻って、熱い風呂に入りたい――そんな欲求が湧いていた。
宵闇の中の時間は、無情にも、止まったかのようだった。
西の闇のはるか彼方――おそらくは西郷の辺りを、車のヘッドライトとおぼしき光が北から南へと流れていった。この界隈の住人ならば、山神を信仰しているか否かにかかわらず、芹沢家の野辺送りがおこなわれている時間であると承知しているはずであり、不要不急の外出は控えるものだ。時子が信代を助手席に乗せて本家宅に戻るところなのだろう、と雅之は推し量った。
啓太はやせてはいたが年の割には上背があった。雅之と同程度のサイズだ。それでも、四人で担いでいるとはいえ、啓太の棺は軽かった。ゆえに肉体的には楽だが、気分は沈む一方だ。父の死そのものの哀惜とは別の感情――その哀惜より大きな罪悪感にさいなまれているのだ。自分のこの役目は、息子として――否、朱を守るためによしとするべきか、もしくは人道にもとる行為とするべきか、判断がつかない。
雅之のそんな心境を知らない紀夫は、野辺送りとその後の儀式に参加できないことに悲憤慷慨している。野辺送り以降の山神の儀式には参加しないほうがよい――との旨を紀夫に何度も訴えたが、どうあっても彼は得心がいかないようだった。わけを知らされていないのだから、当然といえば当然である。雅之としても歯がゆいばかりだ。今も紀夫は、居残った者たちの中で憤懣やるかたない面差しを呈しているのだろうか。
青い月明かりと提灯のオレンジ色の明かりに照らされた未舗装の細道は、ところどころに雑草が生えているものの地面は乾いており、葬列の行進に支障はなかった。とはいえ、フォーマルスーツに合わせたこの革靴は、長距離歩行に適していない。靴擦れの起きないことを、こっそりと願ってしまう。
概ね一秒に二歩、という歩調を司るのは、先導する白衣の綾だ。鈴の音は綾が左足を前に出すごとに鳴っている。
誰もが声を出さなかった。斎主の祝詞もない。それぞれの足音と鈴の音だけが夜の田園にさざめく。雅之を含めた参加者のほとんどが万が一の事態に備えてスマートフォンや携帯電話を持参しているが、埋葬が済むまでは電源は切っておくため、着信音が放たれることはない。おそらく綾もスマートフォンを持っているだろうが、斎主ならこのしきたりを厳守するのは当然だ。何ごともなければ野辺送りに余計な音は入らない、ということである。
鈴の音が一瞬、途切れた。とはいえ進行に乱れはなく、鈴の調子もすぐに再開した。
朱川に架かる細長い木橋があった。その手前の右側、背の高い雑草が群れる中に、一台の自転車が横倒しに放置されていた。南向きの前輪は、タイヤの空気が抜けている。
鈴の音が一瞬だけ途切れた不祥は、これが原因なのだろうか――雅之は懸念を抱いたが、横目で一瞥しただけだ。
七人の歩調に乱れはない。
葬列は淡々と闇の中を進んだ。
芹沢本家宅と臨時駐車場との間の路上で一分ほど待つと、仁志のSUVがヘッドライトをまぶしく輝かせてやってきた。仁志に促されるまま助手席に着いてしまったが、後部座席にすればよかった、と気づいたときには、すでに車は東へと走り出していた。
「梨花が自分から、車に乗せてくれ、だなんて、珍しいこともあるもんだな。そうまでして葛城の弟に会いたいのかあ。わけありだな」
言って仁志は、品のない笑みを浮かべた。
「そんなんじゃないもん」と反論したが、賢人を心配しているのは事実だ。
しかし、憂慮すべき事態はほかにもあった。仁志の運転するクルマに同乗している、というこの状況である。おそらく、本家宅にいる誰もが気づいていない。仮に仁志の車がガレージから出るところを見た人がいたとしても、それ自体は気にもされないだろう。梨花が仁志の車に同乗するなど、思いも寄らないはずだ。それでよかったのか、梨花には判断がつかない。誰かに止めてもらいたいという思いがある一方、賢人の力になるにはこの手段を取るしかないという思いもあるのだ。もっとも、遅かれ早かれ、梨花と仁志が本家宅から姿を消したことは知られてしまうに違いない。もし二人で出かけたことが判明すれば、姦淫だの不道徳だのと叱責されるのだろうか。
「東回りの本山経由で神会へ行く」
仁志は言った。そして彼は、野辺送りは無論のこと、信代や時子らとも行き会うわけにはいかない、という旨も付け加えた。もっともな理由だが、当然のごとく、梨花は不安を抱いた。迂回路を使うため、一時的ではあるが目的地の反対方向へと走るのだ。このままどこかへ連れ去られてしまうかもしれない――などとおびえてもやむをえないだろう。
正面の空に見える月が、青く輝いていた。静かに見下ろすそれは、梨花の不遇をまるであざ笑うかのごとくだ。
道順を告げて以来、仁志は黙してハンドルを握っていた。嫌がらせを聞かされるのは避けたいが、隣で沈黙されるのも妙に落ち着かない。
先ほど、賢人との電話の最中に声をかけてきた仁志は、「これから山神の斎場へ行って、火葬祭がどんなものか見極めてやる」と息巻いた。そのうえ彼は、梨花の電話の相手が賢人であると端から気づいていたらしく、「葛城の弟に、山神の広場の東にある小さな空き地で待っていろ、と伝えろ。野辺送りの邪魔をしても意味はない。火葬祭で何をするのか、その現場を自分の目で確かめたうえで……それが非合法であると判断したうえで阻止するんなら、自分の正当性を主張できるはずだ」と訴えたのだ。
電話の向こうで仁志の言葉を聞いていた賢人は、梨花が言づけるまでもなく、賛意を口にした。仁志の意見だからなのか濁した言いようだったが、よほど追い込まれていたらしく、即答に近かった。もっとも、梨花が自分も同行するという旨を伝えると、さすがに賢人は反対した。
賢人に反対されて躍起になったのは事実だ。おかげで今は、こうして仁志の隣にいるのである。
それにしても速度が出すぎているような気がした。速度計を見ると、時速六十キロ強だった。この道幅にそぐわない速度である。今のところ歩行者もほかの車も見当たらないが、事故を起こしてからでは手遅れだ。市街地と比較すれば少ないとはいえ、道沿いに民家が点在している。歩行者が不意に現れても不思議ではない。
「仁志くん、あの……」
梨花がもじもじと注意しかけたとき、仁志がウインカーを左に出してSUVを左折させた。
「ん……なんだ?」
正面を向いたまま、仁志が尋ねた。
狼狽した梨花は「ううん、なんでもない」と首を横に振る。
「まあいいけど……ところでさ、葛城の弟……賢人のやつも、野辺送りをどうにかしようだなんて、山神の正体が気になっていたってわけだよな?」
その問いは的外れだが、どうしても答えられなかった。綾が何かしらの罪を犯す可能性がある、という問題なのだから「わかんない」とだけ返しておいた。
「わかんない? 状況からして、それはうそだな」
しかし梨花は、黙してうつむいた。今は、この男の驕慢な態度にあらがえない。
「あいつはうちの野辺送りを止めようとしていたじゃないか。尋常じゃないぜ。山神信仰について、何か知っているはずだ」
「でも賢人くんは、自分のお父さんにも綾ちゃんにも山神様のことを何も教えてもらえないんだよ」
せいぜいがんばって、この程度の言い繕いだ。ならば口を閉ざしておけばよかったのかもしれない、と悔いる。
「それだからだよ」仁志は梨花に一瞥もくれずに言った。「この朱に住んでいて生半可に山神信仰を知っているやつらはな、誰だって気になっているんだ」
確かにそうなのだろう。事実、賢人は峠の見晴らし台で、「山神の斎場に行った」と梨花と綾に打ち明けていたのだ。
「昔からおかしなことばかりだった」仁志は続けた。「あんな場所で火葬祭だなんていうのも変わっているけど、野辺送りとそのあとの儀式に参加できるのは、親族の中でも限られた者か、あるいは参加した経験のある者だけ、っていうのも妙だ。しかも今回の儀式では、立会人が今までの職員とは違う」
「立会人が変更されたのは、たまたまなんじゃないかな。斎主だって綾ちゃんのお父さんから綾ちゃんに変わったけど、それは綾ちゃんのお父さんが体調を崩したからだった」
「斎主が変更となったいきさつは、おやじから聞いている。でもな、立会人の変更はどうなんだ? じいちゃんの葬式があるとなった直後に配置転換があって、それで立会人が変わっちまったということだぜ」
「え……」と梨花は声を漏らした。そんな事情があったとは知らなかった。
「そもそもこの辺のやつらは……特に儀式に出たことのあるやつらは、どいつも山神を恐れている。異様なくらいにな。それが一番の謎だ」
そのとおりなのだ。仁志の言葉は的を射ているだろう。同調はしたくないが、梨花は無言で小さく首肯した。
やがて、東西に延びる道に突き当たり、仁志は愛車を左折させた。取り合えずば目的地に向かっているらしい。とはいえ、不安が払拭されたわけではない。禁忌の場所――山神の斎場へと赴かなければならないのだ。
SUVは一路、夜の集落の中を西へと走った。
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