第18話 血塗られた過去!

ドタドタドタッ!


アレクは物音で目を覚ました。周囲は薄暗く、まだ夜明け前だ。ゆっくり起き上がる。幼いアレクには何が起こっているのか分からなかったが、いつもと違う何かが起こっているのは分かった。


行かなきゃ。


何故かそう思ってしまう。アレクが立ち上がり、扉に向かおうとしたその時、扉が開かれた。


「おじいちゃん!?」


そこには血相を変えたジョージが立っていた。彼もまた、いつもと違っていた。その服は何故か赤く染まっており、ポタポタと床に赤い何かが落ちている。


「油断した。早くアレクを逃がさねば!」


その様子を見たアレクが心配になり、ジョージの側に行く。ジョージの肩に触れるとぐっしょりと濡れていた。これは……血……?


「おじいちゃん!大丈夫?」


「こんなもん……平気じゃ……。それよりも……ソフィが……時間を稼いで……くれている……間にお前を逃がす」


ジョージは肩で息をしながらそれだけ言うと、アレクの両肩に手をやり、魔力を高めていく。


「い、嫌だよ!おじいちゃん達と一緒がいい!」


「我が儘を言うな……これからお前には辛い事があるかもしれん……ごほっ、ごほっ……。だがな、諦めるんじゃない……お前は――」


目映い光がアレクを包み込む。ジョージの後ろから、何者かが階段を上がってくる音がする。その人影はすぐに現れた。


「居たぞ!ガキだっ!」


アレクを見て、即座に魔法を使おうとするが、ジョージの魔法の方が早かった。


「生きろ――」


――瞬間移動テレポート――


ジョージの魔法が発動し、アレクが部屋から消えた。


(アレク……元気でな)


ジョージは心の中で言う。もう声も出せないだろう……。最期にアレクを逃がす事ができた。それだけで良い。もう何も――


「死に損ないのくそじじいが!余計な事しやがって!」


その人物はジョージに止めをさし、息絶えたジョージを何度も、何度も蹴りつけて叫ぶ。


自分達の仕事が――の暗殺が失敗した。


「お頭、どうしやすか?」


「いや、バレなきゃいいんだ。火を付けてずらかるぞ!」


「アレックスは今、ここで死んだ。いいな?」


……


…………


その日の早朝、森が焼ける大火事があった。魔法師団が派遣され、火事は発覚から2時間足らずで鎮火する。森の中にあった小屋からは身元不明の骨が3見つかった。



その頃アレクは知らない部屋にいた。怖くて身体が震える。今でも何が起こったのか分からない。ただ、おじいちゃんが……。


ここに来てどれだけの時間が流れたのだろう?朝日が昇り、1人の女性が姿を表す。割烹着姿の女性はアレクを見ると、目を丸くしてアレクの顔を覗き込む。逃げなきゃ――


「おや?あんたは……アレックス?いや、アレクかい?」


アレクは名前を呼ばれ、きょとんとしながら顔を上げ、その女性を見る。優しい雰囲気はおばあちゃんに似てる気がする。


「ジョージとソフィ……いや、おじいちゃんとおばあちゃんは?」


「おじい……う、うわあぁぁぁーーん!!」


おじいちゃんと言われ、先程のショッキングな場面がフラッシュバックする。泣き出すアレクを見てミライズは全てを悟った。ミライズはアレクを抱き締める。


「怖かったね、でも大丈夫」


の時が来たんだね……。ジョージ、ソフィ、この子は私が守るからね――


――リアライズ――


泣いているアレクを撫でる。その手でソフィ直伝の魔法を行使した。アレクの記憶を読み取り、悲しい記憶を封印する。持っていたハンカチでアレクの涙を拭くと立ち上がり、言う。


「アレク、おいで。ここが新しいおうちだよ。皆に挨拶をしよう」


ここは孤児院――明るい未来園。ここからアレクの新しい生活が始まる。孤児院の友達と共に――

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