第11話 魔法が使えない理由!

あれから数日後、すっかり気温が上がり、教室の雰囲気も夏服に変わり、涼しく思える。魔法競技大会が差し迫る中、アレクは先程配られた自分の魔力測定の結果を見ていた。


魔法力 E

魔力量 E

属性 火E 風E 水E 地E 聖E


魔力測定の結果はSからEまでの6段階で評価される。中には強大すぎてSを超えるSSやSSSといった結果が出る者もいるが、それをひっくるめて最高はSだ。逆に最低はE……。つまり、アレクの結果はの結果だ。特に、属性オールEというのは極めて珍しい。例えば、火が得意な者は水が苦手な傾向にあるし、風が苦手であれば地が得意になるという傾向にある。つまり、相対する2つの属性がどちらも低い、どちらも高いという結果はあまり見かけない。


「アレクはどうだった?」


「オールEだってさ。じいちゃんには悪いけど、才能がないのかなってつくづく思うよ。それより、お前はどうなんだよ」


アレクが学院にいるのはおじいちゃんの言葉を信じているからだ。その言葉を信じて4ヶ月間頑張ってきたが、ここまで魔法が使えないとかえって不安になる。


「じゃじゃーん!」


魔法力【D】

魔力量【C】

属性【火E、水C・風D・地E】


「魔力量と水属性がCだぜ!卒業する頃にはAまで上がったりしてな」


レイは自分の才能に目を輝かせ、自慢してくる。その姿に羨ましいと思う反面、少しうんざりだった。そのせいで、背後に迫る人物に気づかない。


「無能くんはすべてがE判定だってさ」


アレクの後ろから彼の結果を盗み見た人物はいつもミゼットのグループにいる奴だった。結果を確認するなり、ミゼットの元に帰っていく。ちなみにとはアレクの事だ。試験結果の翌日からミゼット達とガーネットからそう呼ばれるようになった。


「やっぱりEランクだってさ」

「ははは。魔法が使えない無能だな」


いつも気にしないようにしているが、こいつらの絡みもいい加減うんざりしている。このクラスではミゼットの影響力が強く、彼に逆らおうとする人間はいない。今ではクラスの7割がミゼットに従っている。さらに、職員室の一件から担当教師であるガーネットからも嫌がらせを受けるようになっていた。最近では授業の教室が変更になった事を伝えられなかったり、競技会の出場種目を決められていたりした。


授業開始の鐘が鳴り、教師が入ってくる。授業中だけはミゼット達を気にせずに済んだ。



放課後、アレクはレイと別れ、一人でプールに来ていた。アレクが参加する【ドライビング・ボート】の練習のためだ。もちろん、アレク以外にも何人かの生徒が練習をしている。プールにボートを乗せ、それに乗り込んだアレクは知っている魔法を詠唱していくが、どの魔法も発動せず、前に進まない。やる前から分かっていた。しかし、競技会当日は多くの来賓や観客が訪れるため、それまでになんとか魔法を使えるようになりたかった。そんなアレクを見かねてか、一人の少女が話しかけてくる。


「こんにちは。練習、上手く行ってないみたいですね」


いつか見たプラチナブロンドの髪で、きれいな金色の瞳が特徴的な少女だった。


「あ、はい。えっと……貴女は……?」


「トゥナ・ブラウンです。となとお呼びください」


少女はお辞儀をしながら名乗った。その名を聞いて、見覚えがある生徒だと思っていた事に合点がいく。学年1位で、新入生代表で挨拶をしていた人だった。


「一応、初めまして……ですね?」


少し困惑気味な顔でアレクを覗き込んでいる。アレクもどうしてこんな人物が自分に話しかけてくるのか分からず、戸惑っていたが、何も返さないのは失礼だと思い、返事を返す。


「あ、アレクです。こちらこそ、学年1位のトゥナさんに声をかけてもらえるなんて」


!」


トゥナがやや声量を上げてそれだけ言う。その整ったきれいな顔がわずかに膨れて見える。


「とな……さん……」


「まぁ……それでいいです」


トゥナが渋々といった感じで納得する。


「それで?先ほどから魔法を使おうとしていますけど、どうして魔法をんですか?」


トゥナにそう指摘される。ではなく、。これが何を意味しているのかアレクには分からなかった。なぜなら、彼は魔法をとしているのにのだから。


アレクが首をかしげるのを見て、トゥナも首をかしげる。トゥナがいた限りでは、先日のような魔力が溢れ出るような事はなく、魔力の流れはきれいに。しかし、魔力を魔法に変換する行程で、魔法に変換せずにそのまま放出していたのだ。放出された魔力はそのまま霧散していく。


「どういう……意味ですか?」


アレクに魔法を発動させないような意思はない。全く身に覚えがない話だったのだ。混乱する頭が、ようやく絞り出した言葉はそれだけだった。


「貴方ほどの魔力があれば魔法なんて簡単に使えるでしょ?」


そんな事は知らない。実技試験の結果は0点、魔力測定の結果もオールEという極めて珍しい結果だったのだから。トゥナも彼の試験結果は知っている。職員室での一件でしまったからこそ彼に興味を持った。彼がどんな魔法を使うのか気になっていたのだ。相当な訓練をしているのは分かる。あれほど膨大な魔力を、行使する魔法に合わせて制御し、適切な魔力を流す事ができているのだ。後は魔法に変換するだけ――なのだが、彼はそれをしない。


「それが……。魔法が使えないんです。魔力測定も全部Eだったし、となさんの励ましは嬉しいですけど、ほんと才能がないんで」


「わかりました。今はそういう事にしておきましょう。少し用事を思い出したので、これで失礼します。いずれまたお話しましょうね」


アレクの前にしゃがんで座っていた彼女は立ち上がると宿館の方に向かっていった。


「なんだったんだ……?」


アレクの頭には?マークが浮かんでいた。そのまま練習に戻る事も出来ず、アレクも宿館に戻っていくのだった。

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