第7話 過去か夢か幻か!

「おじいちゃん…。魔法なんてちっとも使えないよ」


小高い丘の上にいるのは幼いアレクと白髪のおじいちゃんだ。2人は毎日、この丘に通って魔法の練習をしている。とは言っても、アレクが魔法を使えた事は一度もなかった。


「ははは。アレクよ、魔法とは使えるだけでは駄目なんだよ。どんな強大な力でも、きちんと制御しないと大変な事になる」


「でも……。何も起こらないのはつまらないよ!おじいちゃんの魔法を見せて」


アレクはおじいちゃんに甘える。おじいちゃんは満更でもない様子で杖を構えた。


「よーく見ておくんだよ。水は大地の恵、偉大なるその力で大地に潤いを与えよ水の慈雨アクア・レイン


大気の流れが変わり、雲が集まってくる。雲はアクア達のいる丘の前方を覆い尽くすほどに広がり、優しい雨が降り始めた。天候を変化させる魔法は上級魔法よりさらに難しく、超級魔法とされている。習得難度もSを超えるSSランクだ。魔法力、魔力量共に高く、想像力が強い魔法使いでなければまず成功しない。


「凄い……」


優しい雨が降り続け、綺麗な虹をかける。おじいちゃん――ジョージはその昔、宮廷魔法師長まで登り詰め、おばあちゃんや他の人とパーティを組んで魔王を倒し、英雄となった一人だ。


「どんな魔法使いも初めから魔法を使える奴なんておらん。まあ、1人の例外を除けばだがな。多くの魔法使いは日々地道な訓練を積み重ね、努力して偉大な魔法使いを目指すんだ。アレク、お前はどうだ?」


おじいちゃんが少し凄みを含めて話す。アレクのキラキラとしたの瞳がおじいちゃんを見つめていた。


「僕もおじいちゃんみたいに偉大な魔法使いになりたい!」


「じゃあ頑張って練習するんだ。お前には魔法の才能があるんだからな。いずれ儂をも超える……な?」


「うん!」


幼い頃のアレクは純粋だった。再び、魔法の練習を続ける。今後もおじいちゃんの言葉をひたすら信じて魔法の練習に明け暮れる事になるのだ。


「ジョージ、アレク。夕飯の準備が出来たから帰っておいで~」


風に乗っておばあちゃんの声が聞こえた。言われてみると、少しお腹が空いたような気がする。


「お、ソフィが呼んでるぞ。アレク、家まで競走するか」


そう言っておじいちゃんは家に向かって駆け出す。


「あっ、ずるい!待ってよ~」


おじいちゃんに続いてアレクも駆け出す。降っていた雨はすっかり止み、虹も消えていた。後には雲ひとつない、綺麗な夕焼けが彼らを見守っているのだった。



「ただいま~」


「おかえりなさい」


アレクが元気に扉を開き、2人が帰宅する。アレク達が住んでいるのは森の中にある小さな小屋だが、小さい割に2階や地下室まである少し変わった家だ。


家の中は台所と居間があり、階段の他に部屋が2つある。トイレと洗面所だ。もちろん水洗なんて便利なものはなく、おじいちゃんやおばあちゃんが水魔法で溜めた水で流している。身体を洗うのも、温めた水を桶ですくい、流す程度だ。


食事を済ませた3人は身体を洗い、床につく。寝床は2階で、僕が奥にある小部屋、おじいちゃんとおばあちゃんは手前の部屋だ。疲れていたのか、アレクは横になるとすぐに眠ってしまった。


「眠ったか……」


ジョージはアレクが眠ったのを確認して部屋の扉を閉める。そして、ソフィアの隣に腰をおろした。


「もう半年になる……。そろそろ試してみようかと思うんだが……」


「そうさね……上手く行けば……」


「アレクと別れるのは寂しいが、仕方ないだろう?」


ソフィアの瞳に涙が溢れ、ジョージが引き寄せる。あの子のためにもそれが一番なのだから――

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