第6話 試験の末に待つもの!
試験が終わり、ギスギスしていたクラスの雰囲気も少し落ち着きを見せていた。試験結果は本日の正午、各学年の廊下にある掲示板に貼り出される予定になっている。その関係で、成績に問題ない生徒は午後から休みになるが、問題がある生徒は補習が待っているそうだ。
「筆記はさっぱりだったからな……」
レイが不安そうにつぶやく。他の生徒はすでに教室から廊下に移動していたが、混雑するのがわかっているので、2人は教室に残っている。彼は座学が苦手なので、補習は避けたい様子だった。アレクは相槌を打って答える。なぜなら自分はほぼ
「お前はどうなんだよ」
レイはアレクの態度が気に障ったのか、眉にしわを寄せて確認してきた。聞かれたには答えるしかない……。俺は覚悟を決めて答える。
「筆記はともかく、実技がね……」
そう。試験は筆記と実技だ。魔法が使えないアレクにとって、実技の点数は知れている。補習は免れないだろう。
「そ、そうか……」
レイもそのことを察したのか、静かになる。普段元気なレイが、そこまで静かになると逆に気まずい。このままでは間が持たないので、アレクは立ち上がり、レイに言う。
「行こう」
「お、おう」
2人は教室を後にし、廊下に出る。1年生の掲示板はA組とB組の間にあり、そこにはまだ20人程残っていた。ほとんどの生徒が喜びや驚きを隠せずにいる。自分以外の成績も確認しているようだ。俺たちも近くに移動し、2人はそっと掲示板を覗き込む。
学年1位 A組 トゥナ・ブラウン筆記296点 実技200点 総合496点
学年2位 A組 ルカリス・ブルー 筆記288点 実技200点 総合488点
学年3位 A組 ノエル・アーサー 筆記282点 実技200点 総合482点
学年4位 A組 アリーシア 筆記284点 実技180点 総合464点
学年5位 A組 ミーナ・ブラウン 筆記262点 実技200点 総合462点
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学年28位 D組 ミゼット・グリーン 筆記188点 実技160点 総合348点
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学年58位 D組 レイ 筆記148点 実技100点 総合248点
学年59位 D組 リア 筆記206点 実技40点 総合246点
学年60位 D組 アレク 筆記240点 実技0点 総合240点
※筆記300点満点、実技200点満点
※成績優秀者は後日、バッジの授与を行う
※90点未満、実技60点未満の者は補習を受ける事
筆記の点数は良かった――と言うより、クラスでトップの成績だった。しかし、実技に関しては……
―― 実技 0 点 ――
「はぁ…」
アレクはため息をつく。自分には魔法の才能がなかったのだと思い知らされる。しかも、この成績は掲示板を通して全校生徒に公表される事になるのだ。
「俺はなんとか補習回避できたぜ。お前はどうだった?」
隣のレイは喜んでいる。自分の結果しか見ていないようだ。見れば分かる事をわざわざ聞いてくるのは少し嫌味にも感じてしまう。
「実技……補習だって」
「そ、そうか……」
それを聞いたレイは少し気まずそうに返す。喜びに水を差して悪いとは思うが、今はそれどころではない。補習――魔法が使えないのに補習も何もないだろう……。
「と、とにかく。食堂行こうぜ」
レイはアレクの手を引き、その場から遠ざけるのだった。
◇
その日の午後、アレクは訓練場に居た。隣には担当教師のガーネット。
「お前……真面目にやる気あんのか?」
補習を始めてすでに2時間が経過しているが、一向に魔法は発動していない。アレクからすれば『お前こそ真面目に教える気あんのかよ』と言いたい所だが、それは口にできなかった。
「俺の顔に泥を塗るどころか、仕事まで増やしやがってさ」
仕事と言ってもただ見ているだけだ。ガーネットは不満そうにアレクの様子を見ている。C組の補習者は3名――いずれも実技が60点に満たなかった者だ。しかし、現在訓練場に残っているのはアレクただ一人だった。
「もういいぞ。何度やっても結果は同じだろうからな」
これだ。残りの2人も補習終えたわけではなく、諦めて宿館に戻っていったのだ。だが俺は、ここで終わるわけにはいかない――じいちゃんのためにも――
「まだ……やれます……」
アレクは諦めない。しかし、ガーネットはすでに我慢の限界だった。彼にとってアレクという存在は底辺の底辺で教える価値などない。にも関わらず、担任だというだけでこの場に駆り出されているのだ。
「いいか?実技0点。つまりお前には魔法の才能がない」
ガーネットの口から改めて事実を告げられる。そんなはずはない。だって、おじいちゃんは――『お前には魔法の才能がある――』そう言われた事を思い出す。
「ま、まだ3ヶ月じゃないですか。これから魔法が使えるようになる可能性だって十分にあると思います」
おじいちゃんに言われた事を馬鹿にされたような気がして、つい反論してしまう。しかし、それを聞いたガーネットはさらに不機嫌になる。
「お前、もう学院やめろよ」
ガーネットの言葉がアレクを追い詰める。額から汗がこぼれる。頭によぎるのは退学の2文字――。ガーネットは止まらない。容赦なく続ける。
「このままここに居ても得る物は何もない。お前には魔法の才能がないんだからな。いいか?このまま卒業でもしてみろ、魔法を使えない無能の教え子なんて社会に出てまで俺の顔に泥を塗るつもりか?」
「そ、そんな……。俺は魔法が学びたくて……」
「何度も言わせるな。お前に魔法の才能はない。俺も暇じゃないんんだ。今日はもうしまいにして部屋に帰れ。退学手続きは分かるな?もう二度と俺の前に姿を現すなよ」
それだけ言うとガーネットは去っていく。その姿を見ながらアレクはしばらく立ち尽くす。これからどうすればいいのか、退学しか道は残っていないのか――。
◇
アレクがガーネットに退学しろと言われたその日の夜――。2人の教師が作業をしていた手を止める。
「これはどういう事だ?」
「さあ……私にも分かりかねます」
先日、試験最終日に行われた魔力測定の結果を確認していた教師が1人の検査結果を見ていた。魔力測定は
専用の魔法具に魔力を流し込む事でその者の魔法力――魔力を魔法に変換する力、魔力量――魔力を有する器の大きさ、得意属性――各属性魔法の優位性を調べる検査だ。
記録は専用の用紙に魔法で刻まれるため、検査後に教師達が確認して生徒達に結果を通知するようになっている。こちらは試験の結果と違って、将来にまで影響を及ぼす可能性があるため、一般的には公表されない。
「きっと装置の故障か何かでしょう」
「では改めて測定するように該当生徒に通達しましょう」
「いや、担当教師の話だと、退学する予定の生徒らしいから、適当な数値に直して提出したんでいいだろう」
「わかりました――」
こうして、
1年D組 アレク 10歳
魔法力 ≪判定不能≫
魔力量 ≪測定不能≫
属性優位 ≪測定不能≫
と――。
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