第12話 羞恥の競技大会


多数の来賓や観客が集う中、学院生徒全員が闘技場に集合している。いよいよ夏季魔法競技大会が始まるのだ。


学院長の挨拶に、生徒会長の選手宣誓、次々と開会式のプログラムが進行していく。アレクは緊張と絶望で胸が張り裂けそうな思いだったが、容赦なく開会式は終わりを告げるのだった。


生徒達が一旦退場し、観客席へと移動する。教師達が魔法で大地を隆起させ、水を張ってステージを作りあげていく。ドライビング・ボートの即席競技用プールだ。いよいよ初日の競技が始まる。今年のトップバッターはガーネットの策により、アレクとなっていた。5人分のステージが完成し、選手の名前が呼ばれる。


「アレク!」


名前を呼ばれたアレクはステージの上にあがり、プールに設置されたボードへと乗り込む。次々と名前が呼ばれ、5人の選手がボードに乗り、準備を整える。


全員の準備が整ったのを確認した審判はスタートの合図をする。右手に持った赤い旗を掲げ、振り下ろす――スタートだ。


各々の選手が水や風の魔法を使い、スタートしていく。無論、アレクもスタートなのだが、一向に進む気配がない。


10秒……


20秒……


30秒……


他の選手は順当に折り返し地点を通過していく。


40秒……


50秒……


アレクの組で1位の選手がゴールする。2位、3位と続いてゴール。やや遅れて4位までがゴールした。アレク以外の全員がゴールし、プールのボートの上で一人残される。来賓や観客、生徒達がアレクに注目していた。中にはどうした?なぜ動かない?と言った疑問を浮かべる人もいれば、あれがゼロ点の生徒か、競技なんか出なくていいのにと言った中傷的な言葉を投げる人もいる。


魔法が使えない事は自分が一番よく分かっている。競技に出場するのが好ましくない事も。そして、こんな情けない姿を観衆に曝さなければならない自分にも嫌気がさす。あの時退学を選択していればこんな事はなかった。そう思わずにはいられない。


怪我や特別な事情がなければ、棄権は許されない。故に彼は、制限時間いっぱいまで、この羞恥に耐えなければならないのだ。そう、これこそがガーネットの狙いだった。制限時間が競技をあえてのだ。アレクが長く苦しむために。


そして、長い3分間が経ち、アレクの失格が言い渡される。ボートを降りると彼は一目散に会場から立ち去った。


その姿をミゼット達は面白おかしく笑って見ていた。その姿も一部の人間にははっきりと映っていた。


1年の部が終わり、優勝者が決まる。そのまま続けて2年、3年、4年生と競技が進みドライビング・ボートは終了し、1日目が終わった。



「お父様。あの方です」


ドライビング・ボート、1年の部、初戦。競技大会が進行する中、来賓席に座る男性の隣には制服を着た女性が居た。


娘に言われ、を輝く金色の眼で


魔法を発動しようと、魔力を集めては霧散させる。それを繰り返す。彼は使と言っていた。魔力の流れに問題はない、とすると――


「確かに、お前の思う通りだ。しかし、あれだけ高度な……。俺にはどうする事もできない。それに、もし彼がだとして、それを公表するのはまずいな」


彼に施された封印魔法は非常に高度な魔法で、自然な魔力の流れを阻害しない代わりに、魔法へ変換する魔力を自らの封印魔法の糧とする。結果、魔力が足りなくなった魔法は発動せずに霧散する。では魔力が不足しないように大量に込めれば魔法は使えるのか……。否、同じく魔法に変換される際に以外は霧散してしまう。そして、その変換機能がもしくは魔法使いは魔法をする。


「しかし、あれからもう7年……。いや、もうすぐ8年か。お前の魔眼に影響するほどの魔力を放出しているとなると、いつ破れてもおかしくはないな……」


いくら高度な魔法でも5年も経つと劣化するものだ。今でも封印魔法が効力を保っているのは彼の魔法力を供給する方法で封印魔法が施されているからだろう。話し相手の返事を待たずに、彼は続ける。


「今は魔力の制御ができているようだが、アレが暴発すると手に負えなくなる。唯一対抗できる大賢者様もすでにいない。」


大賢者とはかつて魔法師長を務め、英雄となった一人――ジョージ・ブライトの事だ。彼は7年前の襲撃事件の折に帰らぬ人となってしまっている。そして、が生きているとなれば、国の一大事に関わる案件だ。それを察してか知らずか、娘は尋ねてくる。


「ライゼン殿下へはお知らせに?」


「一応報告だけしておこう。それで、お前は……その……」


今まで堂々としていた男は急に歯切れが悪くなる。それに対して、少女ははっきりと答える。


「もし、なら8年前の約束を果たそうと思います」


「そう……か。それも含めて伝えておく。話は以上だ。戻りなさい」


「わかりました」


少女はお辞儀をすると、来賓席から去り、ゆっくりと同級生の元へ帰って行く。その姿を複雑な心境で見つめる男――カイン・ブラウンは深く腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がる。


(いざというときは――)


来賓席の階段を登り、最上階にいる殿下の元へ歩み寄っていく。


(目覚める前に彼を始末しなければな――)

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