第13話 アレクの魔法!
競技大会2日目はミゼットが参加する【マルチ・ターゲット】が行われたが、彼が優勝することはなかった。目ぼしい試合はなく、事件が起こったのは続く3日目だった。
競技大会3日目。今日はスクエア・ブレイクの開催日だ。観客は昨日より多く入っている。
「そりゃーそうだろ。今日は生徒会長が参加するんだからさ」
生徒会長であり、第一王子でもあるエドワードは学院一番の魔法使いである。その力を一目見ようと、各地から観戦に訪れる人が多い。さらに、来賓席には現国王の姿もある。
1年生から競技が始まる。選手達は順番に、様々な魔法を駆使して柱を破壊していく。1年、2年と競技が終わり、各学年の優勝者が決まった。そして、3年の部が始まる。
その最後に彼は現れた。金髪の少年で今日の観客のほとんどが彼を見に来ているようなものだ。レグリット王国第一王子――エドワード・レグリット――
入場してくる時も笑顔で観客たちに手を振りながら歩いている。所定の位置につくと、杖を構える。開始の合図と共に彼の詠唱が始まった。
「水は大地の恵、風は大地の癒し。天を支配し、轟く稲妻は槍の如し。貫け、
空気の流れが変わったと思うと、空に黒い雲が生成され――
バチッ、バチバチ
ズゴゴゴゴゴッ!
雷鳴と共に岩の柱へ雷が迸る。そして、一瞬のうちにすべての柱が破壊された。パフォーマンスを含めても十二分に存在感をアピールできただろう。観客席からは「おおー」と歓声があがる。彼が使った魔法――
アレクは観客席でその競技を見ていた。エドワードが放った
「っ!?」
突然の激痛に意識が遠退いていく……。隣でレイが呼んでいるが、返事ができない。
アレクはそのまま意識を手放した。
◇
「……レク……」
誰かが呼ぶ声がする――。レイ?
「アレク!」
アレクの意識が現実に戻ってくる。頭を抑えながらゆっくりと起き上がった。目の前にいるのは――
「お、起きたか。アレク、飯が終わったら今日も魔法の練習に行くぞ」
「わかったよ。おじいちゃん」
寝床から起き上がったアレクはそのまま1階に移動して顔を洗った。食卓からはいい匂いが漂ってきており、食欲をそそられる。アレクはおじいちゃん、おばあちゃんと共に朝食を取ると、早速、おじいちゃんといつもの丘に向かって出発するのだった。
「えーと。魔力を高めて――」
アレクの体から魔力が溢れてくる。水の玉を作るイメージで……
「水の流れを撃ち放て
アレクが詠唱し終わり、魔法が発動する――。
「やった!」
アレクは魔法が使えた事に喜び、はしゃぎ始める。それを見たジョージはアレクに近づき、その頭を撫でた。
「よくやった。流石アレクじゃ」
おじいちゃんに褒められて上機嫌になったアレクはもう一度魔法を使おうと一本の木を見つめる。先ほどと同じ魔法――
放出された魔力の奔流は大気を満たし、上昇していく。その様子を見たジョージは危機を覚え、すぐさまアレクに言う。
「い、いかん。アレク、魔法を止めるのじゃ」
「えっ……。でも……」
突然言われても魔法の止め方なんて知らない。半ばパニックの状態になったアレクの魔力はそのまま暴走を続け――
バチッ!バチバチッ!
ズゴーーンッ!
目標にしていた1本の木に雷が直撃した。木が炭と化し、木の葉が燃え上る。雷はその1発では終わらなかった。次々と森の木々に直撃し、発火させていく。もはやアレクに魔法の制御ができないのは誰の目にも明らかだ。ジョージはアレクの後ろに回り込み、後頭部を一撃。それで気絶させる。意識を失った事で、アレクの魔力放出は収まるが、森はあちらこちらから火の手が上がり、ひどい惨状になっていた。
(封印を1割解放してみただけでこれ程か――)
「水は大地の恵、風は大地の癒し。天を支配し、勇猛たる水は豪雨となり、津波の如く大地を流す
ジョージが放つ魔法により、森に雨が降りだす。雨風が次第に強くなり、嵐が吹き荒れる。森が浸水し、消火が確認できた時点で彼は魔法を解除する。後に残ったのは焼け落ちた木々と濡れた大地、そして気絶したアレクだけだった。
ジョージは気絶したアレクを抱えると、足早に家に帰った。家に戻ると事のあらましをソフィに話し、アレクを寝室に運ぶ。布団に横たわらせたアレクの腹部を開き、魔力を流し込む。
――封印魔法――マテリアル・チェイン――
アレクの腹部に魔法陣が浮かび上がり、解除していた1割の部分が閉じていく。これにより、アレクはまた
余談だが、アレクの魔法力は膨大すぎて、魔力を封印するのは不完全で非常に効率が悪かった。そこで、魔力を封印せず、魔法に変換する部分を封じる事で魔法の発動を防ぐ手段を取っている。
「ふう……」
封印が終わると額から流れる汗をぬぐいながら一息つく。ジョージは先ほどの大魔法に加え、封印魔法と立て続けに魔力を消耗していた。いくら世間から大賢者と呼ばれても使える魔力には限りがあるのだ。
「頼む」
ジョージはソフィに場所を譲りながら、一言だけ伝え、そのまま仰向けに倒れる。1割とはいえ、アレクの魔力を抑え込むのにかなりの魔力を消費したのだ。
「ええ」
ソフィは短く答え、アレクの額に手を乗せる。
――リアライズ――
ソフィの魔法でアレクの記憶から今日1日の記憶を封印する。穏やかに眠るアレクの横顔を見ながらジョージが呟く。
「これでもうしばらく一緒に居られそうじゃな」
アレクの返事はない。
「もう少し、魔力の制御ができるようになるまで魔法はお預けじゃな。アレク――」
その声は彼には届かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます